国内のIT人材が不足している昨今、リソース確保やコストカットの面などからオフショア開発が注目されています。しかし、海外の企業とやり取りする関係上、円安の影響は避けられません。2022年からはじまった円安は、ウクライナ戦争やアメリカの金利上昇策などが原因で進行してきました。
2024年6月26日には、一時1ドル=160円39銭を付け、1986年12月以来、37年半ぶりの円安ドル高水準よなっています。
この記事では、円安によるオフショア開発への影響やオフショア開発の傾向などを解説します。オフショア開発会社の選び方や、オフショア開発における注意点なども解説しているため、参考にしてみてください。
オフショア開発とは?
オフショアとは、国内よりコストが安い海外の開発企業や現地法人に、自社の業務を委託・移管することです。特にIT業界においては、ソフトウェアの設計・開発やインフラ構築、運用保守などを委託・移管することをオフショア開発と呼びます。
従来は中国への委託が一般的でしたが、政治的、経済的、社会的な事情から起こるカントリーリスクを考慮して撤退する企業が増えています。そして、新たなオフショア開発の委託先として注目されている国がベトナムです。
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オフショア開発のメリット
オフショア開発にはさまざまなメリットがあります。以下は、代表的な2つのメリットと、それぞれの詳細です。
コストカットにつながる
オフショア開発を行うことで、開発のコストカットにつながるのがメリットです。国内ではIT人材が不足しているうえに、人材を確保しようとすると人件費が増してしまいます。
しかし、人件費や事業コストの安い国で開発をすれば、人件費を抑えて開発にかかるコストを下げられます。特に10人、20人とまとまった人数の開発組織を作ろうとした場合、日本国内でエンジニアを採用したり、SES(System Engineering Service)で人材を確保するのに比べ、コストメリットを出すことができます。
人材を効率的に確保できる
日本では、企業の需要に対してIT人材の数が不足しており、企業間で人材の取り合いが発生しています。特に、高い技術が求められる案件では、人材不足はより顕著になっています。転職サイトDODAが発表しているエンジニアの求人倍率は、年々上昇しており2024年5月の転職求人倍率は、11.02%となっています。このような状況で、エンジニアを社員として採用するのは、採用コストが掛かるだけでなく、時間も労力も必要になります。
特に、まだ世間に名の知られていないようなスタートアップが、エンジニアを採用するのは困難です。サービスを拡張しながら資金調達をし、PMF(Product-Market Fit)のステージにあるシリーズB以降のスタートアップは、IPOに向けてよりスピーディな開発が求めれていきます。そのための資金も調達できている状態なので、コスト削減のためというより、市場ニーズを満たすための開発をどこよりも早く実現するために、オフショアのリソースが活用されています。
オフショア開発なら、日本に限らず世界規模で人材を探せるため、企業の選択肢が広がり、人材の確保が容易になります。このように近年では、コスト削減よりリソースの確保のために活用される機会が増えています。
円安によるオフショア開発への影響
円安によるオフショア開発への影響は少なくありません。ここからは、具体的な影響とそれぞれの詳細を解説します。
海外IT人材の人件費が高騰
円安によって相対的に日本円の価値が下がると、海外で人材を雇うための費用が上がります。オフショア開発のメリットである人件費の節約効果が弱くなり、減益にもつながりかねません。オフショア拠点のベトナムやフィリピンの経済成長率は日本以上に高く、毎年給与も上昇しています。アジアの経済成長に加えて円安になっていることは、日本の企業にとっては厳しい状況といえます。
部分的なニアショア開発への回帰
円安の影響によって海外の人件費が高騰した関係で、オフショア開発のメリットは「コスト削減」を目的としていた企業にとっては薄れてきました。その結果、開発費が割安な地方を活用する「ニアショア開発」へ切り替える企業も徐々に増えてきています。
しかし、国内ではIT人材の数が不足しているので、需要を補える供給は見込めません。ニアショアは少数チームによる開発ではメリットがありますが、10人、20人単位の規模で体制を築くのは困難です。そのため、ニアショア開発に回帰しつつ、足りない部分は海外のIT人材を活用する開発体制が、増加傾向にあります。
オフショア開発会社の淘汰
円安の影響が続くと、オフショア開発会社は値上げを実施せざるを得ません。しかし、クライアントが他社に切り替えるのを防ぐためには、値上げする分の付加価値を提供することが求められます。
リソースの質・量、特定領域における技術力や実績があるオフショア開発会社なら、そのような場合でも柔軟に対応できるでしょう。しかし、安価なコストのみを強みとする企業は、クライアントが離れて事業継続が難しくなります。
オフショア開発は中国からベトナムへ
オフショア開発が実施される国は、中国からベトナムへ移りつつあります。以下は、具体的な原因や背景などです。
中国ではカントリーリスクが懸念される
中国は、オフショア開発における委託先として有力な国でした。しかし、IT技術の成長や円安の影響により、人件費は上昇し、開発依頼の継続が厳しくなっているのが現状です。
さらに、2024年においても、米中関係をはじめとする国際的な緊張、地政学的リスクが続く可能性があります。特に、技術や知的財産に関する対立は企業活動に直接影響を及ぼします。これにより、サプライチェーンの混乱や技術移転の制限が発生するリスクがあります。
また、中国政府の規制はしばしば急激に変更されることがあり、外国企業にとって予測が困難です。データ保護法やサイバーセキュリティ法の強化が進んでおり、これに適合するためのコンプライアンスコストが増大する可能性があります。また、中国国内でのデータストレージ要件やクロスボーダーデータ転送の制限が厳しくなることも懸念されています。
さらに中国の経済成長は減速傾向にあり、ビジネス環境に影響を及ぼす可能性があります。経済の不安定化により、コスト管理やプロジェクトの進行に予期せぬ影響が出ることが考えられます。また、不動産市場の低迷や地方政府の財政問題もリスク要因として挙げられます。
このような背景から中国から他の国へ委託先を変更する企業も増えています。その結果、中国に変わる新たな委託先としてベトナムが注目されています。
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ベトナムのIT人材は増加傾向にある
ベトナムは、IT人材の育成や英語教育が盛んな国です。また、これまでこなしてきた委託案件の数も増えて、オフショア開発のノウハウが蓄積されてきました。AIやブロックチェーンなど、需要が高い先端技術に対応できる企業も増えており、オフショア国としての人気になっています。
需要が高まったため人件費も上がっていますが、日本国内よりも安価なので、選択肢として有力です。さらに、IT人材の数自体も多いため、リソース的な面でもベトナムでのオフショア開発は効果的です。
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ベトナムでのオフショア開発の相場
ベトナムでのオフショア開発の相場を解説します。具体的な詳細は、以下の通りです。
ITエンジニアの給料
2023年6月時点で、ベトナムにおけるITエンジニアの月給の相場は約1,063ドルです。日本円にすると、約148,820円となっています。日本のITエンジニアの平均月給は約41万円なので、人件費を約1/3に抑えられる計算になります。
なお、上記は2023年6月時点のレートから、1ドル=140円=23,500ドンを基準とした場合の数値です。
※参考:ベトナムIT市場レポート2022
※参考:ITエンジニアの仕事の平均年収は442万円/平均時給は1,241円!給料ナビで詳しく紹介|求人ボックス
人月単価
オフショア開発会社によって、エンジニア1人が1か月稼働した場合の単価である人月単価の設定は変わります。
そして、売上に占める人件費率は30%~50%が目安とされています。具体的には、2023年時点で、ベトナムのプログラマーの人月単価は約40万円、シニアエンジニアでは約49万円です。
なお、人月単価はエンジニアの経験やレベルによって変わるため、上記はあくまで目安である点に注意しましょう。
※参考:【2023年最新版】ベトナムオフショア開発の人月単価相場
オフショア開発の選び方
オフショア開発の選び方は多岐に渡ります。ここからは、具体的な選び方とそれぞれの詳細を解説します。
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実績
日本企業との取引実績が豊富な企業は、信頼性が高く取引先としても有力です。また、自社の依頼内容と似た実績の有無や、経験したプロジェクトの数・規模なども参考になります。日本語のサービスサイトがあると、やり取りや対応をスムーズに進められるでしょう。
コミュニケーションのしやすさ
日本語でのコミュニケーションのしやすさも、オフショア開発を選ぶ基準の1つです。日本と海外の開発チームをつないでくれるブリッジエンジニアや、日本語が堪能なカウンターパートなどの有無もは重要なポイントとなります。
また、ミーティング時における口頭でのやり取りや、メール・チャットなど、さまざまな場面における日本語のレベルを確認しましょう。また、現地に日本人のスタッフがいれば、スムーズに意思疎通ができます。
得意な開発領域・業種業態
開発会社が現在得意としている開発領域・業種業態などを確認しましょう。基準となる項目は多岐に渡りますが、代表的に挙げられるのは以下の項目です。
- 開発言語
- フレームワーク
- サイト制作
- アプリ開発
- Webサービス開発
- AI
- IoT
- ゲーム開発
契約形態
対応している契約形態も、オフショア開発会社を選ぶ際に重要なポイントです。契約形態は、主にラボ型と請負型の2つに分けられます。それぞれの契約形態について詳しく解説します。
ラボ型
ラボ型は、準委任契約として人材の稼働に対して費用を支払う形態です。成果物の完成に対する責任が発生しないため、適切なプロジェクトマネジメントが求められます。しかし、契約期間内であれば、仕様変更といったイレギュラーな対応も柔軟に可能です。
請負型
請負型は、請負契約での契約です。プロジェクト全体の予算と成果物は、あらかじめ決められています。
そして、契約で定められた要件を守り、適切な成果物を納品することに責任が発生します。しかし、原則として追加の要望や仕様の変更はできず、対応してもらうには別途契約が必要です。
日本法人の有無
外国企業とのビジネスでは、契約の準拠法を日本法と外国法のどちらにするかが重要です。そのため、日本国内法人や子会社・支社などの拠点があるか確認しましょう。準拠法を日本法にできれば、企業が損失を負うリスクを回避しやすくなります。
エンジニアの数・レベル
プロジェクトを適切に進めるために、エンジニアの数やレベルが基準を満たしている企業を選びましょう。エンジニアの在籍数が少ないと充分なリソースを確保できません。
また、適切なスキルを持ったエンジニアがいないと、プロジェクトの進行に影響が出てしまいます。
オフショア開発における注意点
オフショア開発では、注意するべき点がいくつかあります。具体的な注意点とそれぞれの詳細は、以下の通りです。
意思疎通が難しい
オフショア開発では、言語の壁や文化の違いがネックとなります。日本人同士なら概要だけで理解してもらえる内容でも、オフショア開発では細部まで明確にして指示しなければなりません。また、認識に齟齬が生じると、開発の仕様や設計が変わる危険性もあります。
納期への意識が違う
外国は日本と異なり、納期に対する認識が甘い傾向にあります。スケジュールが遅れても連絡がない場合もあるため、適切なプロジェクト管理が欠かせません。
また、進捗に関わらず就業時間内でしか働かない人も多くいます。そのため、残業をして納期に間に合わせてくれることは、ごく稀だということを留意しておきましょう。
成果物の品質が低い可能性がある
コミュニケーションが上手く取れなかった結果、要件を満たしていない成果物になる可能性があります。また、適切に管理をしないと、デザインが違ったり、他社要件が混在したりする場合もあるため注意が必要です。
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まとめ
国内のIT人材不足が続いており、海外のリソースを活用できるオフショア開発の重要性が高まっています。しかし、オフショア開発にはさまざまなリスクや注意点があるため、信頼できる依頼先を選ぶことが大切です。
株式会社Sun Asteriskは、日本とベトナムを中心に4か国・6都市に自社開発拠点を保有する、クリエイティブ・スタジオです。設計から本格的な開発まで、一気通貫でサポートできるケイパビリティの広さを強みとしています。
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併せて読みたい:オフショア開発 成功の手引き