「ユーザー調査」についてどのような印象をお持ちですか?
「実際のユーザーの意見を聞いたり、行動を観察することは大事だ」もしくは、「ユーザーは本心で答えてないから参考にしても意味がない、実際やってみたがサービス・プロダクトは良くならなかった」など、ユーザー調査について抱いている感情はさまざまだと思います。では、なぜそのように意見が分かれてしまうのでしょうか。
それは、ユーザー調査にはさまざまな種類やテクニックがあり、目的に応じた最適な手法と綿密な調査設計がなければ、正しいインサイトやペインポイントには辿り着かないからです。また、その調査結果をアイディア出しや方針決定に繋げてはじめて意味を持ちます。すべての情報がスムーズに連結されることで、初めてサービス・プロダクトを成功に導けるのです。ユーザー調査は開発プロセスの一番最初であり、それによりサービスが成功したり失敗したりする可能性がある、重要な役割を担っています。
ここでは、ユーザー調査とそのさまざまな手法を紹介しながら、その結果をどのように活用してサービス・プロダクトを成功に導いていくのかを説明します。
「ユーザー中心設計」
ユーザー調査とは、ユーザーの発言や行動の背後に隠されている、ユーザー自身がまだ気がついていないニーズや深層心理を発見することが目的で、WEBアンケートや対面での対話を通して顕在ニーズや意見など表面的な情報を収集することが役割ではありません。「ユーザーと同じ視点に立てるぐらいユーザーを深く理解する」ことが「ユーザー調査」のゴールなのです。
おさえるべき3つのポイント
まずはじめに、ユーザー調査を行う上で最初におさえておかなければならない、大事なポイントが3つあります。
1つ目は、調査結果の活用方法を明確にすることです。例えば、自社のショッピングサイトの改修を考えていたとして、その調査結果をもとに新規機能を企画するのか、既存体験の改修案を作るのかによっても、ユーザーから何をヒアリングするのかが変わってきます。前者であれば来訪前後の一連の行動や感情に加え、普段の行動や思考も深堀りすることで、発想を膨らませるためのヒントを得やすくなります。後者であれば、現行サイトでユーザーがどのように行動しているのか、なぜそのような行動をしているのかを深堀りすることで、課題点や改善点が見つけやすくなります。
2つ目は、適切なユーザーに対して調査を行うことです。適切なユーザーとは、そのサービス・プロダクトをもっとも利用する、もしくは利用するポテンシャルが非常に高い、コアターゲットとなる人たちのことです。
例えば、関東にだけ出店しているスーパーの買い物アプリを企画しようと思ったら、九州や北陸など他の地域にお住まいの方には調査しませんよね。そのスーパーを利用しない人に意見を求めても、普段の行動や意識が全く異なるため、参考にできることが少ないからです。また、そのスーパーを利用するユーザーの中でも、利用頻度・購入金額・購入商品なども異なりますし、各人の行動の背景にあるインサイトも違います。自社サービス・プロダクトを末長く利用してくれる適切なユーザーを見極めて調査をすることが大切です。
3つ目は、目的に対して適切な調査手法を用いることです。調査には定量と定性の2種類の手法が存在し、それぞれに特性があります。例えば、ユーザー行動の実態や傾向を把握したい場合は定量調査のアンケート調査が有効ですし、ユーザーのインサイトが知りたい場合は定性調査のデプスインタビューが有効です。
インサイトを知りたい場合、アンケート調査では定性調査のようにその行動の背景にある感情や考えまでは掘り下げて聞くことができませんし、同じ定性調査でも、グループインタビューの場合は他の参加者の発言にひっぱられ、そのひと個人の感情や考えを聞き出せなかったりします。
調査目的に応じて、適切なユーザーに最適な手法を使い行動や感情を深堀りすることが、ユーザー調査の基本であり非常に重要なポイントなのです。
ユーザー調査の必要性
ではなぜユーザ調査を行うのか、その理由を一言で言うと、「ユーザーを『本当』に理解する」ためです。
普段からお客様と接する業務に携わっていると、わざわざユーザー調査をする必要はないのではないかと思う方もいらっしゃるでしょう。もちろん、お客様との会話の中で見えてくる課題やニーズはあります。しかしそれはごく一部でしかありません。前述のとおり、ユーザー調査は表面的な情報を収集することではありません。発せられた言葉や行動から、「なぜ」そのような発言をしたのか、「なぜ」そのような行動をとったのかと、時間をかけてひとつずつ紐解いていくことで、ユーザーを「本当」に理解することができるのです。深堀りしていくと、発言からは想像できない感情が出てくることもよくある話です。
また、普段の業務の中では、その人がターゲットユーザーであるかどうかはわかりませんよね。ユーザー調査であれば、確実にターゲットユーザーと対話ができるので、本当に取り組むべき課題が見えやすくなります。また調査結果はデータとして可視化できるので、チームメンバー全員が納得できる共通理解を持つこともできます。
そして、ユーザー調査は一回実施したら終わりではありません。一回の調査で取得できる情報には限界がありますし、その時々によって知りたい情報や検証したい仮説も違います。開発フェーズに合わせて都度調査を行い軌道修正をすることで、サービス・プロダクトをさらに磨き込めます。
効率よく必要な情報を入手しながら改善を繰り返すことで、ユーザーを「本当」に理解したサービス・プロダクトが開発できるのです。
ちなみに、Sun*の行う開発では、企画や開発フェーズそれぞれの目的に応じたユーザー調査を実施することが多いです。(※以下の図赤丸の部分)
メリット・デメリット
企業がユーザー調査を取り入れるメリットは大きく3つあります。
- ユーザーニーズとのミスマッチがなくなる
- コスト削減に繋がる
- スムーズな意思決定ができる
ユーザーニーズとのミスマッチがなくなる
ユーザーを深く理解することでユーザーニーズとのミスマッチがなくなり、サービス・プロダクトの利用や売り上げ向上に繋がります。
コスト削減に繋がる
調査を繰り返しながら軌道修正を行うことで、開発途中の手戻りやリリース後の方針変更による大規模改修が無くなり、結果的にコスト削減に繋がります。
スムーズな意思決定ができる
各自の経験則に基づかず、データドリブンでの判断ができるので、社内の意識決定がスムーズになります。
では、デメリットはないのでしょうか?ユーザー調査の一番のデメリットは、調査設計〜実施〜分析まである程度の期間を要することです。一般ユーザーにインタビューを行う場合はリクルーティングなど含めて最低でも実施まで数週間はかかりますし、そこからデータを分析し方向性を決めるとなるとさらに数週間は必要です。時間がなくて調査できないといったことにならないよう、事前に調査期間もスケジュールに折り込んで計画を立てるのがおすすめです。
ユーザー調査を取り入れた開発プロセス
それでは、ユーザー調査を取り入れた開発プロセスについてSun*のプロセスを例にして説明します。
Sun*の開発プロセス
- ユーザーリサーチ
- UXデザイン
- 開発要件定義
- 開発
- サービスイン
Sun*ではユーザー調査からUXデザインまでを、約3ヶ月間かけて行うことが多いです。(上記No.1〜2)その期間に徹底的にユーザーについて調査を行い、「ユーザーの問題が本当に解決されるのか、提供すべき価値はなにか、使い心地は快適か」など、ユーザーにとっての本質的な価値を考えぬいてから全体の顧客体験設計を行います。最初に要件定義から入るのではなく、ユーザーや提供価値についてしっかり調査・検証してからはじめて設計・開発にはいるのです。これがユーザー調査を取り入れた開発プロセスです。
UXデザインとの関係性
ユーザー調査はUXデザインの中のひとつと捉えられることも多いですが、厳密には「UXリサーチ」と「UXデザイン」に区別されます。企業によっては「UXリサーチャー」という専門職がユーザー調査をリードする場合もあります。一般的な流れは、UXリサーチャーが調査を行い、その結果をもとにUXデザイナーがサービス・プロダクト全体の体験を設計し、UIデザイナーが実際のインターフェースのデザインを行って、エンジニアに渡します。
企業によっても異なりますが、それぞれの主な業務は以下の通りです。
UXリサーチャー
- ユーザー調査を設計し実施することでユーザーに関するデータを収集する。データドリブンでユーザーのニーズやインサイトを導き出す。自らがインタビュアーとしてユーザーと対話することも。
- 主な業務:調査手法の決定、調査項目の作成、調査の実施、調査結果の分析など
UXデザイナー
- 事業戦略やブランドを理解した上で、ユーザーニーズやインサイトをもとにサービスやプロダクトが便利で使いやすいものになるよう全体の顧客体験を設計する。
- 主な業務:ターゲットユーザー選定、コンセプト策定、顧客体験設計など
UIデザイナー
- ユーザーにとって分かりやすく心地がいいインターフェースのグラフィックデザインを行う。
- 主な業務:デザインガイドラインの策定、画面レイアウトやコンポーネントデザイン、インタラクション設計など
「ユーザー調査」の種類
ここからは、ユーザー調査についてもう少し深く説明していきます。ユーザー調査は「定量調査」「定性調査」に大別することができ、実態把握・機会探索・仮説検証などを主な目的に調査を実施します。
調査目的に応じて、定量・定性どちらか一方を行う場合もありますし、両方をうまく組み合わせながら行うこともあります。自分たちに必要な情報を最大限吸い上げられるよう調査を設計します。
調査概要
調査手法
定量調査
- 対象者の実態、動機、価値観などに関する回答を、数値化したデータとして収集することを目的としている。全体のボリューム感や傾向を数量や割合で知りたい時に適している。事前に用意した仮説に対して、「何を」選択するかに比重をおいているため、「なぜ」それを選択したかのかを測ることはできない。
- 代表的な手法:WEBアンケート
定性調査
- さまざまな質問をユーザーに直接問いかけることで、イエス/ノーでは答えられないユーザーの行動の背景にある動機を、発話から掘り下げていくことを目的としている。数値からでは見えない隠れたペインポイントや感情を洗い出すことに適している。定量調査が「何を」調査するものであるならば、定性調査は「なぜ」「どうやって」を調査する。
- 代表的な手法:デプスインタビュー、グループインタビュー、行動観察調査など
調査手法の種類
代表的な例
- アンケートや質問票: アンケートや調査票を設計し、選択肢を選ぶというシンプルな回答方法でデータ収集する。気軽にできる反面、精度を高めるため大量のデータを必要とする。そのため対象者を集めることが難しかったり、回収・集計に時間がかかったりする。代表的なものはオンライン上で行うネットアンケート。その他、郵送、電話、FAX、街頭、店舗などさまざまな方法がある。
- ユーザーインタビュー:オンラインまたは対面で行うインタビュー手法。ユーザーがそのサービス・プロダクトに対して潜在的に何を求めているのかを把握したり、どこにペインを感じているかなどを深堀するのに適した調査。1対1の面談式で実施する場合はデプスインタビューと呼ばれ、複数人で行う場合は、フォーカスグループ(グループインタビュー)と呼ばれることが多い。
その他手法例
- 行動観察調査(オブザベーション調査):企業や特定の会場ではなく、自宅や職場などのユーザーにとって自然な状況で彼らを観察し、どのように、なぜそのような行動をとったのかを理解するための質問を行う調査。
- 会場調査(CLT):実際のプロダクトを用意した会場に調査対象者を集め、プロダクトもしくは広告等についての評価をしてもらい、定量的にデータとして収集する手法。簡単なアンケートやインタビューを同時に行うことも多い。
- 日記調査:ユーザーが定められた期間の中で、日々の活動を記録することで普段の行動や利用方法を把握する手法。例えば、1日のうちユーザーがそのプロダクトをいつ使用しているのか、期間中どのくらいの頻度で使用しているのかなどが把握できる。
- カードソーティング:ユーザーが直感的で使いやすい情報アーキテクチャを作成するのに適した調査。ユーザーがカードに書かれたそれぞれの情報を分類する手法。この手法によりユーザーの考え方や知識構成が理解できる。
- ユーザビリティテスト:実際のサービス・プロダクトを使ってタスクを行なってもらうことで、利用するユーザー行動を観察し、ユーザーが正しく使えているのか、課題は何かを特定する手法。
- ファーストクリックテスト:ユーザーにタスクを行ってもらい、サイトやアプリ上のインターフェースでどこを一番最初にクリックするかを調査する手法。メニュー・ボタン・フォーム要素などの一般的なインターフェースの要素について、ユーザーの期待値が把握できる。
調査目的
実態把握
主な目的:サービス・プロダクトに関連するユーザーの行動や意向など実態を把握する
- ユーザーのデモグラは?
- ユーザーの利用実態は?
- ユーザーの普段の行動は?
- ユーザーの意向は?
機会探索
主な目的:サービス・プロダクトの方向性を決定する、ユーザーの課題や心理を調査する
- ユーザーのそもそもの課題は?
- ユーザーのニーズは?
- ユーザーのインサイトは?
- ユーザーのゲインは?
- ユーザーを取り巻く環境は?
- ユーザーの目的をさまたげる外的な要因はあるか?
仮説検証
主な目的:自分たちの設計でニーズに答えられているかどうかなどの仮説を検証する
- ユーザーのニーズに答えられているのか?
- ユーザーがどこでつまづいているのか?
- ユーザーのつまづきを技術的な介入で解決できるか?
「ユーザー調査」の結果のまとめ方
ユーザー調査を実施したあと、どのように結果をまとめていますか?ユーザー調査は、得られた膨大な情報を整理し可視化することではじめて意味を持ちます。まとめる内容は、ユーザーはどういう人たちで、普段何をしていて、どういう課題や感情を抱えているのかなどの情報です。
Sun*では「ペルソナ」や「共感マップ」を作成して、ユーザーモデリング(課題抽出)を行うことで、それらの情報をわかりやすくまとめています。
ペルソナ
- ユーザー像をもっとも際立たせる3〜5つの行動・言動、ニーズ・感情パターンをピックアップしてまとめたもの。
- デモグラ、動機、ペインポイントといった情報も付け加え、そのユーザー像が目に浮かぶように情報をまとめるのがポイント。
共感マップ
上記で作成したペルソナの視点にたち、考えて感じていること、見ているもの、言っていること・している行動、聞いていること、ペイン・ゲインポイントをまとめ、ユーザーの抱えている本当の課題やニーズを浮き彫りにするフレームワーク。
サービス・プロダクトへの反映方法
ユーザー調査を実施したら、その結果をプロダクト・サービスへ反映するのですが、ここの橋渡しがサービス・プロダクトを成功させる重要な分岐点になります。一般的な企業では、ビジネス、デザイン、開発がそれぞれ別部署にわかれて分業制をしいていることが多いと思います。それでは、意思疎通に時間がかかったり、共通理解を得るのが難しかったりします。せっかく調査したのに、サービス・プロダクトの設計・開発にその内容が生かされないといった問題が起こりがちです。
そこでSun*では、それらの落とし穴をさけるべく、ビジネス・技術・デザイン領域のプロが、ユーザー調査の段階からジョインすることで、調査から実装までスムーズな開発を支援しています。
また、ユーザー調査結果を元にアイディア出しをする際もプロジェクトチーム全員で行います。それぞれの領域のプロが、プロの観点からユーザーが求めていることを追求するので、深い議論が可能になりますし、机上の空論にならない、実現可能な具体的な機能案や改善案を検討することができます。そして、そこで得られたアイディアのプロトタイプを作成し再度ユーザー調査にかけて検証を繰り返すことで、間違った方向を修正しアイディアの精度を高めていきます。
このように、ビジネス・技術・デザイン領域のプロが一つのチームになってユーザー調査から入ることで、その調査結果をスムーズにサービス・プロダクトに反映できるようになります。
まとめ
サービス・プロダクトを成功に導くためには、一番最初のユーザー調査を正しく行うことが非常に重要です。そして、その結果からアイディアを膨らませ試行錯誤を繰り返すことで、間違った方向に進むことを修正することができ、見えなかった成功への道筋が見えてきます。
Sun*では「ユーザー調査」を起点として、UXデザイン〜要件定義〜開発〜リリースまで、一連のプロセスをサポートしながら、サービス・プロダクトを成功に導いていきます。
「ユーザー調査」に関することはもちろん、それ以外についても、わからないことや相談したいことがございましたら、お気軽にSun*へお問い合わせください。