金融機関にとって、金融システムは取引や顧客情報を支える生命線です。システム障害が起これば、業務停止だけでなく顧客からの信頼喪失にもつながりかねません。近年では、DX推進やキャッシュレス化、法規制の強化などにより、既存システムの限界を感じる場面が増えています。銀行の業務システムも例外ではなく、老朽化や非効率化に直面している企業が増えています。
そのため、安定稼働を維持しながらも、柔軟で拡張性のある仕組みへの刷新が急務となっています。この記事では、金融システムの基本から刷新戦略、さらに委託方法や外注判断のポイントまでをわかりやすく解説します。
目次
金融システムとは?銀行業務を支える社会インフラ
金融システムとは、銀行や証券会社、保険会社などで使われる業務用ソフトウェアやアプリの総称です。ATMやネットバンキング、証券取引などもその一部であり、日常の金融取引を支える重要な仕組みです。ここでは、金融システムが抱える課題と刷新に向けた考え方を解説します。
金融システムの課題
多くの金融機関では、レガシーシステムが業務の柔軟性を妨げています。老朽化した仕組みは、改修コストが高く最新技術との連携も困難です。加えて、サイバー攻撃の増加や金融規制の厳格化により、セキュリティと法令対応の負担も増えています。こうした状況は、事業継続における大きなリスクとなっています。
特に銀行では勘定系システムの老朽化が深刻で、メンテナンスコストやセキュリティ更新対応に多くのリソースが割かれています。
システム刷新に向けた解決アプローチ
金融システムの課題を解消するには、全体を見直す視点が欠かせません。部分的な改修を重ねるだけでは、コストとリスクが増す一方です。そのため、クラウド化やマイクロサービス化による再構築が有効です。AIによる不正検知やブロックチェーンで取引の透明性を高める取り組みも進んでいます。
さらに、FinTech企業(金融とIT技術を組み合わせた企業)と連携し、最新の決済・送金技術を取り入れる動きも見られます。
刷新方針を決める際は、“全体再構築”か“段階的リプレイス”かを判断することが重要です。
銀行が金融システムを導入・刷新するメリットが大きい6つの領域
銀行業務システムは、取引管理から顧客対応、外部連携まで多様な領域で構成されています。各システムの質を高めることは、業務効率や信頼性の向上に直結します。ここでは、システム刷新による効果が特に大きい分野について解説します。
勘定系システム|取引処理の正確性・速度向上による信頼性の強化
勘定系システムは、口座や入出金、融資などを処理する銀行の中核です。
老朽化した仕組みを最新のクラウド基盤に移行すれば、処理速度が向上し、大量取引にも安定して対応できます。AIによる異常検知を組み合わせれば、障害の早期発見や復旧が可能です。こうした刷新は、取引精度の向上と運用リスクの軽減を両立します。
営業店システム|窓口・ATM業務の効率化と顧客満足度の向上
営業店システムは、窓口端末やATMなど店舗業務を支える仕組みです。
紙や印鑑を前提とした旧来型では手続きに時間がかかり、顧客対応の負担が大きくなります。クラウド型端末や電子署名、顔認証の導入により、手続きを短縮しながらセキュリティ強化も可能です。店舗運営の効率化と待ち時間の短縮により、顧客満足度の向上が実現します。
注文管理システム(OMS)|取引の自動化によるミス削減と工数削減
注文管理システム(OMS)は、株式や為替などの取引を受け付け、約定から決済までを一元管理する仕組みです。
手動処理では、人的ミスや遅延が起こりやすく、迅速な対応が難しくなります。刷新によりAIによる自動発注や取引監視を実装すれば、処理の正確性とスピードが向上します。結果として、業務負担を軽減しつつリスクの低減にもつながります。
対外接続システム|外部サービス連携の強化と収益機会の拡大
対外接続システムは、銀行とカード会社や決済センターなど外部機関をつなぐ仕組みです。
旧システムでは接続先ごとの調整が複雑で、運用コストが高くなりがちです。API連携型システムへ刷新することで、各種サービスとの接続を迅速化し、新しい金融サービスを柔軟に展開できます。これにより、収益機会の拡大と業務効率化を同時に実現可能です。
特に近年では、オープンバンキングやAPI連携を前提とした仕組みが主流となっています。
オンライン決済システム|多様な決済手段への対応と利便性の向上
オンライン決済システムは、ECサイトやスマートフォン決済などを支える基盤です。
従来の仕組みでは新しい決済手段の導入に時間がかかり、機会損失を生みます。最新のクラウド決済プラットフォームを導入すれば、クレジット・電子マネー・QR決済などを柔軟に追加可能です。利用者の利便性が高まり、取引件数や顧客満足度の向上につながります。
仮想通貨取引システム|新たな金融商品の提供と市場拡大への対応
仮想通貨取引システムは、暗号資産の売買や送金を行うための基盤です。
従来型ではセキュリティ面の不安が残り、取引停止リスクを抱えていました。ブロックチェーン技術を活用した新システムに移行すれば、取引履歴を分散管理でき、改ざんや不正アクセスを防止できます。これにより、安全性を確保しながら新しい金融市場への参入が可能になります。
銀行業務システムの品質確保にはプロの力が必要
前述の通り、各システムを入れ替えれば業務効率は上がりますが、最近では技術やセキュリティの水準が急速に高度化しています。そのぶん専門知識が求められるため、自社のリソースだけで対応するのは困難になりつつあります。ここではそのような課題を解決するためにプロの力を活用する重要性について解説します。
金融システム特有のリスクと高度な専門性
金融システムは、取引データや個人情報など重要な情報を扱うため、一般的な業務システムよりも高い精度と信頼性が求められます。わずかな不具合でも社会的影響が大きく、復旧コストも膨らみます。そのため開発には高度なセキュリティ知識と金融業務の理解が不可欠です。
金融系のSEが要件を踏まえて設計・保守を行うことが安定稼働のカギといえるでしょう。
内製の限界と外部パートナー活用のメリット
金融機関では、内部エンジニアだけでは新技術やリスク管理に十分対応するのが難しくなってきています。特にクラウドやAI開発では、高度な専門知識が必要です。金融システムに精通した外部パートナーを活用すれば、最新技術を取り入れた堅牢な環境を構築できます。リスク分散とスピード向上の両立も可能になるでしょう。
自社の課題整理や最適な委託範囲を検討したい場合は、資料『システム改善の考え方とアプローチ(PDF・無料)』も参考になります。
銀行業務システムをプロに委託した場合の開発の流れ
プロに開発を依頼する場合は、要件整理から運用まで段階的に進みます。各工程での判断や確認が品質を左右するため、流れについて正しく理解しておくことが大切です。ここでは開発の全体像と押さえるべきポイントを解説します。
要件定義|業務課題と機能要件を整理
最初の工程では、現状の課題を明確にし、どの業務をシステム化するかを整理します。依頼側は「目的」「予算」「運用範囲」を明確に伝えることが大切です。この段階で要件があいまいでは、後の設計変更やコスト増につながるため、ヒアリングや要件調整には十分な時間を確保しましょう。
設計(基本・詳細)|構造と仕様を具体化
設計段階では、要件をもとにシステムの構造や画面レイアウト、処理の流れを設計します。依頼側が注目すべきなのが、運用のしやすさや拡張性が確保されているかどうかです。将来の法改正や機能追加に備え、柔軟に対応できる設計かを確認しておくと安心です。
また、この段階ではレビュー体制や変更管理のルールを明確にしておくことが重要です。
要件変更や仕様追加が発生した際に、どのような承認フローで反映されるかを契約時に取り決めておくと、後工程でのトラブルを防げます。
たとえば、基本設計レビュー・詳細設計レビューをそれぞれ実施し、依頼側もドキュメントを確認する仕組みを整えることで、品質確保と納期管理の両立が可能になります。
実装・テスト|高品質・高セキュリティで構築
設計に基づいて開発が進み、同時にテストが実施されます。依頼側は、テスト項目の内容と検証体制を確認しておくとよいでしょう。特に金融システムでは、セキュリティや取引精度のテストが重要です。外部監査の有無や障害時の復旧手順も事前に把握しておくことがポイントです。
導入・運用保守|本番稼働と継続的な改善
完成後は本番環境へ移行し、運用・保守が始まります。依頼側が確認すべきなのは、運用後のサポート体制やトラブル対応のスピードです。導入直後は想定以外の不具合も発生しやすいため、定期的な改善提案やバージョン更新を行う体制を整えておくことが重要です。
金融システムを外注する際の開発会社の選び方
銀行や信用金庫など金融機関がシステム開発会社を選定する際には、信頼できるパートナーを見つけ出すことが成功のカギとなります。ここでは、依頼先を選定する上で重視すべきポイントを解説します。
開発実績と業界理解を確認する
金融システムの開発においては専門知識はもちろん豊富な開発実績が欠かせません。過去に銀行や証券などのシステムを手掛けた実績があるかどうかチェックしてみましょう。実績が豊富なほど業界特有のルールや法規制への理解が高いと判断できます。
加えて同規模・同業種での導入事例を確認することで、自社に近い課題を理解しているかを判断できます。
>>関連記事:業務システム開発会社の選び方|比較ポイントと費用相場を解説
費用とサポート体制を比較する
見積もりを複数社から取得し、開発費用だけでなくサポート内容も比較します。金額の安さだけで判断せず、導入後の運用・保守や障害対応の範囲を確認することが大切です。特に24時間対応や定期アップデートなどの体制が整っていれば、長期的な安定運用につながります。
技術力とセキュリティ対策をチェックする
金融システムでは、高度な技術力と安全性の確保が欠かせません。AIやブロックチェーン、クラウドなどの最新技術に対応できるかを確認することが大切です。また、データの暗号化や脆弱性対策、アクセス管理など、セキュリティ面の取り組みも重視しましょう。
最新技術と安全運用の両立ができる企業が信頼できるパートナーといえます。
まとめ
金融システムの刷新は、業務の効率化や顧客満足度の向上につながる一方で、高度な専門性と安全性の確保が欠かせません。自社の課題を明確にし、信頼できる開発パートナーと連携することが成功の近道です。
銀行業務システムをより良く運用するには、保守・改善の両面から見直すことが重要です。具体的な進め方をまとめた資料『システム改善の考え方とアプローチ』を、改善プロジェクトの第一歩としてぜひご活用ください。

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