「AIを活用した業務システム改善に着手せよ」といった経営層からの指示を受け、情報収集を始めたものの、何から手をつければよいかわからず困っている人もいるのではないでしょうか。
本記事では、業務システムの基本から、AI活用が求められている背景や具体的な活用事例を紹介します。AI活用の第一歩を踏み出すために、本記事をぜひご活用ください。
業務システムの基本
業務システムとは、業務を効率的かつ正確に遂行するために使用するシステムの総称です。
具体的には、販売管理や在庫管理、顧客管理(CRM)、財務会計、人事給与といった、特定の業務領域に特化したシステムを指します。
従来の業務システムは、ルールに従ってデータを処理する「定型業務」の自動化をおもな目的としていました。近年ではAI技術の進化により、予測や判断といった「非定型業務」の要素を取り入れ、高度化を目指す動きが活発になっています。
業務システムのAI活用が進む背景
ここでは、多くの企業が業務システムへのAI活用を急ぐ背景について解説します。
人手が足りない
少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少は、多くの業界にとって深刻な課題です。限られた人員でこれまで以上の成果を出すためには、業務の抜本的な効率化が不可欠です。AIを業務システムに組み込めば、さまざまな定型・非定型業務を自動化・高度化できます。結果、従業員は付加価値の高い業務に集中できるようになります。
業務が属人化している
特定のベテラン従業員の経験や勘に依存した業務は、担当者が不在になった際に業務が停滞する「属人化」のリスクを抱えています。AIは、過去の膨大な業務データから熟練者の思考パターンや判断基準を学習し、ノウハウを「形式知」としてシステムに組み込み可能です。担当者のスキルレベルに左右されない、標準化された業務遂行が可能となります。
作業ミスが多い
人間が手作業で行う業務には、ヒューマンエラーがつきものです。請求書の処理やデータの照合といった繰り返し作業では、疲労や集中力の低下からミスが発生しやすくなります。AI-OCRやRPAを組み合わせれば、手作業を自動化し、ミスを大幅に減らせます。業務品質が向上し、顧客からの信頼獲得にもつながるでしょう。
AI-OCRは、画像や文書から文字をデジタルデータに変換することを指し、RPAは定型業務を自動化する技術を意味します。
【部門・業務別】AIで実現する業務変革の例
実際にどのような場面でAIが活用されているかを、部門・業務別に詳しくまとめます。
【経理】AI-OCRによる請求書・領収書の自動読み取りと仕訳入力
経理部門では、大量に届く紙の請求書や領収書の処理が負担となっています。AI-OCRを導入すれば、さまざまなフォーマットの書類から取引先名や日付、金額といった必要な情報を高精度で自動的に読み取り、テキストデータ化します。会計システムと連携させれば、勘定科目の自動推測と仕訳入力までを自動化可能です。
【人事】採用面接の日程調整自動化、エントリーシートの一次スクリーニング
採用活動における煩雑な事務作業も、AIで効率化可能です。応募者との面接日程調整は、AIチャットボットが候補者の空き時間と面接官のスケジュールを照合し、自動で最適な日時を提案・確定します。また、AIが過去の採用データから学習した評価基準に基づき一次スクリーニングを行えば、人事担当者は有望な候補者の選考に集中できるでしょう。
【総務】社内の問い合わせに24時間対応するAIチャットボット
総務部門には、「経費精算の方法は?」「育児休暇の申請手続きは?」といった社内からの定型的な問い合わせが数多く寄せられます。社内規定やFAQを学習したAIチャットボットを導入すれば、24時間365日自動で回答可能です。総務担当者は本来注力すべき専門的な業務に時間を割けるようになり、組織全体の生産性向上につながります。
【営業】CRMデータ分析による「成約確度の高い顧客リスト」の自動作成
営業部門では、CRM(顧客関係管理)システムに蓄積された顧客データや商談履歴の分析にAIを活用しています。過去の受注パターンから、顧客の属性や行動履歴、過去の取引実績などを基に、次にアプローチすべき見込み顧客のリストを生成します。営業担当者は経験や勘に頼るのではなく、データに基づいた活動が可能となります。
【マーケティング】需要予測に基づくキャンペーンの最適化
マーケティング部門では、過去の販売実績や季節変動、競合の動向といったデータをAIが分析し、将来の製品需要を予測します。予測に基づき、最適なタイミングでのキャンペーン実施や在庫確保ができます。機会損失や過剰在庫のリスクを最小限に抑え、広告費や販促費といったマーケティング予算の費用対効果を最大化できます。
【顧客支援】過去の問い合わせデータから回答を提示するオペレーター支援
コンタクトセンターでは、顧客からの問い合わせに対し、AIが内容をリアルタイムで解析します。過去の問い合わせ履歴やFAQデータベースから、最も適切と思われる回答の候補をオペレーターの画面に自動で表示可能です。経験の浅いオペレーターでも、ベテランと同様の質の高い対応がスピーディに行えるようになります。
【製造】画像認識技術を活用した製品の外観検査(検品)自動化
製造ラインでの外観検査は、熟練作業員の目視に頼ることが多く、集中力や疲労による見逃しが課題でした。高解像度カメラとAIの画像認識技術を組み合わせれば、製品の微細な傷や汚れ、欠けといった不良を、人間をはるかに超える速度と精度で自動的に検出可能です。検査工程の省人化と品質の安定化を両立させ、製品の信頼性を高められます。
【設備管理】センサーデータに基づく設備の故障予知保全
工場などの生産設備に振動や温度、圧力などを検知するIoTセンサーを設置すれば、稼働データを常時収集可能です。AIがその時系列データを分析し、「いつもと違う」という故障の微細な予兆を捉えます。「あとどのくらいで故障しそうか」を高精度で予測し、部品の寿命が尽きる直前の最適なタイミングでメンテナンスを行う「予知保全」が可能になります。
【物流】AIによる最適な配送ルートの自動算出
物流センターから各配送先へ荷物を届ける際、交通状況や配送先の時間指定、積載量といった制約条件を考慮した効率的な配送ルートと車両への荷物の割り当て(配車計画)をAIなら自動で算出可能です。配車担当者の経験と勘に頼っていた業務を最適化できるため、属人化を解消し、物流全体の効率を向上させられるのです。
AIの導入効果を最大化するには、「どの業務にAIを適用するか」を見極めることが重要です。
単純作業の自動化にとどまらず、意思決定支援・予測分析・顧客体験向上といった分野にまで活用の幅が広がっています。
たとえば、営業ではリード分析、製造では故障予測、バックオフィスでは請求処理や勤怠分析など、各部門の課題に応じて導入範囲を設計することが成功の鍵です。
業務システムへのAI導入5つのステップ
AI導入を成功させるには、計画的なアプローチが欠かせません。ここでは5つのステップでAI導入のコツをまとめます。
1. 目的の明確化
最も重要なのが、「AIを導入して、どの業務の、何を解決したいのか」という目的の明確化です。「経理部門の請求書処理時間を月間50時間削減する」「コンタクトセンターの平均応答時間を20%短縮する」など、可能な限り定量的で測定可能な目標を設定しましょう。この目的が、対象業務の選定や効果測定の明確な基準となります。
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2. 対象業務の選定
設定した目的に基づき、AIを導入する業務を選定します。「費用対効果(ROI)が高いか」「業務へのインパクトが大きいか」「実現に必要なデータが揃っているか」といった観点から評価し、優先順位をつけましょう。まずは特定の部門の特定の業務に絞って始めることが、リスクを抑え、成功確率を高めるための鍵です。
3. データの棚卸し
AIの性能は、学習させるデータの質と量に依存します。対象業務に関連するデータが、社内のどのシステムに、どのような形式で、どれくらいの量蓄積されているかを確認する「データの棚卸し」を行いましょう。データが不足している場合や、形式がバラバラでそのままでは使えない場合は、データを収集・整備する期間が別途必要です。
4. 小規模な環境での検証
本格的な導入の前に、限定されたデータや環境で試験的にAIを動かす「PoC(Proof of Concept:概念実証)」を実施します。目的は、AIが想定どおりの精度・効果を出せるかを小さな投資で検証することです。得られた結果をもとに、費用対効果を評価し、本格導入に進むべきか、あるいはアプローチを見直すべきかを判断します。
5. 評価・改善と本格展開
PoCで良好な結果が得られたら、実際の業務システムへの本格的な導入に進みます。導入後も、定期的にAIの性能や業務改善効果を評価し、継続的に改善しましょう。AIの予測精度が低下していないか、現場のユーザーがスムーズに活用できているかなどをモニタリングし、必要に応じて再学習やシステムの改修を行います。
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業務システムにAIを導入する際の注意点
AI導入を成功に導くためには、技術的な側面だけでなく、以下の点にも注意しましょう。
曖昧な目的を設定しない
「AIを使って何か新しいことを」といった漠然とした目的では、プロジェクトは必ず失敗します。「どの業務の、どんな課題を、どのように解決し、どのような状態を目指すのか」などの明確な目的が不可欠です。目的が曖昧だと、必要なデータやAIモデルが定まらず、開発が迷走してしまいます。まずは、現場が抱える課題に焦点を当て成功を積み重ねましょう。
セキュリティやプライバシーを考慮する
AIの学習データとして個人情報や企業の機密情報を使用する場合、情報漏えいやプライバシー侵害のリスクに対する配慮が欠かせません。データを匿名化・仮名化する処理や、アクセス権限の厳格な管理、堅牢なセキュリティインフラの構築など、法規制や倫理指針を遵守した上で、安全にデータを活用する仕組みを構築しましょう。
近年では、ChatGPTなどの生成AIを社内業務で利用するケースも増えています。外部サービスを利用する場合は、機密情報や個人情報を入力しない運用ルールを明文化し、社内教育を徹底することが不可欠です。
AI導入後のフォローも想定する
AI導入は終点ではありません。最終判断と責任は人間が担います。従業員がAIを正しく理解し、使いこなすための研修や教育は不可欠です。AIの導入によって業務プロセスが変わるため、現場の従業員が変化にスムーズに対応できるよう、丁寧な説明やサポート体制を構築しましょう。
まとめ
本記事では、業務システムへのAI活用をテーマに、具体的な活用事例や成功に導くための導入ステップと注意点について解説しました。AIはもはや未来の技術ではなく、企業の競争力を左右する現実的なソリューションです。
ただし、経営層の号令だけで闇雲に進めてはいけません。本記事の内容を参考にして、スモールスタートで着実に成果を積み重ねてください。なお、下記資料では、業務改善のプロが実践する改善ステップをまとめています。
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