建設業では、複雑な原価管理や多拠点での工事管理など、現場とバックオフィス・経営層との連携に手間がかかりやすいという難点があります。このような課題を解決するために注目されているのが、原価管理や財務会計管理の自動化を行う建設業向けERPシステムです。
今回は、建設業向けERPの導入や刷新を検討している担当者向けに、建設業向けERPの機能やシステムの選び方について解説します。
目次
建設業向けERPとは?
建設業向けERPは、建設業に特化した業務管理システムです。各工事ごとの原価・進捗・資材・人員などを連携・管理し、現場とバックオフィスをスムーズに連携させる役割を持ちます。
さまざまな企業で導入されている「ERP」は、企業の人・物・金などのリソースを一元管理する基幹システムを指します。建設業向けのERPは、一般的なERPに比べて財務会計管理や原価管理などの建設業特有の業務に特化した機能が充実しています。

建設業向けERPのおもな機能
建設業向けERPには、建設現場や工事現場での実務に特化したさまざまな機能が搭載されています。
| 機能名 | 主な内容 | 効果 |
|---|---|---|
| 財務会計管理 | 工事進行基準に基づく収益計上や勘定処理を自動化 | 会計業務の効率化と正確性の向上 |
| 原価・在庫管理 | 計画原価と実績原価の比較、資材の在庫最適化 | コスト削減と利益率向上 |
| 営業管理 | 見積〜受注〜契約の進捗管理 | 受注管理・営業活動の見える化 |
| 販売管理 | 資材の発注・請求・入金処理を一元化 | 事務作業の効率化 |
| 工事管理 | 現場ごとの進捗・日報・請求データを管理 | 工期短縮・情報共有の促進 |
| 人事・給与管理 | 勤怠・作業報告をもとに給与を自動算出 | 属人業務の削減・労務コスト最適化 |
財務会計機能
財務会計機能は、工事進行基準に基づいた収益の計上や、未成工事支出金(前受金)・完成工事未収入金(売掛金)などの特有の勘定科目を自動処理できる機能です。仕入・外注費・労務費などを工事単位で仕訳できるため、プロジェクトごとの収益を可視化できるほか、複雑な会計・決算処理も効率よく処理できます。
原価・在庫管理機能
原価・在庫管理機能は、計画原価と実績原価をリアルタイムで比較し、原価率をシミュレーションする機能です。また、在庫管理では工事に必要な建材の在庫を適切に管理し、過剰在庫や欠品を防ぎます。原価と在庫をシステムによって管理することで、完成工事における利益率を正確に算出できます。
営業管理機能
営業管理機能では、工事の見積もり・契約・受注の一連の営業活動の流れを一元管理し、案件ごとの進捗状況や利益見込みなどのデータを可視化できます。顧客データや営業実績を蓄積することで、営業活動の効率化や受注率の向上につながります。長期的な受注案件が多い建設業では、営業データの適切な管理が欠かせません。
販売管理機能
販売管理機能では、資材の受発注・売上計上・請求書発行などの事務作業をシステム上で一括管理できます。資材や外注費の発注から請求・支払いまでをプロジェクト単位で管理でき、販売管理の効率化を図れます。また、財務会計機能や原価管理機能との連動によって、より高度なデータ管理や分析が可能です。
工事管理機能
工事管理機能は、日々の工事で発生する請求・入金管理や日報管理などを行う機能です。工事現場ごとにデータを管理できるほか、現場における未収や滞留債権なども正確に把握できます。
人事・給与管理機能
建設業向けERPの人事・給与管理機能では、作業報告書や出勤簿などの勤怠データをもとに給与計算を自動化できます。建設業では現場や職種ごとにさまざまな勤務形態や給与体系が混在しており、建設業に特化した給与計算システムを導入する必要性があります。また、製品によっては給与計算や明細の作成だけでなく、従業員の各口座への振込予約までを自動化できるものもあります。
建設業向けERPを導入するメリット
建設業向けERPの導入によって、業務の効率化や人材不足の解消はもちろん、経営判断の最適化やコスト削減にも効果が期待できます。

業務の効率化や人材不足の改善を実現できる
建設業界では、慢性的な人手不足が課題となっています。建設業向けERPの導入によって経理・工事管理・勤怠管理などの業務を自動化でき、生産性の向上や業務の属人化防止につながります。また、煩雑な事務業務の負担が減ることで、限られた人的リソースをより集中すべきコア業務に再配分できます。
原価やリソースの管理を最適化できる
建設業向けERPでは、工事ごとの原価・人員・資材などの情報を一元管理できるため、無駄なコストの発生を防げます。リアルタイムで工事の進捗や発生費用を把握でき、赤字工事の兆候を早期に発見して対策を講じやすくなります。また、予算管理機能を活用すれば、現場ごとの採算性を可視化でき、経営の最適化も行えます。
コスト削減につながる
建設業向けERPの導入により、これまで紙やExcelで行っていた入力作業やデータの転記を効率化できます。データ入力作業にかかっていた人件費や外部委託コストの削減が期待できるほか、データの重複入力や入力ミスも発生しにくくなるでしょう。また、適切な原価管理や営業管理によって、案件ごとに発生するコストも最適化できます。
スピーディな経営判断ができる
建設業向けERPには各部門・各現場のデータがリアルタイムで集約されるため、経営層が現場の状況や財務データを即座に確認できます。現場とバックオフィスの連携によって工事の収支状況・資金繰り・在庫情報などを把握しやすくなり、経営層が迅速かつ正確に経営判断を下しやすくなるでしょう。また、データから報告書を自動作成できるシステムもあり、進捗会議や経営会議での資料の作成にも役立ちます。
業務の平準化につながる
建設業向けERPを導入して各業務プロセスの処理方法を整備することで、担当者ごとの作業品質のばらつきを防げます。属人的になりやすい工事管理や経理業務などの事務作業も、システム上でフローや入力方式を統一することで平準化できます。これによって新入社員や異動者でもスムーズに業務を引き継げるようになり、企業全体の作業品質の向上にもつながります。
建設業向けERPの選び方・比較ポイント
建設業向けERPを導入する際は、自社の業務範囲や企業規模と照らし合わせながら、最適な機能が備わったシステムを選ぶことが重要です。

自社の課題や導入目的に合わせて選ぶ
建設業向けERPを導入する際は、自社で解決したい課題や効率化したい業務を明確にすることが大切です。たとえば、原価管理の効率化を目的とするのか、現場従業員の給与管理の効率化を目的とするのかによって、選ぶべきシステムは変わります。自社に必要な機能を搭載したERPを選定することで、システム導入の効果を最大化できるでしょう。
企業規模に合わせて選ぶ
中小企業と大企業では、必要となるシステムの規模や機能範囲が異なります。中小企業では、事前準備が少なくすぐに導入しやすいクラウド型のERPが人気です。一方で、大規模な企業では、複数拠点のデータ統合や高度な分析機能を持つシステムが求められます。自社の組織構造や業務量に応じて、最適なシステムを選定することが重要です。
カスタマイズ性の高さから選ぶ
建設業では企業ごとに業務フローが異なることが多く、自社特有の業務フローをカバーできるERPを選定する必要があります。製品のなかには機能を柔軟にカスタマイズできるものもあるため、標準機能だけでは対応できない業務がある場合は、自社仕様に合わせて設定できるかを確認しましょう。自社独自の業務フローに対応できるシステムであれば、システムへの移行や導入後の運用をスムーズに進められます。
サポート体制の充実具合から選ぶ
建設業向けERPは導入するだけで終わりではなく、導入後の適切な運用やトラブル対応も重要な要素です。特に建設業では現場業務が止まるとすぐに損失が発生するため、運用上のトラブルが起こらないように日頃から対策しておく必要があります。カスタマーサービスが充実している製品を選べば、運用上の課題やトラブルが発生したときに迅速に対応できます。
導入費用から選ぶ
建設業向けERPの導入費用は、導入形態や企業規模などによって大きく異なります。ERPは自社サーバーを利用するオンプレミス型とインターネット上で動作するクラウド型に分かれますが、サーバーや動作環境の構築が不要なクラウド型の方が初期費用を抑えられます。また、利用するユーザーの数や機能の数によって月額費用が変動しやすいため、事前に見積もりを取って比較することが重要です。
おすすめの建設業向けERP
ここからは、建設業界で広く利用されている、おすすめの建設業向けERPを紹介します。
ガリバー匠(ガリバーシリーズ)
「ガリバー匠(ガリバーシリーズ)」は、工事原価管理と経理業務を一体管理できるシステムです。案件ごとの受注から工事完成までの業務を一元管理でき、リアルタイムで経営状況を把握できます。中堅〜大企業向けで、初期費用は約300万円からが目安です。
PROCES.S
「PROCES.S」は、会計管理・原価管理・支払い・請求・入金管理などの建設業に欠かせない業務を網羅した建設業向けERPです。自社の業務特性に合わせてモジュールを組み合わせられる柔軟性が魅力です。中規模企業〜大企業に適しています。
建設WAO
「建設WAO」は、独自のWeb通信技術を活用したクラウド型ERPシステムです。営業管理・見積・原価管理・工事管理など12個のシステムに分かれており、それぞれを連携させながら管理できます。
GRANDIT
「GRANDIT」は、建設業・製造業・サービス業などさまざまな業界で利用されている大企業向けのERPシステムです。調達在庫・経理・給与・債務など幅広い機能を搭載しており、自社に必要な機能を組み合わせて導入できます。
e2movE
「e2movE」は建設・工事業向けに特化したERPで、工事原価管理・販売管理・建設会計に重点を置いています。現場のデータを営業部門や経理部門とリアルタイムで共有でき、スムーズな経営判断を支援します。中堅〜大企業に適したERPです。
まとめ
建設業向けERPは、業務の効率化に加え、原価の可視化やリソース最適化など、経営改善にも直結するシステムです。サービスを選定する際は自社に必要な機能を見極め、運用マニュアルやフローを整備した上で導入しましょう。
株式会社Sun Asteriskでは、業務システムの改善やサポートを行っています。既存の業務システムに課題を感じている企業担当者や、新たな業務システムの導入を検討している企業担当者は、以下のガイドをぜひチェックしてください。
建設業界における Sun Asterisk の支援実績
建設業では、現場ごとに業務プロセスが異なり、データ連携の複雑さからシステム化・標準化が進みにくいケースが多く見られます。Sun Asterisk では、建設業の固有要件に合わせた業務整理、ロードマップ策定、業務アプリケーション開発までを一気通貫で支援してきました。本章では、関連するプロジェクトの一例をご紹介します。
■ 西松建設株式会社:DXビジョン策定からロードマップ構築までの伴走支援

西松建設株式会社では、2022年に策定された「西松DXビジョン」をもとに、将来的に実現すべき新事業の方向性や、ビジョンを具体化するためのロードマップの構築が課題となっていました。
Sun Asterisk(およびグループ会社 NEWh)は、現状(As-Is)と将来像(To-Be)の整理、50件以上の事業機会抽出、短期〜長期のロードマップ構築を通じて、同社のDX推進を上流工程から伴走。抽象的だった未来構想を、組織内で活用可能な具体的計画へ落とし込む支援を提供しました。
この取り組みによって、建設業における新規サービス創出や、地域価値の向上をテーマとした二軸の戦略が明確化され、経営層の承認を経たうえで実行フェーズへ展開されています。
■ 株式会社ミツモア:「プロワン」開発による施工管理業務の生産性向上
株式会社ミツモアが提供する施工管理向け SaaS「プロワン」では、電気工事・水道工事などのフィールドサービス領域で、現場の非効率なプロセスを改善する仕組みづくりが求められていました。
Sun Asterisk は、英語コミュニケーションを含むグローバル開発体制を構築し、コード品質を重視したプロセス、モックアップを通じた仕様すり合わせ、プロトタイプの早期提示を徹底。大企業からの利用増加に対応できる拡張性と、開発スピードを両立させる体制を提供しました。
結果として、プロダクトの進化速度が大幅に向上し、業務効率化・顧客満足度向上につながる基盤構築を実現しています。

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