要件定義は、システム開発の質を左右するプロセスです。この記事では、要件定義の基本的な考え方から作成手順、押さえるべき基本的な要素や必要なスキルなどを解説します。現場で役立つポイントも紹介するので、優れたシステム構築に向け、要件定義のあり方について参考にしてください。
システム開発における要件定義とは
システム開発の初期段階で行われる要件定義は、必要な機能と性能条件を洗い出し、ユーザー・開発者間で合意・文書化するプロセスです。ウォーターフォール型では上流工程の中心作業であり、品質・コスト・納期を左右します。アジャイル開発では徐々に詳細化しますが、いずれも目的の明確化と脱線防止の役割を果たします。
要件定義の目的と重要性
要件定義の目的は、ユーザーのニーズを正確に把握してシステム設計の基盤をつくることです。これにより、開発範囲が明確になり、ユーザー・開発者間の認識の齟齬を減らせます。
要件定義が不十分の場合、開発後期での仕様変更が発生し、コストやスケジュールに大きな影響を与えかねません。また「機能の漏れ」「予算超過」「役立たないシステム」などのリスクを招きます。プロジェクト成功には、要件定義における両者間の緊密なコミュニケーションと合意形成が不可欠です。
要件定義と要求定義・基本設計の違い
要件定義は「要求定義」や「基本設計」と混同されやすいですが、各工程には明確な違いがあります。要求定義は、ユーザーが主体となり「使いやすいシステム」といった抽象的な要望を整理するプロセスです。一方、要件定義は、開発者側が要求を具体的仕様に落とし込むことです。
基本設計は、要件定義の次のフェーズで、「何を作るか」から「どう実現するか」へと進み、システム構造やデータベース設計を定義します。
要件定義書の作成手順と進め方
システム開発における要件定義書の作成には、順序立てた取り組みが必要です。以下では、成功につながる基本的な3ステップを解説します。
1.ユーザーからの要求を明確にヒアリングする
システム開発のスタートは、ユーザーの具体的な要求を把握することです。システムの概要や課題、必要な機能、既存システムとの連携要件など幅広い情報を収集します。単にユーザーの要望を聞くだけでなく、この段階で技術的実現性を判断する必要もあります。5W1Hを意識した質問で、漏れなく情報を引き出すことが重要です。
2.要求を細分化して整理・分析する
ヒアリングした要求は、1つずつ実用性を評価します。要求のすべてを実現することは難しいため、「必須要件」と「希望要件」に分類しましょう。また、技術的難易度といった観点から優先順位をつけ、必要に応じてユーザーと協議しながら代替案を探ります。要求の細分化は、全体スケジュールを把握しやすくし、プロジェクト成功につながります。
3.要件定義書を作成する
収集・整理した情報をもとに要件定義書を作成します。主な構成要素として、次の項目があります。
- システムの概要と構想
- 導入目的
- ユーザーの要求と必須要件
- 業務フロー
- 機能・非機能要件
- 予算・スケジュール
要件定義書は、システム設計の基盤となるものです。専門知識のないユーザーも理解できるよう、平易な表現や図表の活用を心がけましょう。
4. 要件定義の内容を関係者とレビュー・合意形成する
要件定義書の作成後は、関係者全員でレビューを実施し、合意形成を図ります。要件の抜け漏れや曖昧さを発見し、早期に修正するために重要なプロセスです。レビューでは専門用語の使用を避け、一般的な表現を用いて認識の相違を防ぎましょう。この段階での入念な確認が、後工程での大きな手戻りや納期遅延を防ぐことにつながります。
要件定義に必要な4つの基本要素の概要
システム開発の要件定義を適切に行うためには、4つの基本要素を理解し、バランスよく定義することが重要です。以下では各要素の役割と特徴を解説します。
機能要件
機能要件とは、システムが提供すべき具体的な機能や動作を定義するものです。ユーザーの視点から「システムで何ができるか」を明確にします。具体的に、ユーザーの動きに対して、機能がどのように反応するものかを定義します。機能要件は、業務効率の向上に密接に関わるため、重要度を考慮しつつ、網羅的に定義することが重要です。
性能要件
性能要件は、システムのパフォーマンスに関する基準を定義します。具体的には「応答時間は3秒以内」「データ処理能力は1,000件／秒以上」など、数値で表現できる基準値を設定します。ユーザー数やデータ量の増加に対する拡張性も性能要件に含まれ、システムの安定稼働を保証するための重要な指標です。
品質要件
品質要件は、システムの信頼性や安全性など品質面での基準を定義します。具体的には、セキュリティ対策、可用性、耐障害性、保守性、使いやすさなどです。たとえば、「ユーザー認証を実装する」「データの暗号化を行う」といった要件が品質要件に該当します。ユーザー満足度に直結する重要な要素です。
実行計画
実行計画は、開発プロジェクトの管理面での要件を定義します。具体的には、開発工数、コスト、スケジュール、リソース配分、優先順位などです。たとえば、「システム開発は6か月以内に完了」「予算は◯◯円以内」「要件のうち◯◯が最優先」などの計画的要素を明確にします。実行計画は要件の実現可能性を担保し、プロジェクト成功に影響する重要な要素です。
要件定義の成功に必要な能力
システム開発の要件定義の質を高める3つの重要なスキルについて、以下で解説します。
ユーザーの要求を引き出す能力
要件定義では、ユーザーの潜在的な要求まで顕在化させるヒアリング能力が不可欠です。会話の上手さではなく、ユーザーの真の意図を把握し、明確化する力が求められます。ユーザー自身も明確に伝えられていない、潜在的ニーズを見出す洞察力も重要です。
さらに、引き出した要求の実現可能性を判断し、必要に応じて代替案を提案できる交渉力も必要です。特に技術的に難しい要求に対し、明確な反応を示すことも成功への鍵といえます。
実現可能なシステム設計の知識
要件定義の担当者は、ユーザーの要求を実現できる技術仕様へと変換できる知識が重要です。要求を聞いた段階で、完成後のシステムがどのように動くかを具体的にイメージできなければなりません。
また、機能面だけでなく、拡張性や保守性、セキュリティなどの非機能要件も考慮できる広い視野が重要です。技術トレンドや開発手法の理解も含め、実装段階を見据えた現実的な設計知識が求められます。
適切なドキュメントを作成する技術
要件定義では、単にイメージを持つだけでなく、ドキュメントに残す技術が求められます。要件定義書は、プロジェクト全体の指針となる重要な資料であり、開発者やユーザーが共通理解を持つための基盤となります。専門家だけでなく、非技術者も理解できる平易な表現で、かつ曖昧さを排除した正確な記述が求められます。情報の整理と構造化に長けた能力は、要件定義の成功に不可欠なスキルです。
適切な要件定義のための5つのコツ
システム開発の成功を左右する要件定義について、実践的な5つのコツを解説します。
5W1Hを意識したヒアリングを重視する
効果的なヒアリングは、良質な要件定義のために欠かせません。5W1Hフレームワーク（Who、What、When、Where、Why、How）に、「How much（コスト）」を加えた視点で情報を整理すると、曖昧さが排除され、具体的な要件が定義できます。特に「Why（なぜシステム化したいのか）」の背景理解や「What（何を改善したいか）」の明確化が重要です。
また、参加者のIT知識の有無にヒアリング内容が左右されないよう、専門用語を避け、具体的なサンプルを示すなどの工夫が必要です。
現行システムの仕様を事前に把握する
要件定義では、現行システムの仕様や業務フローの理解が不可欠です。特に業務改善が目的の場合は、現行システムの不足点や使いづらさを把握することで、より効果的な改善策を提案できます。
また、ゼロから新しく開発する場合であっても、既存の仕事の進め方や運用中のツールについての確認は欠かせません。事前調査の質が、そのまま完成するシステムの質に直結すると考えましょう。
スケジュール・ロードマップを作成し流れ・目標を明確にする
要件定義の成功には、プロジェクト全体を見据えたスケジュール管理が重要です。ロードマップを作成して、短期・長期の計画を可視化し、段階的リリースのゴールを明確にします。特に、現段階では実装されない機能を将来どのタイミングで追加するかといった、全体の流れを示すことが重要です。
プロジェクトの役割分担を明確にする
要件定義をスムーズに進めるためには、ユーザーと開発側の責任範囲をはっきりと区分けしておくことが必要です。役割分担が曖昧だと不必要な業務が増え、本来の作業に支障をきたす恐れがあります。細分化されたタスクごとに責任者を設定することで、プロジェクト全体の進行が効率化されます。
非機能要件は事前に確認し調整する
機能面以外の品質特性や運用条件といった非機能要件は、ユーザーが見落としがちな領域です。開発側からの積極的な提案が求められます。複数の選択肢と、メリット・デメリットを示し、ユーザーの意思決定をサポートします。運用に不可欠な要件として、重視しましょう。
まとめ
システム開発において、計画段階である要件定義で、丁寧に要求を整理することは、後工程の効率を大きく向上させます。正確な要件把握と定義で手戻りを減少させ、結果的に質の高いプロジェクトになります。この記事で紹介した手法やコツを実践し、効果的な要件定義を目指しましょう。
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