Power Appsはプログラミング不要で業務アプリを作成できるMicrosoftのサービスです。この記事では、Power Appsの国内事例を基に、導入に適した業務や注意点、現場課題のアプリ化方法を解説します。
目次
Power Appsとは
Power Apps(パワーアプリ)は、Microsoftが提供する専門知識がなくても業務アプリを作れるサービスです。画面の作成はドラッグ&ドロップが中心で、プログラミングを学んでいない人でも扱いやすい仕組みになっています。
Excelや紙で管理していた申請、チェックリスト、顧客管理などをアプリ化できるため、入力の手間や集計ミスを減らせます。Microsoft 365 とも連携しやすく、OutlookやTeams、SharePointのデータを組み合わせた業務フローも簡単に構築可能です。
作成したアプリはパソコンだけでなく、スマートフォンやタブレットでも利用できます。現場や外出先でも操作できるため、日々の業務を大きく効率化できる点がPower Appsの強みです。
一方で、データ構造の設計や運用ルールの整備など、内製だけでは難易度が高い部分も存在します。小規模な業務アプリは現場で作成しつつ、大規模化が想定される機能は外部と協力して進める企業も増えています。
Power Apps導入に適した業務の特徴
Power Appsはノーコードで手軽にアプリを作れる特性を生かし、社内向けの業務や少人数チームでの業務効率化に適しています。ここでは、導入に向く業務の特徴を解説します。
社内の限られたメンバーで使う業務システム
Power Appsは社内ユーザーに限定したシステムで最も力を発揮します。少人数のチームでの承認フローや情報共有の効率化、日常業務の自動化などを簡単に実現できます。外部公開を前提とした高度なアクセス制御や、SLA設計には制約があるため、顧客向けサービスや商用システムには不向きです。PowerAppはあくまで、”社内の業務改善領域”で力を発揮する設計思想です。
Microsoft製品と連携させたい業務
TeamsやSharePoint、Excelなど、すでにMicrosoft 365を活用している場合、Power Appsとの親和性は非常に高くなります。これらのツールのデータを直接参照したり、通知や承認を連携させたりできるため、業務フローの一元化や作業の効率化に役立ちます。
扱うデータ量が限定的な業務
Power Appsにはデフォルトで扱えるデータ件数に制限があります。少量のデータであれば問題なくアプリ化できますが、数千件単位の大規模データや複雑な処理を伴う業務には向いていません。データ量が限定的な業務でこそ、開発スピードやコスト削減のメリットを最大限に生かせます。
Power Apps導入で注意すべき業務
Power Appsは便利なツールですが、全ての業務に適しているわけではありません。ここでは、導入時に注意が必要な業務の特徴を解説します。
社外の顧客や取引先も使うシステム
Power Appsは基本的に社内ユーザー向けに設計されており、社外メンバーを含めて利用する場合はセキュリティ管理が複雑になります。外部ユーザーにアクセス権を付与できますが、情報漏洩のリスクが増すため、外部向けシステムには慎重な運用が求められます。
大量のデータを処理する必要がある業務
データ件数が多い業務では、Power Appsの制限により正しく動作しない可能性があります。標準設定では500件までのデータ取得が推奨で、最大2,000件まで設定変更可能ですが、それ以上のデータ量を扱う場合は処理が遅くなるか、エラーが発生する恐れがあります。特にSharePointリストをデータソースにした場合、一覧データが増えるほどパフォーマンスが低下しやすく、企業規模の業務には Dataverse(有償)への移行が必要になるケースもあります。
デザインや見た目を重視する業務
Power Appsはローコードで開発できる分、自由なデザインには制限があります。Webアプリや専用開発で可能な細かいデザイン調整は難しいため、見た目や操作性を重視する業務には適していません。必要に応じて他ツールとの併用やデザインの簡略化を検討するとよいでしょう。
Power Appsの活用事例
Microsoft Power Appsは、専門的な開発知識がなくても業務アプリを作成できるため、国内企業のDX推進や業務効率化に活用されています。ここでは、従業員のスキル向上や業務改善につながった具体的な事例を紹介します。
※本記事で紹介している事例は公開情報をもとにした紹介事例です。 当社の支援実績ではありませんが、技術選定や活用の参考として掲載しています。
1. 旭化成
旭化成株式会社は、DX推進の一環としてPower Platformを活用し、業務自動化や効率化に取り組んでいます。研修で学んだ知識を現場で生かし、安全活動のヒヤリ・ハット登録や工場帳票レポートの電子化を進めてきました。
さらに、複数の市民開発アプリを導入して、従業員が自ら課題を発見し、改善策を実行できる体制を整えています。
2. サントリー梓の森工場
サントリー株式会社の梓の森工場では、Power Appsを活用して現場主体のシステム開発を進めています。多品種大量生産という現場の特性に合わせ、従来の紙ベースのチェックシートや管理業務を電子化しました。
たとえば、製造設備の点検状況をデジタルで記録するアプリや、IoTと連携した熱中症アラート通知、健康管理アプリなどが導入され、業務効率やデータの正確性が向上しています。現場担当者が自らアプリを開発できることで、改善のスピードが早まり、工場内でのDX推進が加速しています。
3. ホクレン
ホクレン農業協同組合連合会では、Power Appsを活用して現場主体の業務改善を進めています。組織内の業務要領やマニュアルを検索できるアプリや、文書の入出庫管理をデジタル化するアプリ、部署からの報告書収集を自動化するアプリなどを開発しました。
プログラミング知識がなくても直感的にアプリを作成できるため、現場職員が主体となって開発を行い、業務効率やITリテラシーが向上しています。トップダウンとボトムアップの両輪で、組織全体のDXが進んでいます。
4. 静岡県島田市
静岡県島田市では、少子化対策と子育て支援のため、Power AppsとPower Pagesを活用した子育て支援プラットフォーム「しまいく+」を開発しました。妊娠期から18歳までの子を持つ親を対象に、マイナンバーカード認証で個々に最適化された情報を提供し、各種手続きや問い合わせをオンラインで完結できるようにしました。
このプラットフォームにより市民の利便性が向上し、職員は事務作業を効率化して市民サービスに専念できるようになっています。将来的には、防災や福祉など他分野への拡張も視野に入れています。
5. 経済産業省
経済産業省は、中央省庁や自治体の行政手続きのデジタル化を進めるため、Power Appsを活用した実証実験を開始しました。
従来は手続き件数の少ない業務でデジタル化が進まなかったものの、プログラミング知識が不要なPower Appsを使うことで、職員が迅速にアプリを作成し、手続きの効率化や低コスト化を検証できる体制を整えています。
6. トヨタ自動車
トヨタ自動車では、全社的なDX推進の一環として、工場現場でPower Platformを活用した市民開発によるアプリ作成を本格化させています。外注に頼らず内製でシステムを開発できるため、本番稼働までのリードタイム短縮や業務効率化が進み、デジタル領域での改善活動も加速しています。
7. ニトリ
ニトリでは、定着しなかった他社SFAをPower Appsで内製開発したオリジナルSFAアプリに置き換え、営業活動の効率化を実現しました。ノーコード・ローコードにより迅速に開発でき、現場の要望に応じてカスタマイズも可能になったことで、社内での定着率が向上しています。
8. 北陸先端科学技術大学院大学
北陸先端科学技術大学院大学では、既存システムの多さや使いにくいUIで業務が非効率でした。しかし、Power Appsを導入することでノーコードでのアプリ開発が可能となり、押印業務などアナログ作業も含め、業務負荷を大幅に軽減できました。
【課題別】Power Appsの使い方
企業の現場では、日常業務におけるさまざまな課題が存在します。ここでは、現場でよくある3つの課題別に、具体的な活用方法を紹介します。
手作業の入力や集計をなくしたい
手作業でのデータ入力や集計は、ミスや時間のロスにつながりやすい作業です。Power Appsを使えば、定型作業を自動化でき、必要な情報をアプリ上で一括管理できます。たとえば、Excel集計をPower Apps+Power Automateに置き換えるだけで、入力→整形→集計→通知までを自動化でき、担当者の作業時間を大幅に削減できます。
バラバラに管理している情報を一箇所にまとめたい
部署ごとに散らばった情報は、確認や共有に手間がかかり、必要な時にすぐ取り出せないことがあります。Power Appsなら、複数のデータを一元管理でき、リアルタイムでの更新や共有も簡単です。その結果、情報の抜け漏れや重複を防ぎ、チーム全体で効率よく業務を進められます。
申請業務や報告作業の手間を減らしたい
紙やExcelで行う申請や報告は、作成や確認のために時間がかかり、上長が不在だと承認も滞りがちです。Power Appsを活用すれば、申請や承認をアプリ上で完結でき、外出先からでも手続きを進められます。こうして業務の流れがスムーズになり、従業員の負担を大きく軽減できます。
Power Appsの導入時に押さえておくべきポイント
ここでは、導入時に注意しておきたい3つのポイントを解説します。
今の業務フローを整理してから始める
アプリ作成の前に、現在の業務フローや関係者、必要なデータを整理しておくことが大切です。整理が不十分だと、承認や連絡の抜け漏れ、入力項目の不足などが発生し、せっかく作ったアプリが現場で使いにくくなります。まずは業務の全体像を把握してから作り始めましょう。
小さく作って少しずつ広げる
最初から完璧なアプリを目指すより、必要最小限の機能だけでお試し版を作ることが効率的です。少人数で実際に使ってもらい、操作性や必要な機能を確認しながら改善していくことで、無駄な開発時間を減らし、現場にフィットしたアプリを作れます。
特定の人だけが使えるという状況を避ける
アプリ作成や修正を特定の人に任せきりにすると、その人の不在時や異動時に業務が滞るリスクがあります。勉強会や分業、作成時の工夫を共有することで属人化を防ぎ、誰でも運用できる体制を整えることが重要です。
まとめ
Power Appsは、専門的なプログラミング知識がなくても始められる一方で、実運用を見据えると、データ設計や基本的な関数の理解が求められる場面もあります。
また、導入にあたっては、業務フローの整理や運用ルールの設計が重要です。少人数での社内業務やMicrosoft製品との連携に適しており、試作と改善を重ねながら現場にフィットさせていく進め方が有効でしょう。
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