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AIブームの裏側で起きている本当の地殻変動|データから読み解くIT市場の少し先の未来

AIブームの裏側で起きている本当の地殻変動|データから読み解くIT市場の少し先の未来

更新日: 2025年12月5日

AIブームの裏側で起きている本当の地殻変動|データから読み解くIT市場の少し先の未来

「生成AIを活用して、ビジネスを変革したい」 現在、多くの企業様がそのような期待を胸に、新たなプロジェクトへの取り組みを始められています。Sun*においてもAIを活用したプロダクト開発の支援実績が増えており、そのプロダクトを生み出す開発のライフサイクルに独自のAI駆動のプラットフォームを取り入れています。

Bloomberg Intelligenceの調査によれば、生成AI市場は今後10年間で年率42%という爆発的な成長を遂げ、2032年には1.3兆ドル規模に達すると予測されています。この数字だけを見れば、まさに「ゴールドラッシュ」と呼ぶにふさわしい勢いです。

しかし、みずほ銀行産業調査部の最新レポート「日本産業の中期見通し ー向こう5年(2026ー2030年)の需給動向と求められる事業戦略ー」や市場データを突き合わせると、この華やかなAIブームの裏側で、より足元の堅実な、しかし巨大な「資金の流れ」の変化が起きていることに気づかされます。

注目すべきは、すでに社会インフラとして成熟したはずの「クラウド市場」が、グローバルで年率+21.0%という、新興市場並みのペースで「再加速」しているという事実です。

今回は、AI市場の爆発的成長とセットで語られるべき、この「インフラ再構築」の巨大な波について、データをもとに考察してみたいと思います。

巨大なインフラ市場が、なぜ今「再加速」しているのか

まず、この「+21.0%」という数字の持つ意味を、市場の規模感から考える必要があります。

各種調査機関のデータを参照すると、生成AI市場は急速に立ち上がりつつあるものの、現時点では数百億ドル規模です。対して、クラウド市場はすでにその10倍以上、数千億ドル規模の巨大な社会インフラとなっています。

通常、市場が成熟し規模が大きくなれば、成長率は緩やかになるものです。しかし、クラウド市場は依然として高い成長率を維持、あるいは再加速しています。これは、「AI関連として投資された予算の多くが、実はそれを支えるクラウド基盤の利用や強化に充てられている」ことを示唆しているのではないでしょうか。

AIという最新の技術を導入しようとした時、私たちは改めて、その土台となるインフラの重要性に気づかされるのです。

AWSやAzureの決算が語る「実態」

この仮説は、主要なクラウドベンダーの決算データからも裏付けられます。

例えば、AWS(Amazon Web Services)の売上高成長率の推移を見てみましょう。 2023年は多くの企業が「コスト最適化(節約)」に動いたため、成長率は一時12%まで低下しました。しかし、2024年に入ると回復基調へ転じ、AIの実装フェーズに入った2025年には、再び20%台へと「再加速」するトレンドが確認されています。

「2022年以来見られなかったペースで成長している」
AmazonのCEO、アンディ・ジャシー氏

CEOのコメントしており、このV字回復の背景には、明らかにAI需要に伴うインフラ投資の再開があります。

クラウドインフラ市場を長く追跡しているSynergy Research Groupが発表した最新レポート(2025年2月)が、この傾向を決定づける数字を出しています。

レポートによれば、2024年のクラウドインフラ市場規模は3,300億ドル(約50兆円)に達しました。特筆すべきは、その成長の中身です。

“GenAI is Now Driving Half of the Growth”
(生成AIが今や成長の半分を牽引している)

同社は、「ChatGPTが登場して以来、クラウド市場の成長分のうち少なくとも半分は、生成AI関連の需要(新しいAIサービスやGPU基盤など)によるものである」と分析しています。

2023年に一度減速したクラウド市場が、2024年に入り年率22%超へと力強く「再加速」した要因の正体は、やはり「AIを動かすためのインフラ投資」だったことがわかります。

「リフト&シフト」の限界。AI導入を阻む「3つの技術的な壁」

なぜ今、改めてクラウドへの巨額投資が必要とされているのでしょうか。 その背景には、これまでの主流だった「リフト&シフト(既存システムをそのままクラウドに移す)」というアプローチが、AI時代においては通用しなくなっているという現実があります。

リフト&シフト(既存システムをそのままクラウドに移す)」というアプローチが、AI時代においては通用しなくなっている

もし貴社が、「とりあえずクラウドには移行してあるから大丈夫」と考え、古い設計のままの環境に最新のAIを導入しようとすれば、ほぼ間違いなく以下の「3つの技術的な壁」に直面することになります。

これらは、システムを根本から作り直す(モダナイゼーション)ことでしか乗り越えられない壁です。

AIを効果的に活用するためには、主に以下の3つの観点で、インフラの「モダナイズ」が必要となります。

「リフト&シフト」の限界。AI導入を阻む「3つの技術的な壁」

1. データ基盤の整備(RAG対応)

AIが読めるデータ形式になっていない

課題(壁): 多くの企業データは、従来のデータベース(RDBMS)やファイルサーバーに保管されています。しかし、AIに学習させたい社内マニュアルや議事録といった「非構造化データ(文章)」は、そのままではAIが意味を理解して処理することが困難です。「データはあるのに、AIが使えない」という現象が起きます。

解決策「ベクトルデータベース」のような新しいデータ基盤を導入する必要があります。これにより、文章をAIが解釈できる「意味の近い数値の羅列(ベクトル)」に変換して保存できます。この基盤があって初めて、AIは社内ドキュメントの内容を正確に理解し、業務に活用(RAG)できるようになるのです。

2. コストの最適化(GPU活用)

AIの利用料が高すぎる

課題(壁): AIを動かすGPUサーバーは、一台で高級車が買えるほど高価です。これを旧来の「リフト&シフト」感覚で、仮想マシンとして24時間動かしっぱなしにしていては、あっという間に予算が溶けてしまいます。多くのAIプロジェクトがPoC(実証実験)止まりになる最大の原因がこれです。

解決策: 必要な時だけリソースを起動し、処理が終われば自動的に停止させる「サーバーレス」や「コンテナ技術」といったクラウドネイティブな手法を採用します。リソース消費をミリ秒単位で制御し、使わない時はコストをゼロにする(Scale to Zero)アーキテクチャへの変更が、採算を合わせる唯一の道です。

3. システム連携の柔軟性(API化)

AIが他のシステムと会話できない

課題(壁): 従来の業務システムは、全ての機能が一枚岩のように固まった「モノリシック」な構造になっていることが多く、外部から「在庫を確認したい」「注文を確定したい」といった特定の機能だけをAIに叩かせることが困難です。これでは、AIはただの「賢いチャットボット」止まりで、実際の業務を代行できません。

解決策: システムの各機能を、外部から呼び出し可能な独立した部品(API)として整理します。これにより、AIエージェントがAPIを通じて社内システムと会話し、「在庫確認」や「発注処理」といった実業務を自動化できるようになります。

このように、AI活用を目指すプロセスそのものが、結果として「クラウドネイティブな環境への再構築(強制リフォーム)」を促しています。 現在起きているクラウド市場の「再加速」は、企業がこれらの壁を乗り越えるために、本腰を入れてインフラ投資を始めた証左と言えます。

AI時代の基盤づくりを支える Sun* のエンドツーエンド支援

ここまで述べてきたように、AI 活用の本格化は、企業に“基盤づくり”そのものの見直しを促しています。では、この複雑な課題をどのように乗り越えていくべきなのでしょうか。

AI活用には、インフラ・データ・アプリケーション・セキュリティ・運用までを含む総合的な基盤が必要です。Sun* はこの全領域を一気通貫で支援します。

AI-Ready SDLC(AI時代の開発プロセス)

AIと人が協働する前提で開発プロセスを再設計。属人的な作業を減らし、スピードと品質を両立します。

HEART Development(AI × ユーザー中心の高速開発)

AI活用とユーザー中心設計を組み合わせ、アイデアからプロトタイプ検証までを短いサイクルで進めます。

MoMorph(デザイン起点のスペック生成)

FigmaデザインからAIが仕様書やテストケースを自動生成し、設計から実装・テストまでを効率化します。

AI*Agent Base(企業向けAIエージェント基盤)

企業内クラウドでAIエージェントを安全に構築・運用し、既存システムと連携した業務自動化まで可能にします。

AI開発(構想 → PoC → 本番 → MLOps)

構想策定からPoC、実装、運用までを一貫支援。LLMやRAGなど多様な技術で実用的なAIを実装します。

Sun* DevOps(開発・運用基盤)

CI/テスト/監視を自動化し、継続的にサービスを改善できる堅牢な開発・運用体制を構築します。

クラウド構築・運用(AWS等)

AWSを中心にクラウド環境を設計・構築・監視し、スケーラブルで安全な基盤を整えます。

ペネトレーションテスト+脆弱性評価

国際基準に基づいて脆弱性を診断し、具体的な改善策まで支援するセキュリティサービスです。

AIだけではない、クラウドを加速させる「複合要因」

もちろん、クラウド市場の再加速を支えているのはAIだけではありません。市場全体を見渡すと、AIとは別の文脈でも、より高度で複雑なクラウド環境への投資圧力がかつてないほど高まっています。

例えば、金融や公共、製造といった保守的な領域でのクラウド移行が本格化する「クラウドシフトの後半戦」に入ったことや、基幹システムのSaaS化が進んでいることが挙げられます。 さらに、システムがハイブリッドやマルチクラウド化することで複雑性が増し、それを制御するための新たな機能(ObservabilityやPolicy as Codeなど)への投資も不可欠になっています。

こうした環境の複雑化は、必然的に「セキュリティ」のあり方にも変革を迫ります。

「監視」から「解決」へ。セキュリティに求められる変化

インフラが複雑化し、かつコードで管理されるようになれば、セキュリティのアプローチも進化しなければなりません。 レポートでは、セキュリティの「マネージドサービス(運用代行)」が年率+17.3%で伸長すると予測されていますが、この背景には単なる人手不足以上の理由があります。

① 「ゼロトラスト」や「サプライチェーン」への対応

 「ゼロトラスト」や「サプライチェーン」への対応

従来のような「境界を守れば安全」という考え方は通用しなくなりました。クラウドネイティブな環境では、すべてのアクセスを疑う「ゼロトラスト」アーキテクチャや、ソフトウェアの構成要素を管理する「SBOM」への対応など、高度なセキュリティ要件が標準となりつつあります。これらは、古いオンプレミス環境や単純な移行(Lift & Shift)では実装が困難であり、最新のクラウド環境への移行を促す要因となっています。

② アラート対応の限界と「エンジニアリング」の重要性

アラート対応の限界と「エンジニアリング」の重要性<

サイバー攻撃がAIによって自動化・高速化する中で、アラートを検知して人が目視で対応するという従来の方法(SOC)だけでは、もはや防御が追いつきません。 今後は、異常を検知するだけでなく、「エンジニアリングによって、根本的な修正(Fix)や対策をコードレベルで迅速に行う」能力が、より一層重要になります。

単に「ここが危ないです」とリスクを指摘するだけの診断ではなく、技術的な解決策を実装し、複雑化したクラウド環境全体を安全な状態に維持できる(DevSecOpsを実践できる)パートナーの存在が、今まさに求められているのです。

内製化の進展と、これからの役割

生成AIの普及により、ユーザー企業様自身による開発(内製化)が進むと予測されています。これは喜ばしい変化である一方、セキュリティや品質の観点では新たな課題も生まれます。

こうした時代において、私たちのようなクライアントの開発を支援する企業が求められる役割も変わっていくでしょう。 これまでの「システムの構築を請け負う」役割に加え、「クライアントが安全に開発できる環境を整える」ことや、「作られたものが適切かどうかの品質を担保する」といった、伴走者としての役割が重要になると考えています。

Sun* では、単なる外注ではなく、お客様の内製化支援もしており、品質・セキュリティ・アーキテクチャの観点から継続的に支援する伴走モデルを提供しています。

AI活用は、未来への「基礎工事」

本記事で見てきたように、AIブームという華やかなトレンドをきっかけに、多くの企業が自社の足元にあるクラウドインフラの強化へと着実に取り組み始めています。

重要なのは、このインフラ強化は単なる目先のコストではない、ということです。AIのために整備された最新のクラウド基盤は、AI以外のあらゆるビジネスのスピードや柔軟性も高める、極めて前向きな投資と言えます。

AIという強力なきっかけは、金融や公共分野でのクラウド本格化や、ゼロトラストといった高度なセキュリティ要件の高まりといった、以前から存在したITインフラ近代化への圧力と結びつき、この「基礎工事」を不可避なものにしています。

長年の課題であったシステムの老朽化やデータのサイロ化といった問題を解消し、より強固で変化に強いビジネス基盤を築くこと。今、私たちが目の当たりにしているクラウド市場の再加速は、日本企業が次の成長ステージへ進むための、未来に向けた「基礎工事」の期間と捉えることができるのではないでしょうか。

Sun は、この“基礎工事”を着実に進めるためのパートナーとして、クラウド・データ・AI・セキュリティのすべてを横断した支援を提供し、企業が次の成長ステージへ進むための足場づくりを共に行っていきます。