OWASPは長年にわたり、セキュリティ分野で幅広く認知される資料を提供し続けてきました。その中でも特に有名なのが「OWASP Top 10」で、ウェブアプリケーションにおける最も一般的な10のセキュリティ欠陥をリストアップしたものです。セキュリティ分野に関心がある人なら、この資料を知らない人はいないと言っても過言ではありません。
さらに、OWASPはウェブアプリケーション以外の分野にも目を向けており、多くの専門的な資料を公開しています。その中でも「OWASP Mobile Application Security」は、モバイルアプリのセキュリティにおける重要なガイドラインとして広く活用されています。この資料には、モバイルアプリが直面する一般的なセキュリティ脅威の詳細なリストが含まれているだけでなく、開発者がアプリを保護するための具体的な手法やツールも提案されています。
スマートフォンが普及し、モバイルアプリが攻撃の標的となる機会が増える中、「OWASP Mobile Application Security」は、ユーザーとそのデータの安全性を守るために欠かせない役割を果たしています。この資料は、開発者がセキュアなモバイルアプリを構築するための信頼できる指針として、今後も高い価値を提供し続けるでしょう。
OWASP MAS – モバイルアプリケーションセキュリティ
OWASP MAS 2.0は、モバイルアプリケーションのセキュリティテストを行う上で非常に有用で、旧バージョン1.0と比較して大幅に改善されています。この新バージョンは、セキュリティテストのプロセスをより分かりやすく効率的にし、新規ユーザーがモバイルアプリのセキュリティテストに親しみやすくなるように設計されています。結果として、ユーザーは学習にかかる時間を大幅に短縮できます。
OWASP Mobile Application Security(MAS)は、OWASPが提供するモバイルアプリケーションのセキュリティ向上に特化した包括的なプロジェクトです。このプロジェクトの中心的な要素として、「OWASP Mobile Top 10」があります。このリストは、モバイルアプリにおける代表的なセキュリティ脆弱性を体系的にまとめたもので、開発者がよく直面するセキュリティリスクを認識し、それらに適切に対処するための指針を提供しています。
MASプロジェクトには、以下のような有益なリソースが含まれています。
MSTG(Mobile Security Testing Guide)
モバイルアプリのセキュリティテストを体系的に行うためのガイドライン。
MASVS(Mobile Application Security Verification Standard)
アプリケーションのセキュリティを検証するための基準を提供。
安全なモバイルアプリ開発のガイド
セキュアなアプリ開発を支援する実践的な情報。
これらの資料は、モバイルアプリのセキュリティテストを行うための標準やプロセスを提供し、開発者がアプリのセキュリティを向上させるための貴重な助けとなっています。
引用元:OWASP Mobile Application Security
また、MASプロジェクトは、モバイルアプリケーションが直面するセキュリティ脅威を分析し、以下のような分野における具体的な対応策を示しています。
データの暗号化
安全なデータ保護のための技術。
アクセス制御
不正なアクセスを防ぐための仕組み。
セキュアな開発ライフサイクルの確立
開発プロセス全体を通じてセキュリティを維持する手法。
OWASP MASプロジェクトは、モバイルセキュリティの需要が高まる中で誕生し、日々進化する脅威や最新のセキュリティ技術を反映し続けています。各バージョンの更新を通じて、新たな課題に対応するための知見が盛り込まれており、開発者が複雑な環境下でモバイルアプリのセキュリティレベルを維持し、さらに向上させるための重要なリソースとなっています。
MAS 2.0は、その最新の知見を活かし、モバイルアプリのセキュリティ確保における新しいスタンダードを提示しています。これにより、モバイルアプリ開発者はより安全なアプリケーションを効率よく作成できるようになるでしょう。
OWASP MAS(Mobile Application Security)バージョン2.0
現在、MAS(Mobile Application Security)はバージョン2.0にアップデートされ、以下のような重要な改良と変更が加えられました。
OWASP Mobile Top 10の更新
モバイルアプリにおける代表的なセキュリティ脆弱性リストが最新化されました。
MASWE(Mobile Application Security Weaknesses and Exposures)の開発および公開
モバイルセキュリティに特化した新たな弱点と脆弱性のリストが提供されました。
MASTG(Mobile Application Security Testing Guide)の更新
テストガイドが改良され、最新の脅威や技術に対応する内容に刷新されています。
さらに、セキュリティやモバイルアプリ分野で著名な組織(例: Oversecured)がOWASP MASプロジェクトに貢献しており、その結果、プロジェクト内のドキュメントの正確性と実用性が向上しています。
OWASP Mobile Top 10 2024:MAS 2.0の注目すべきポイント
2016年版のMobile Top 10から2024年版へのアップデートには、8年もの年月が費やされました。この間にモバイルアプリのセキュリティにおける課題は大きく変化し、新たなリストには多くの重要な変更が含まれています。
2024年のTop 10リストにおける主な変更点
新しい項目の追加
追加された4つの項目
- M1
- M2(Inadequate Supply Chain Security)
- M4
- M6
項目の統合
- M3:旧M4とM6が統合され、より包括的な内容に
- M7:旧M8とM9が統合され、簡潔かつ実践的な内容に改良
項目の昇格
- M8(旧M10)は、内容の拡充とともにランキングが上昇
項目の降格
- M3はM5に降格
- M2はM9に降格
- M5はM10に降格
これらの変更から、モバイルアプリのセキュリティの焦点が大きくシフトしていることがわかります。
モバイルアプリの進化とセキュリティの新たな焦点
2016年版のTop 10では、アプリケーションとオペレーティングシステム間の相互作用に関連する項目が上位を占めていました。当時は、アプリケーション自体が多くのセキュリティ上の責任を負う必要がありました。しかし、2024年版では、セキュリティの焦点が次のように変化しています。
- トップにランクインする項目が、認証、権限管理、コンポーネント間通信など、より高度な機能に関する課題へと移行。
- 「Insecure Data Storage(不適切なデータ保存)」は、旧M2からM9へとランクダウン。この変化は、データ保存においてアプリがより慎重になり、サーバー側でのセキュリティ確保が重要視されていることを示しています。
新たに追加された項目
Inadequate Supply Chain Security(M2)が新規に追加されました。モバイルアプリがサードパーティのサービス、ライブラリ、オープンソースコードに大きく依存している現状を反映しています。近年、サプライチェーン攻撃が増加しており、モバイルアプリにおいてもこの脅威が顕著になっています。そのため、この問題に対する慎重な検証と対策が、今後のモバイルセキュリティの向上において極めて重要です。
2016年版と2024年版の比較
引用元:OWASP Mobile Top 10
画像ライセンス:Creative Commons Attribution-ShareAlike 4.0 International(CC BY-SA 4.0)
2016年版のTop 10では、アプリケーションとオペレーティングシステム間の連携や相互作用に関連する項目が上位を占めていました。この当時、セキュリティの多くの責任がアプリケーション側に集中しており、アプリ自体がその役割を果たす必要がありました。
しかし、2024年版では、セキュリティの焦点が大きくシフトしています。現在のリストでは、認証、権限管理、コンポーネント間の通信といった分野がトップに位置づけられています。この変化は、モバイルアプリのセキュリティ課題がより高度化・多様化していることを反映しています。
特に「Insecure Data Storage(不適切なデータ保存)」の順位が、旧M2からM9へとランクダウンしている点は注目に値します。この項目は依然として重要ではありますが、以前ほど深刻な課題としては捉えられていないことが分かります。これは、現代のモバイルアプリが端末にデータを保存する際に、より慎重な手法や暗号化技術を採用しているためです。また、モバイルアプリのセキュリティの重点がクライアント側からサーバー側に移行しつつあることを示しています。
この変化は、モバイルアプリが進化し続ける中で、セキュリティアプローチがどのように進化してきたかを物語っています。開発者やセキュリティ担当者は、この新しいリストを活用して、より適切なセキュリティ対策を講じる必要があるでしょう。
Inadequate Supply Chain Security(M2)
新たに追加された「Inadequate Supply Chain Security(M2)」は、モバイルアプリがサードパーティのサービス、ライブラリ、オープンソースコードを多用している現状を反映しています。これらの外部リソースは、開発効率を向上させる一方で、セキュリティ上の新たなリスクをもたらしています。
近年では、サプライチェーンを狙った攻撃が急増しており、これにより多くのモバイルアプリが攻撃の対象となっています。たとえば、信頼できないライブラリの利用や、不十分な検証を経たサードパーティ製コンポーネントの採用が原因で、アプリ全体のセキュリティが脅かされるケースが増えています。そのため、開発者やセキュリティ担当者は、アプリケーションで使用する外部リソースを慎重に選定し、その安全性を十分に検証する必要があります。
M2がTop 10に加わったことは、モバイルアプリのセキュリティ強化においてサプライチェーンリスクの重要性が高まっていることを示しています。この問題に適切に対処することは、アプリの全体的なセキュリティを向上させ、将来的な攻撃を防ぐために欠かせません。
MASWE
MASWE(Mobile Application Security Weaknesses and Exposures)は、OWASPがMAS(Mobile Application Security)プロジェクトに新たに追加した資料で、モバイルアプリケーションのセキュリティにおける重要なリソースです。MASWEは、以下の役割を担っています。
- MASTG(モバイルアプリケーションセキュリティテストガイド)
- MASVS(安全なモバイルアプリケーション開発ガイド)
これら2つの間をつなぐリンクとして機能します。MASWEは、セキュリティ上の脆弱性や潜在的なリスクのリストを提供しており、これらはアプリ開発プロセスが適切に管理されない場合、実際の脆弱性として現れる可能性があります。
引用元:Introducing the new Mobile App Security Weakness Enumeration (MASWE)
画像ライセンス:Creative Commons Attribution-ShareAlike 4.0 International(CC BY-SA 4.0)
MASWEの特徴と役割
MASWEの役割は、モバイルアプリケーションにおいて、一般的なアプリケーション分野で使用されるCWE(Common Weakness Enumeration)と同様の位置づけを持っています。具体的には、以下の特徴を備えています。
広範なリスト項目
現在、MASWEには108の項目が収録されており、モバイルアプリケーションのセキュリティに関するあらゆる脆弱性やリスクを網羅しています。このリストは、今後さらに拡充される予定です。
プラットフォームごとの対応
各カテゴリには、適用されるプラットフォーム(Android、iOS)が明確に記載されており、開発者が自分のプロジェクトに適したリスクを特定しやすくなっています。
セキュリティレベルの分類
各項目には、そのリスクが関係するセキュリティレベルが明示されており、優先順位をつけて対処するための指針を提供します。
MASVS IDとのリンク
各脆弱性には対応するMASVS IDが関連付けられており、開発者がMASVSの基準に従って安全なアプリを構築する際の道しるべとなります。
MASWEの意義
MASWEの導入により、開発者はモバイルアプリのセキュリティ上の弱点を体系的かつ具体的に把握することが可能になります。また、MASTGやMASVSとの統合により、セキュリティテストと開発プロセスをシームレスにつなぐことができるため、セキュアなモバイルアプリケーションを効率的に設計・構築するための強力なツールとなっています。
MASWEは、モバイルアプリケーションセキュリティの分野で、開発者やセキュリティ担当者にとって不可欠なリソースとなるでしょう。これにより、より堅牢で安全なモバイルアプリケーションの構築が進むことが期待されます。
引用元:Mobile Application Security Weakness Enumeration (MASWE)
画像ライセンス:Creative Commons Attribution-ShareAlike 4.0 International(CC BY-SA 4.0)
MASTG
MASTG(Mobile Application Security Testing Guide)は、モバイルアプリケーションのセキュリティテストを実行する人々にとって、非常に重要なガイドです。このガイドは、セキュリティテストに関する最新の更新と有益な情報を提供しており、モバイルアプリの安全性を検証するための基盤となります。
MASTG 1.0の概要
MASTG 1.0は、モバイルアプリケーションのセキュリティテストを体系的に行うためのガイドとして設計されており、以下のような主要なセクションに分かれています。
ローカルデータストレージ
データが端末内に保存される際のセキュリティリスクを評価する方法。
暗号化
データの暗号化に関する適切な実装とその検証手法。
ネットワーク接続
通信が安全に行われているかどうかをテストする方法。
リバースエンジニアリング
アプリのコードや動作を逆解析することによるセキュリティ上の弱点の特定。
これらのセクションにより、ユーザーはアプリケーションのセキュリティに関する特定の領域を詳細に検証できます。
引用元:Mobile Application Security Weakness Enumeration (MASWE)
画像ライセンス:Creative Commons Attribution-ShareAlike 4.0 International(CC BY-SA 4.0)
MASTG 1.0の課題と改善点
MASTG 1.0では、セキュリティテストの手法が幅広く紹介されているものの、以下のような課題がありました。
詳細なガイダンスの不足
テスト方法が簡単に説明されている一方で、具体的な手順や深い解説が不足している箇所がありました。このため、初心者や経験の浅いテスターがすべての項目を十分にテストすることは難しい場合がありました。
カバレッジの限定
テスト項目が網羅的でない部分があり、すべての潜在的なリスクを検証できないケースがありました。
MASTGの進化と重要性
その後のバージョンアップで、MASTGはこれらの課題を克服し、より実践的かつ包括的なガイドに進化しています。現在のバージョンでは、次のような点が強化されています。
- 詳細なテスト手順の追加
- 各セキュリティ領域における具体的なリスクとその対策方法の解説
- 実際のテストに役立つツールやリソースのリストアップ
これにより、初心者から経験豊富なテスターまで、幅広いユーザーが効率的かつ効果的にモバイルアプリのセキュリティテストを実行できるようになりました。
MASTGは、モバイルアプリのセキュリティテストを行うための強力なツールであり、開発者やセキュリティ専門家がアプリケーションの脆弱性を特定し、改善するための指針を提供します。これを活用することで、より安全で信頼性の高いモバイルアプリケーションを構築することが可能となります。
引用元:OWASP MASTG
画像ライセンス:Creative Commons Attribution-ShareAlike 4.0 International(CC BY-SA 4.0)
MASTG 2.0の主な改善点と特徴
MASTG 2.0では、以前のバージョン1.0の大きな欠点が修正され、モバイルアプリケーションのセキュリティテストにおける包括的なリソースへと進化しました。もはや単なるテストガイドに留まらず、以下のような実用的な機能を提供しています。
各テスト項目に対応する具体的なテストケース
ユーザーは、明確な手順に従って各項目をテストできるようになりました。
テストツールのリスト
各テストケースに適したツールが紹介されており、効率的にセキュリティを検証できます。
具体的な技術とガイダンスの提供
各項目とテストケースに対して、詳細な技術的アプローチと実践的なガイダンスが含まれています。
練習用アプリケーション
実際にセキュリティテストを練習できるアプリが提供されています。
デモアプリケーション
実践的な解説を含むデモアプリがあり、初心者でも理解しやすい構造になっています。
引用元:OWASP MASTG
画像ライセンス:Creative Commons Attribution-ShareAlike 4.0 International(CC BY-SA 4.0)
テストケースの現状と展望
現在、提供されているテストケースは92件ですが、この数は将来的に増加することが期待されています。特に、1つのMASTG項目に対して複数のテストケースが含まれる可能性があり、より幅広いリスクに対応できるよう進化していくでしょう。
初心者に優しいセクション
MASTG 2.0では、初心者にも分かりやすいガイダンスが充実しています。テスト技術のセクションでは、モバイルアプリケーションセキュリティに取り組む初学者向けに簡潔で明確な説明がなされています。一部のテクニックは簡単に学べるよう設計されており、初めて取り組む人でも入りやすい内容です。
引用元:OWASP MASTG
画像ライセンス:Creative Commons Attribution-ShareAlike 4.0 International(CC BY-SA 4.0)
テスト支援ツールの課題
MASTG 2.0では、多くのテスト支援ツールが紹介されていますが、一部のツールは古く、長期間更新されていないものも含まれています。そのため、ユーザーは自分の目的に合った適切なツールを選別する必要があります。
引用元:OWASP MASTG
画像ライセンス:Creative Commons Attribution-ShareAlike 4.0 International(CC BY-SA 4.0)
デモとラボアプリの導入
現在、新たに追加されたデモとラボアプリケーションは注目すべきポイントです。
デモアプリ
現在の提供数は少なく、効果は限定的ですが、セキュリティテストの概念を理解する助けになります。
ラボアプリ
初心者向けに設計されており、初級レベルの難易度で多くのラボが既に開発されています。これにより、実践的な学習が可能となり、基礎をしっかりと身につけることができます。
経験者への推奨
知識や経験をさらに深めたい人には、最新のCTFイベント(Capture The Flag)への参加をお勧めします。特に、過去1〜2年間に開催された以下のようなイベントが参考になります。
- HTB CTF(Hack The Box CTF)
- NaHamCon CTF
これらのイベントには、Androidセキュリティに関する問題も含まれており、実践的なスキルを磨く良い機会となるでしょう。
まとめ
MASTG 2.0は、モバイルアプリケーションのセキュリティテストをより深く学び、実践するための強力なリソースとなりました。初心者から経験者まで、幅広いユーザーが活用できる内容となっており、今後のアップデートにも期待が高まります。このガイドを活用することで、安全で信頼性の高いモバイルアプリケーションの構築が可能となるでしょう。
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