高速開発の時代に、品質をどう担保するか?
今日、ソフトウェア開発の現場では「高速な価値提供」が当たり前の要求となっています。
クラウドネイティブやマイクロサービス、APIエコノミー、ローコードツールの普及により、プロダクト開発のリードタイムは劇的に短縮されました。
特に以下のような技術・業界トレンドが、スピード優先の開発文化を加速させています。
- DevOpsの浸透:開発と運用の分業から協業へ。リリース頻度が“日単位”に
- CI/CDの一般化:プルリクエストベースで毎日のように自動デプロイ
- SaaS・モバイルアプリの運用:新機能を短いスパンで繰り返し投入
- カナリアリリース/ブルーグリーンデプロイ:失敗を前提にした小規模展開の高速サイクル
このような時代背景の中で、品質保証の在り方も抜本的に見直される必要が出てきました。従来のように「開発が終わった後にテスト期間を設ける」モデルでは、もはや追いつきません。
不具合が1日遅れて検知されれば、それだけで数千・数万ユーザーに影響を及ぼすこともある現代において、“スピードを保ったまま品質を担保する”アプローチが求められています。
つまり今、必要なのは:
- 手戻りを最小化できる早期フィードバック
- リリースと同じスピード感で機能する品質ゲート
- 本番運用中でも異常をいち早く検知する監視機構
Sun*では、これらを実現する基盤として「DevOpsにおけるE2Eテスト自動化」を戦略的に導入しています。
本記事では、その取り組みの全体像と背景、実践内容について詳しくご紹介します。
E2Eテストとは?
E2E(End-to-End)テストとは、システム全体を通じて、ユーザーが行う一連の操作を再現し、アプリケーションが正しく機能するかを検証するテスト手法です。
単にコード単位やAPI単位の動作を確認するのではなく、「ユーザーが操作したときに、期待通りの画面が表示され、正しい結果が得られるか?」を体験レベルで保証することを目的としています。
E2Eテストの概要:テスト対象は「機能」ではなく「体験」
たとえばECサイトであれば、以下のような流れがテストシナリオになります。
- ユーザーがログインし
- 商品を検索して選択し
- カートに追加し
- クレジットカードで決済を完了する
この流れのどこか1つでも欠ければ、ユーザーにとっては「使えない」サービスになります。
E2Eテストは、この“ユーザー体験の完成形”を保証するための、最も包括的なテスト手段です。
なぜE2Eテストが今、特に重要なのか?
現代のアプリケーションは、以下のような構造的複雑性を持っています。
- マイクロサービス化:処理が複数の独立サービスに分散
- API連携:外部サービスとの接続が前提
- 非同期処理:画面に現れない内部エラーの増加
- 高頻度リリース:1日に複数回のデプロイも珍しくない
こうした状況下では、単体テストや統合テストだけでは見つけきれない障害が、ユーザー体験の中に潜むようになります。
つまり、「テストが通ったのに、実際には壊れている」という状況が起こりやすくなっているのです。
E2Eテストはこのギャップを埋める、“信頼性の最終チェックポイント”の役割を担っています。
E2Eテストを自動化することの重要性
E2Eテストは、手動でも実施可能です。実際にユーザーと同じように画面を操作し、フローを確認すればよいからです。
しかし現実には、手動テストには以下のような大きな課題があります:
- テストケースが多くなると人的負担が膨大
- 変更のたびに繰り返す必要がある
- テストの再現性が保証されない
- 本番環境での監視には向かない
特に、DevOpsにおける継続的な開発(CI)と継続的デリバリー(CD)を支えるには、テストもスピードと安定性を兼ね備えた「自動化」が前提になります。
E2Eテスト自動化がもたらす具体的メリット
観点 | 効果 |
---|---|
品質担保 | リグレッション(回帰バグ)の早期発見、体験の崩れを防ぐ |
スピード | デプロイ前後に即時チェック、開発〜リリースの高速化に対応 |
運用効率 | テスト工数の大幅削減、人が手を動かさなくてもよい |
安心感 | ビジネスチームも「使える」ことが客観的に確認できる |
モニタリング活用 | 本番環境に対して定期的に実行し、サービス死活の監視手段としても有効 |
E2E自動化は、単なるテスト効率化ではなく、開発・運用・ビジネス全体の安定性を支える基盤技術と言えます。
Playwrightの採用とSun*が選んだ理由
Sun*では、E2Eテスト自動化のためのフレームワークとしてMicrosoft製のPlaywrightを選定し、全社的に活用しています。
E2E自動化にはさまざまなツールが存在しますが、その中でもPlaywrightを選んだのは、単なる「テストの自動化」だけでなく、スピード、安定性、拡張性、DevOpsへの親和性のすべてを満たすバランスの良さがあったからです。
Playwrightとは?
Playwrightは、Microsoftによって開発されたモダンなE2Eテスト自動化フレームワークです。2019年にオープンソースとして公開されて以来、世界中の開発チームに採用が広がっており、CypressやSeleniumに次ぐ存在として急速に評価を高めています。
Sun*がPlaywrightを採用した主な理由
① 主要ブラウザすべてに対応している
- Chromium(Chrome系)だけでなく、Firefox / WebKit(Safari)にも公式対応している
- クロスブラウザの自動テストが1つのコードベースで完結する
→ これにより、モバイル含むUI検証の抜け漏れ防止につながります。
② 高速かつ安定した実行性能
- 並列実行、ヘッドレス実行に対応し、テスト全体の実行時間が大幅に短縮できる
- テストのフレーク(成功したり失敗したりする不安定な挙動)が少ないことも特長
- スピードと再現性の両立ができる点が、CI/CDへの組み込み時に特に有効
③ TypeScript / JavaScript ベースで開発者と親和性が高い
- フロントエンドエンジニアやQAが、既存の開発スキルを活かしてテストスクリプトを記述可能
- API設計、ロジック検証との一貫した開発フローが実現でき、学習コストも低い
④ 柔軟な操作性と強力なセレクタエンジン
- Playwrightは、テスト対象の要素に対して「role」「text」「label」「data-test-id」などの意味的なセレクタを使うことが可能
- UI変更に強く、保守性が高いテストスクリプトが実現できる
⑤ DevOps環境との親和性が高い
- GitHub ActionsやGitLab CIなど、主要なプラットフォームと簡単に統合可能
- スクリーンショット、動画キャプチャ、失敗時のHTML保存など、デバッグ支援機能も充実しており、テスト結果の可視化が容易
Sun*でも、CI/CDパイプライン上での自動実行、失敗時の通知連携(Slackなど)をPlaywright中心に構成しています。
CypressやSeleniumとの比較(簡易表)
比較項目 | Playwright | Cypress | Selenium |
---|---|---|---|
対応ブラウザ | Chromium, Firefox, WebKit | Chromium系のみ | すべて対応 (ただし安定性は低い) |
並列実行 | ◎ 高速 |
△ やや制限あり |
△ 外部ツール依存 |
モバイル対応 | ◎ | △ 要設定 |
△ 環境依存 |
セレクタの柔軟性 | ◎ 強力 |
○ | △ 限定的 |
CI/CD統合 | ◎ 簡単 |
◎ | △ 設定が複雑 |
安定性 | ◎ 高い |
○ | △ フレークが多い |
Playwrightの導入効果(Sun*の現場での実感)
Sun*のQAおよび開発チームでは、Playwrightの導入により以下のような成果を実感しています:
- 開発と同時にテストを実装・運用するShift-left Testingが実現
- 開発者とQAが同じテストスクリプトを読み書きすることで、チーム間の連携が自然に強化
- 本番環境向けのE2E監視にも活用でき、「開発」と「運用」の境界を越えた品質担保が可能に
Playwrightは「開発 × QA × 運用」をつなぐE2E基盤
Playwrightは単なるテスト自動化ツールではなく、DevOps体制の中でスムーズに動き続ける信頼性のインフラです。
Sun*では、開発・テスト・運用のすべてにわたってPlaywrightを活用し、「壊さずに出す」「出してもすぐ気づく」「次に活かす」という改善サイクルを構築しています。
E2E自動化を本格的に取り入れたい組織にとって、Playwrightは非常に優れた選択肢であると言えます。
Sun*が実践する DevOps × E2E自動化
──E2Eは品質担保の手段から、継続改善の“エンジン”へ
Sun*では、E2Eテストを「テスト工程の一部」にとどめるのではなく、DevOpsの各フェーズに組み込み、継続的な品質改善とプロダクト成長の基盤として活用しています。
その取り組みは、大きく分けて以下の3つのフェーズに展開されています。
① TESTフェーズでの活用:CI/CDへのシームレスな統合
目的:リリース前の不具合を早期に検出し、安心してデプロイできる状態を保つ
Sun*では、開発チームがコードをPushしたタイミングやプルリクエストを作成した時点で、Playwrightを用いたE2EテストがCI/CDパイプライン上で自動実行されます。
実施内容:
- GitHub Actionsと連携し、テスト実行をパイプラインに組み込み
- テスト対象は、ログイン・商品購入・申込・検索など、ユーザーの主要な操作フロー(クリティカルパス)を中心にカバー
- E2Eの結果をトリガーにマージやデプロイ可否を自動判断(品質ゲートとしての機能)
効果:
- デプロイ前に潜在的な不具合を自動で発見
- 手動テストの手間とタイミング依存からの脱却
- QAと開発の連携を強化し、Shift-left Testing(早期テスト)の実現
② MONITORフェーズでの活用:本番環境を対象としたE2E監視
目的:ユーザー影響のある障害を即座に検知・対応し、サービス信頼性を保つ
本番環境においても、定期的なE2Eテストを“死活監視”の一種として実行しています。
このフェーズでは「見える不具合」だけでなく、「気づきにくい操作不能状態」も拾い上げることができます。
実施内容:
- 一定間隔でE2Eシナリオを自動実行(cron実行 or CIスケジュールトリガー)
- 画面表示・UI要素の有無・エラーメッセージの表示有無などを検証
- 異常があった場合は、SlackやPagerDutyなどにリアルタイム通知し、担当者にエスカレーション
効果:
- サービスダウンやUI崩れなどの顕在化前のトラブルを迅速に検知
- 開発チームやSREが早期に対応でき、ユーザー影響を最小化
- 通常の監視(CPU・メモリ・ログ監視)では検知できない“ユーザー目線の障害”にも対応可能
③ PLANフェーズへのフィードバック:継続的改善サイクルの実装
目的:検知された課題を“設計段階”に反映し、品質の根本改善を行う
DevOpsにおけるE2E活用の真価は、検知した結果をどう活かすかにあります。
Sun*では、MONITORフェーズで検出した課題や傾向をそのまま放置せず、設計・企画フェーズ(PLAN)に反映しています。
実施内容:
- 異常ログやテスト失敗内容を分析し、「なぜ起きたか?」の根本原因を共有
- PdMやQA、SREとの振り返りの場(レビュー・レトロスペクティブ)で、設計レベルの改善方針を協議
- 必要に応じて、仕様変更・設計改善・テストカバレッジ見直しなどに展開
効果:
- 一時的な障害対応に終始せず、構造的な品質改善が進む
- PdMが“現場の技術的課題”を把握しやすくなり、開発と企画のズレが減少
- DevOpsが持つ「継続的なフィードバックループ」が実働することで、プロダクト全体の学習・進化が促進
3つのフェーズをつなぐDevOpsループとしての意義
Sun*におけるE2E自動化は、「TEST → MONITOR → PLAN」それぞれで完結するのではなく、フェーズ間の循環と学習を意図した構造になっています。
このループによって、次のような状態が実現されます
- “壊れないこと”を前提にせず、壊れてもすぐ直せるプロダクト
- リリーススピードを落とさず、品質と信頼性を維持
- E2Eを通じて全社が品質を“共有する”体制
DevOps体制としての拡張的な取り組み
Sun*ではE2E自動化を中心に据えつつ、以下のような要素とも組み合わせ、より信頼性の高いDevOps体制を実現しています。
CI/CDパイプラインの構築と自動化
- GitHub Actionsを用いたビルド・テスト・デプロイ自動化
- プルリクエスト単位でのテスト実行と自動マージの仕組み
IaC(Infrastructure as Code)の活用
- Terraform / Ansibleなどを用い、開発・検証・本番の構成を統一
- 「テストが通った構成のまま本番へ」→環境差異によるトラブルを排除
Observability(監視)の統合
- DatadogやPrometheusにより、システム内部のメトリクス・ログも可視化
- E2Eと内部監視を両輪とした、多層的なモニタリング体制
チーム横断の連携体制
- QA・開発・SREが同じ視座でテスト設計に関与
- DevOps=ツール導入ではなく、チーム文化としての“改善サイクル”の実装
DevSecOpsの導入も検討・試行中
- 脆弱性スキャン(SAST/DAST)や依存ライブラリ検査なども自動化し、
- セキュリティ面でも「変更に強い基盤」へと進化中
信頼性は、プロセス設計から始まっている
E2Eテストの自動化は、単なるQA効率化ではありません。
それは、「ユーザーが安心して使えるサービスを継続的に提供する」という、プロダクトチームの根幹に関わる取り組みです。
Sun*では、Playwrightを活用したE2Eテストを起点に、CI/CD・監視・IaC・セキュリティを有機的に組み合わせたDevOps体制を築いています。
“壊れない”のではなく、“壊れてもすぐに気づけて直せる”
そんな信頼性の高いプロダクト開発を、今後も推進していきます。
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