開発支援事例:株式会社タイミー
隙間時間を活用して働くスキマバイト、スポットワーク市場を牽引してきた先駆者
2024年7月末、時価総額1000億円を超えでIPOを果たしたタイミー社。約3年振りのユニコーン企業の誕生はスタートアップ界の明るいニュースとなりました。SaaSサービスの成長には、エンジニア組織の構築が大きな経営課題となります。上場前の100人のエンジニア組織から400人の組織に拡大するには、国内だけでは難しく、Sun*に「長期的なパートナーとしてタイミーを理解してくれる最高のチームがほしい」と相談いただきました。ナレッジを溜めるためにベトナムメンバーを直接マネジメントし、Sun*JPでスクラム開発をサポート。チームとしての成長を重視し、日々プロセスの改善に努めています。今後も同社の成長をサポートして参ります。
クライアントの課題
IPOに向けて資金調達をし、開発のロードマップがあるが、圧倒的なエンジニア不足で増員したい。国内だけでは限界が見えているので、海外での増強も視野に増員を始めたい。その1歩目として、ベトナムの開発拠点を活用して成功したマネーフォワード社の事例等も踏まえてSun*に相談したい。
Sun*が選ばれた理由
ハノイの視察でVPoEがSun*のエンジニアの技術力、QA品質、開発スタイルを評価いただいた。また、マネーフォワード社ほかSun*で開発をするクライアントとのインタビューを通じ信頼が得られた。はじめての海外チーム開発だったが、日本側のアカウントサポートの安心に繋がった。
プロジェクト成功の秘訣
ベトナムの開発チームのよる1〜2週間のスプリントに対して、日本側でオフショア開発のマネジメントで知見のあるメンバーがサポート。チームビルディングから、開発のプランニング、リファイメント、スプリントレビュー、レトロスペクティブを実施し、開発プロセスの課題をクライアント共に改善しながら、チームとして成長していけるようサポート。
クライアントインタビュー
開発生産性向上の鍵は「英語の公用語化」と「迅速なコードレビュー」。タイミーが実践するオフショア開発がもたらす効果とは
働きたい時間と働いてほしい時間をマッチングするスキマバイトサービス「タイミー」を運営する株式会社タイミーは、2024年7月に東京証券取引所グロース市場へ上場しました。
事業の成長に合わせて組織も急拡大しており、従業員も1,200名を超えています。2023年からは、Sun*と協業してオフショア開発にも取り組み始めており、グローバルチームの組織構築も進めています。
今回は、株式会社タイミー エンジニアリングマネージャーの小牧 将和さんとアカウントマネージャーの株式会社Sun Asterisk Principal Directorの中島 章吾に、「オフショア開発を成功させるポイント」について話を聞きました。
エンジニアリング組織の多様化を図るために始めたオフショア開発
── はじめに、タイミーの事業概要について教えてください。
小牧:タイミーは「働きたい時間」と「働いてほしい時間」をマッチングするスキマバイトサービスです。
我々は時間を大切にしている会社で「好きな時間に働く」という体験を働きたい人に提供しています。また、勤務後に勤務先から評価され、それが蓄積されるため、働き手の体験向上に寄与するような世界を作っています。
さらに、会社や店舗には、タイミーを使っていただくことで人手不足の解消や職場環境の改善など、「人にまつわる経営課題の解決」につながるサービスとなっています。そのほか、職場と働き手がマッチしたら手数料をいただかずに長期雇用に切り替えることもでき、採用ミスマッチの防止や離職率の低下にも貢献しています。
小牧:現在、我々のチームではタイミーのクライアントをサポートする社員向けの機能を担当していて、私はエンジニアリングマネージャーを務めています。
Sun*と協業して開発するようになったのは1年くらい前になるのですが、その時の社内のエンジニア組織は日本人がほとんどでした。こうした状況のなか、タイミーの事業を支えるエンジニアリング組織を作っていく上で、採用の入り口を多様化する必要性を感じ、Sun*とのオフショア開発が始まったのです。
英語の公用語化やコードレビュー体制の構築で開発生産性が向上
── 1年ほどSun*とオフショア開発に取り組んできましたが、率直な感想をお聞かせください。
小牧:最初の頃は、ブリッジSEやITコミュニケーターを挟んだ形でオフショア開発を行っていたのですが、その時はなかなか思い通りにいかなくて苦戦していました。その後、英語が話せるメンバーがタイミーに入ってきたタイミングで、オフショア開発の公用語を英語に、さらにはジョブロールの付け方を変えたことで、うまく回るようになってきたんですね。
1年前はステークホルダーからの厳しいご意見も多かったのですが、最近ではかなりポジティブなフィードバックをいただく機会が増えました。
オフショア開発の結果が出てきたこともあり、直近ではメンバーの増員を行い、さらなる事業成長に向けて組織強化も図っています。
── 具体的な成果についてはどのようなものがありましたか?
小牧:タイミーでは、開発生産性を測る「Four Keys」という指標を用いてKPIを追っています。オフショア開発を始めた頃は日本のチーム平均よりも下回っていましたが、今ではFour Keysの数値も着実に上昇してきており、もうすぐ同等の開発生産性まで引き上がっていくのではと思っています。
中島:英語の公用語化を進めていただいたおかげもあり、日本側とベトナム側のコミュニケーションの円滑化に成功したわけですが、その後にボトルネックになったのがコードレビューでした。
タイミー側のテックリードのレビューを経てソースコードをマージするというフローのため、開発からマージまでに時間がかかってしまうのが問題になっていました。そこで、タイミーにベトナムの開発チームのレビューをする専属のメンバーをアサインしていただいたことで1時間ほどでコードレビューしてもらえるようになり、そこから開発のサイクルが改善されて、小牧さんがおっしゃったFour Keysの数値向上につながったわけです。
また、ベトナムの開発チームによる1〜2週間のスプリントに対して、日本側でオフショア開発のマネジメントで知見のあるメンバーがサポートしました。チームビルディングから、開発のプランニング、リファインメント、スプリントレビュー、レトロスペクティブを実施し、開発プロセスの課題を共に改善しながら、チームとして成長していけるようなサポートも行っています。
オフショア開発を成功させる鍵は「コミュニケーションの“詰まり”を解消する」こと
── プロジェクトをうまく回していくために創意工夫していることはありますか?
小牧:オフショア開発でよくあるアンチパターンが、ブリッジSEやITコミュニケーターのコミュニケーションの詰まりがボトルネックになってしまうことです。その“詰まり”をいかに解消するかが、オフショア開発を成功させる鍵と言えるでしょう。
言い換えれば、日本語とベトナム語の間にブリッジSEが挟まれている構造をどう解消すればいいかということです。その打ち手として公用語を英語にすれば、日本側とベトナム側で「n対n」でのコミュニケーションが取れるようになり、開発がスピードアップしていくと考えています。
中島:当初の課題として持っていたのが、ベトナムで深く議論された内容であっても、「結果」しか日本側に伝わっていないことでした。相互理解を深め、スクラムで改善していくためには議論の「過程」が大事なわけで、公用語を英語に変えてからは日本側とベトナム側でスムーズなコミュニケーションが取れるようになったと感じています。
小牧:スクラムは即時性(リアルタイム性)を求める開発スタイルになっています。従来のブリッジSEやITコミュニケーターを挟むオフショア開発のやり方だと、どうしてもコミュニケーションが詰まってしまうことから、即時性を失うことにつながるのです。
その結果、ある程度の情報を束として渡して、ウォーターフォール開発のプロセスに流れてしまうこともあるでしょう。他方で、英語によるn対nのコミュニケーションができれば、スクラムによる反復的な開発の実現が可能になるわけです。
日本企業のオフショア先としてベトナムが良い4つの理由
── オフショア開発を検討している企業へのメッセージやアドバイスがあればお話しください。
小牧:日本企業がオフショア開発をしようと考えた際に「どの国で進めていけばいいのか?」というトピックが絶対に出てくると思いますが、私はベトナムをおすすめしていまして、その理由は以下の4点となります。
1点目は、ベトナムは歴史的にも経済や文化など多様な領域での友好関係や協力関係が長く、日本人とベトナム人の交流やチームビルディングが容易で、日本企業が入って一緒に開発を進めていく上での優位性が高いからです。
2点目は、国としてITコミュニケーターという職種が確立されていることが挙げられます。ベトナムは日本語とベトナム語を通訳・翻訳するITコミュニケーターを養成する大学の学部を設置するくらい、その職種に対する重要度を高く設定しているのですが、これは他国に類を見ないベトナム独自の特徴になっています。ですので、英語が話せない人が多いとされる日本と非常に相性がいい国だと言えると考えています。
3点目は、日本人にとってベトナム人は文化的に似ている点が多いため、マネジメントのハードルが比較的低い場合が多いということです。「ドライ」よりも「ウェット」なコミュニケーションを好む傾向にあり、カンパニートリップや社内イベントを開いて関係値を構築できるのは日本人とベトナム人ならではの良さだと思っていますね。
4点目は、ベトナムに欧米企業が入ってきづらい障壁があることです。欧米企業がアジアで人材獲得をする際は、インドなどの英語が公用語となっている国が優先されるため、相対的にベトナムへの参入は遅れている状況だと思っています。今でこそマイクロソフトやグーグル等の企業がベトナムに参入してきましたが、まだまだ欧米企業の数は少ないので、日本企業が人材獲得に乗り出しやすい状況になっています。
もっと働く人の体験を“なめらか”にするための機能を作りたい
── 最後に、今後の展望について教えてください。
小牧:まず、プロダクトの観点から話すと、もっと働く人の体験を“なめらか”にしていく機能を作っていきたいと考えています。今のアプリ上でも「働きたい時間に働いて、終わったら評価をつけてお金が即日振り込まれる」という体験まで実現できていますが、より利便性の高い機能を開発していく予定です。
また、働く先についても飲食や物流だけでなく、いろいろな業界でもタイミーでサポートできるようにしていきたいですね。
エンジニアリング組織は「多様化」を掲げ、これからもタイミーの成長に合わせて規模を拡大していければと考えています。
Sun*とオフショア開発を行っているのも、多様化の一環として取り組んでいるものですし、会社としてダイバーシティ推進に成長の余地があると感じていることから、包括的な組織づくりにチャレンジしていければと思います。