既存システムを使用し続けていると次第に古くなり、業務効率低下の原因となる場合があります。古いシステム(レガシーシステム)を新しくすれば、企業全体の生産性を向上させることも可能です。本記事では、レガシーシステムのモダナイゼーションとは何か、モダナイゼーションの重要性や手段、成功のポイントなどを解説します。
レガシーシステムのモダナイゼーションとは?
まずは、レガシーシステムの定義と、モダナイゼーションの定義について解説します。
レガシーシステムの定義
「レガシー(legacy)」は「遺産」を意味する英単語です。レガシーシステムとは、導入から数十年経つような古いコンピューターシステムを指します。
たとえば、1980年台に導入したメインフレームや基幹システムは、レガシーシステムに該当するでしょう。この時代のシステムは企業の業務に合わせて開発されていることが多く、独自のOSが搭載されていることも珍しくありません。
モダナイゼーションの定義
「モダナイゼーション(Modernization)」は、近代化・現代化を意味する英単語から来た用語です。IT業界では、レガシーシステムを現代的なシステムに置き換えることを意味します。
レガシーシステムをずっと使い続けていると、さまざまな弊害が生じる恐れがあります。時代に乗り遅れているシステムを刷新すれば、業務効率の向上が見込めるでしょう。
モダナイゼーションと混同しやすい概念
モダナイゼーションと混同しやすい概念・用語に、「DX」や「マイグレーション」があります。ここでは、それぞれの意味や違いを解説します。
モダナイゼーション・DXの違い
DXはデジタルトランスフォーメーションの略称で、デジタル技術によりビジネスを変革させることを意味します。モダナイゼーションは、既存システムに最新技術を取り入れて改善することを指します。モダナイゼーションは、DXを実現する手段の1つであるといえるでしょう。
モダナイゼーション・マイグレーションの違い
マイグレーションは、システムやデータをクラウドなどの別の環境に移行することを指します。
システムの更新を意味するモダナイゼーションの目的は、システムの最適化やビジネスの拡大です。一方でマイグレーションは、総所有コストの削減を目的としています。総所有コストとは、システムの導入から廃棄までにかかるすべてのコストが該当します。
モダナイゼーションの重要性
モダナイゼーションは、経済産業省のDXレポートをきっかけに注目されるようになりました。このレポートでは、レガシーシステムにより、大きな経済的損失が生じることが指摘されています。
レガシーシステムをそのままにしておくと、企業の競争力低下の要因になるため、モダナイゼーションの重要性が高まっています。
※参考:DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~|経済産業省
モダナイゼーションのメリット
モダナイゼーションには、業務の効率化やセキュリティ強化、緊急時の対応力強化といったメリットがあります。以下でそれぞれ詳しく解説します。
業務効率化につながる
古いシステムを使用していると、業務に必要な機能が不足したり、処理速度が遅くなったりといった問題が発生します。システムを更新することで機能が拡充されシステムの応答速度も速くなり、業務効率が向上します。同じ時間でより多くの作業を実行できるため、企業全体の生産性も高まるでしょう。
セキュリティを強化できる
古いシステムは業務効率が低いだけでなく、セキュリティに脆弱性が生じる可能性もあります。セキュリティ対策が不十分では、情報漏洩などのトラブルにつながり、自社だけでなく顧客や取引先にも影響を与えるでしょう。システムを更新すれば、より新しいセキュリティツールを使用できるようになり、企業全体のセキュリティ強化が期待できます。
BCP対策に役立つ
BCPとはBusiness Continuity Planの略称で、日本語では事業継続計画を意味します。企業が活動をするうえで、セキュリティ事故や災害が起こった際の対応方法を定めるなど、事業の継続が困難になるような重大なトラブルへの備えは必須です。
古いシステムの場合、災害などでサーバーがダウンすると、システム全体が停止してしまうこともありますが、モダナイゼーションを行えば、緊急事態にも強いシステムを構築することができます。
※参考:知る・計画する|内閣府
モダナイゼーションの手段
モダナイゼーションを行うためには、いくつかの手段があります。ここでは、具体的なモダナイゼーションの方法を解説します。
リプレイス
リプレイスは、古いシステムを新しいものに完全に交換する方法です。既存システムの刷新を行うため大規模な投資が必要となり、さらに従業員が新しいシステムに慣れるまでにも時間がかかるでしょう。
しかし、最新の技術を用いて自社の業務に合ったシステムを構築できるため、新しいビジネスモデルへの対応や業務効率の大幅な向上、セキュリティの強化など、さまざまなメリットを得られます。
リホスト
リホストは、システムのプログラムやアーキテクチャを大きく変更せずに、クラウドなどの新しい環境に移行する方法です。比較的低いリスクで、インフラストラクチャのコスト削減が期待できます。
コスト効率のよい手段ですが、抜本的な改善はできないため、古いシステムの問題が残ってしまう可能性もあります。
リライト
リライトは、既存のシステムを最新のプログラミング言語に書き換えることです。現在の事業上のニーズや技術的な基準に合致しない部分を再構築することで、システムのパフォーマンス向上が見込めます。
一方で、時間とコストがかかる、既存のシステムや事業への理解・コード、設計を分析する技術力が求められるなど、いくつかの注意が必要です。
リファクタリング
リファクタリングは、システムのコードや内部構造を改善して、将来的な変更や拡張をしやすくする方法です。リライトではプログラミング言語の変更を行いますが、リファクタリングでは使用する言語はそのままにコードを見直します。
システムのパフォーマンスを維持しつつエラーを減らすことで、生産性の向上が期待できますが、リファクタリング単体では、モダナイゼーションを実現できないこともあります。
リドキュメント
リドキュメントは、古くなった仕様書やマニュアルなどのドキュメントを、最新のものに更新することです。システム導入時の開発者の不在など、システム設計当時の情報が失われてしまったケースでは効果的です。
ただし、ドキュメントの作成には時間がかかりがちで、リファクタリングと同様に、リドキュメントだけではすべての問題を解決できない場合があります。
リビルド
リビルドは、既存のシステムを廃止して一から新しいシステムを構築する方法です。リプレイスは新たなパッケージへの乗り換えですが、リビルドではスクラッチ開発を行います。
根本的にシステムを再構築できるため、既存のシステムが現在の技術基準に適さなくなっているケースでも有効です。自社の業務に合った機能を搭載できる一方で、金銭的・時間的なコストは大きくなります。
リインターフェース
リインターフェースは、新しいブラウザやハードウェアに対応できるよう、システムのインターフェースを改善する方法です。システムやWebサービスをつなぐAPI連携や、複数のアプリケーションのデータを統合する、iPaaS(アイパース)の利用なども含まれます。現行のシステムの機能を変更せずに、ユーザーの利便性を向上させられる点がメリットです。
モダナイゼーション成功のポイント
モダナイゼーションは、目的や現在の課題を洗い出したうえで計画的に行いましょう。ここでは成功のポイントを解説します。
モダナイゼーションの目的を決める
最初のステップとして、自社がモダナイゼーションに取り組む目的を明確にすることが必要です。まずは自社で使用されている既存システムを整理し、リストアップしましょう。現行システムの棚卸しができたら、自社の現在地とゴールからモダナイゼーションの目的を明確化します。なお、経済産業省・独立行政法人情報処理推進機構が策定した「DX推進指標」も参考にしましょう。
※参考:DX推進指標のご案内|独立行政法人情報処理推進機構
既存システムの課題を洗い出す
モダナイゼーションの目的が定まったら、既存システムの課題を洗い出す段階です。不要なシステムの有無や変更の必要があるシステムの量によって、取るべき手段が変わります。新しいシステム基盤を選ぶ際は、既存システムとの互換性も踏まえて検討しましょう。
計画に余裕を持たせる
モダナイゼーションの方法にもよりますが、完結までにはある程度の時間とコストがかかることが一般的です。更新作業のなかで、想定外のトラブルが発生するリスクもあります。スケジュールには余裕を持ち、中長期的に計画を立ててモダナイゼーションを実行しましょう。
モダナイゼーションの例
モダナイゼーションの例としては、クラウドシステムの導入が挙げられます。クラウドとは、データやシステムを自社以外のサーバーで保管・運用し、ネットワークを経由して利用する形態です。近年ではクラウド化の動きが主流となりつつあり、モダナイゼーションとして、オンプレミスからクラウドへ移行する例も珍しくありません。
まとめ
システムを更新しないまま使用し続けていると、いずれはレガシーシステムとなり、業務効率の低下やセキュリティの脆弱性などの問題につながります。自社の現状を洗い出し、適切な手段とスケジュールでモダナイゼーションを実行しましょう。
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