記事のポイント(要約)
① 新規事業プレゼンが承認されない根本原因は、経営陣の「既存事業のロジック」で判断される認知構造にある。
② バイブコーディング(Vibe Coding)により、非エンジニアでも数時間で動くプロトタイプを開発できる時代が来た。
③ 動くプロトタイプは「認知的容易性」「身体性認知」「保有効果」の3つの認知科学的効果で、経営陣の承認確率を高める。
「新規事業のアイデアには自信がある。でも、経営層に何度プレゼンしても承認されない」
新規事業担当者なら一度は抱える、この深刻な悩み。本記事は、2026年2月26日に開催されたSun Asteriskウェビナーのセッションをもとに、新規事業担当者が今すぐ実践できる「バイブコーディング(Vibe Coding)」という最強の武器と、経営層の脳を科学的に動かす方法論を解説します。
目次
登壇者プロフィール
株式会社 Sun Asterisk AI Strategist & Business Designer
山内 怜史
ITコンサルティングファーム「フューチャーアーキテクト」にて、ビジネス×IT戦略案件をPL/PMとして40案件以上推進。その後リクルートにて10→100フェーズの事業戦略・商品戦略を担当し、新規事業開発と取引高200億規模のWebサービス事業責任者を歴任。
現在はSun AsteriskのBusiness Designerとして、様々な業種のクライアントへの新規事業開発を支援。最新の生成AI技術を踏まえ、実際のクライアント支援の中で「新規事業×生成AIの方法論」を体系化し、新規事業と生成AIのプロフェッショナルとして活動中。
① 新規事業が承認されない「構造的な理由」
経営陣は「既存事業のプロ」である
まず前提として、経営陣は自社の既存事業で圧倒的な成果を出し、組織内の競争を勝ち抜いてきたプロフェッショナルです。彼らは悪意を持っているわけではありません。経営陣は新規事業の重要性を十分に理解しており、既存事業だけでは企業が生き残れないことにも気づいています。
しかし、過去数十年で積み上げた成功体験により、彼らの思考回路は「既存事業のロジック」に最適化されています。

スポーツで例えると:野球のルールでサッカーをジャッジされる
| 既存事業は「野球」、新規事業は「サッカー」。ルールも使う筋肉も評価軸もまったく異なるゲームを、既存のゲームのフォーマット(事業計画書・PowerPoint・Excelの収益計画)で説明しようとするとき、構造的な摩擦が生まれます。 |

二重過程理論(Dual Process Theory)が解き明かす「拒絶のメカニズム」
人間の脳には2つの思考モードがあります。カーネマン(Kahneman, 2002)が提唱した二重過程理論は、この認知構造を明快に説明します。

分厚いPowerPointと複雑なExcel収益計画を見せられた経営陣の脳には、「認知的負荷(Cognitive Load)」が生じます。
馴染みのない新規事業の話をされながら、複雑な数字を処理させられるとき、脳はエネルギー消費を抑えようとする防衛本能から強制的にSystem 2(批判モード)を起動させます。
| 「ここのボタン配置は論理的ではない」「この収益計画の前提は甘い」——これらは悪意ではなく、認知的負荷によって引き起こされた防衛反応です。経営陣の「矛盾」に愚痴をこぼしていても、新規事業開発は前に進みません。 |

② バイブコーディング(Vibe Coding)とは何か
この構造的な問題を解決する「最強の武器」として紹介するのが、バイブコーディング(Vibe Coding)です。
バイブコーディング(Vibe Coding)とはAI時代に登場した新しいプログラミング手法。従来の「人間が細かくコードを書く」スタイルから大きく転換し、「AIに自然言語で指示を出してコードを書かせる」ことを指します。OpenAI共同創業者・元Tesla AI責任者のAI研究者Andrej Karpathy氏が命名。 代表的ツール:replit / bolt.new / Lovable / Claude Code など |

従来のプロトタイプ開発には、エンジニアへの要件伝達・開発リソースの調整・最低1ヶ月以上の開発期間というコストと時間的制約がありました。バイブコーディングはこれを根本から変えます。プログラミング知識がない新規事業担当者でも、AIへの自然言語での指示だけで、数時間から数日で動くプロトタイプを作れる時代が到来しました。
③ バイブコーディングが「最強の武器」になる2つの理由
理由① 「考える人」が「作る人」になれる
従来の開発プロセスでは、ビジネス要件をエンジニアに伝え実装してもらう過程で、多くの「認識のズレ(Gap)」が発生していました。
理由② 仮説検証サイクルの超高速化が実現する
従来、プロトタイプを用いた検証サイクルには、開発リソースの承認リードタイムと数ヶ月の開発期間が必要でした。これが新規事業の仮説検証スピードの最大のボトルネックでした。

| 思いついたアイデアを、昼までに動くプロトタイプにし、午後には顧客(あるいは上司)に見せる。反応が悪ければ、その場ですぐに修正するか、潔く捨てて作り直す。AIによってプロトタイプ開発コストが極小化した今、私たちは「正解を見つけるために、大量に作って大量に捨てる」という、真のアジャイル開発が可能な時代に入りました。 |
④ 認知科学が証明する「動くプロトタイプ」の威力
認知的容易性(Cognitive Ease):脳が「理解しやすいもの」を「真実」と判断するバイアス
人間の脳は「見えやすいもの・理解しやすいもの」を「真実であり、リスクが低い」と直感的に判断するバイアスを持っています。これをカーネマン(Kahneman, 2002)は「認知的容易性(Cognitive Ease)」と呼びます。
身体性認知(Embodied Cognition):「体験」が「理解」を深める
認知科学には「身体性認知(Embodied Cognition)」という考え方があります。人間の認知は脳だけで完結するのではなく、身体的な経験と深く結びついているという理論です。Cangelosi & Stramandinoli(2018)の研究でも、抽象的な概念は言葉による説明よりも、具体的・身体的な経験を通じた説明の方がより深く理解されることが示されています。
| 「革新的なUX」と口で説明するよりも、実際にスマホを手渡し、指先でタップしてもらい、画面が遷移する様子を体感させる。その「指先のフィードバック」こそが、経営陣の脳内に事業の価値をインストールする、最も解像度の高い情報伝達手段になる。 |

⑤ 「70%の完成度」が最も効果的——Wesselの逆U字の法則
「経営層に見せるなら、完璧に仕上げなければ失礼だ」という思い込みがあります。しかしこれが逆効果になることがあります。
Wesselら(2022年、Journal of Business Venturing)の研究では、クラウドファンディングにおけるプロトタイプの「忠実度(Fidelity=完成度)」と「資金調達成功率」の関係を分析。結果は逆U字カーブを描き、中程度の完成度(約70%)が最も高い成果を出すことが示されています。
| 低い完成度
→ 「本当に実現できるのか?」という不安を与える 高すぎる完成度 → 「完璧なものを審査する」批判モードになる 中程度(約70%)の完成度 → リアリティを感じながら「自分が改善できる余地」が生まれる。最も高い成果を生む |

バイブコーディングなら、「動くアプリを30分程度で作り、意図的に70%の完成度で止める」という高度な選択が可能になります。これは従来の開発手法では不可能だった戦略です。
⑥ 経営層を”味方”に変える「保有効果」という魔法
認知科学の「保有効果(Ownership Effect)」とは、人は「自分が所有しているもの」や「自分が関与したもの」に対して、客観的な価値以上の愛着や高い価値を感じる性質のことです。
従来のプレゼン
| 「これが完成したプロトタイプです。完璧に仕上げてきました。ご承認ください。」
→ 経営者は腕を組み「審査員」の席に座り、粗探し(System 2)を始めます。 |
「保有効果」を活用したプレゼン
「コアとなる体験部分だけ実装したプロトタイプです。専務の視点で、この決済フローに違和感がないか、実際に触ってアドバイスを頂けないでしょうか?」
→ 経営層が「意見を言った」瞬間、この事業は「自分事」に変わる。
もしその場で修正できる指摘なら、その場でバイブコーディングで直して見せても良いでしょう。「おっしゃる通りに変えてみました、どうですか?」と。経営層が「自分の意見が入った企画」として当事者意識を持った瞬間、承認への障壁は一気に下がります。

⑦ バイブコーディングの実践
今回はReplitを利用し、営業日報から週次レポートを作成するアプリをバイブコーディングにて作成しました。

コーディングをせずに自然言語で作成したいアプリの指示を記載します。

数十分ほどで日報をアップロードするとダッシュボードを作成してくれるアプリが完成しました。
その場で修正指示を出すことも可能であるため、プレゼンの最中にフィードバックを反映することも可能になります。
⑧ まとめ:AI時代のイントレプレナーとは

Sun Asteriskの「新規事業×生成AI」支援について
Sun Asteriskは、これまで13年・550社以上の新規事業支援実績をもとに、バイブコーディングを含む「新規事業×生成AI」の方法論を体系的に支援しています。また開発支援サービス「HEART Development」では、スピード重視の伴走型開発で事業の立ち上げから成長フェーズまでを一貫してサポートしています。事業開発に関するご相談は、お気軽にお問い合わせください。
HEART Development 詳細:
https://sun-asterisk.com/service/development/lp/heart-dev/
参照情報
| イベント名 | Vol.02新規事業×生成AIの方法論 「新規事業担当者自らがプロトタイプを開発し、検証スピードを劇的に高速化する方法の実践」 |
|---|---|
| 開催日時 | – |
| 登壇者 |
山内 怜史 AI Strategist & Business Designer 株式会社 Sun Asterisk |
| 参考・出典 |
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| 編集・監修 | Sun Asterisk 編集部 |