新規事業開発において、UX(ユーザー体験)とブランディングは別々のフェーズで取り組むものと考えられがちです。しかし、両者を統合することで、より深く一貫した体験価値を生み出すことができます。
本ウェビナーレポートでは、Sun*のコミュニケーションデザイナーとUXデザイナーによるディスカッションを通じて、新規事業開発におけるUXとブランディンの統合アプローチの重要性と実践方法をご紹介します。
鈴木 篤史 / コミュニケーションデザイナー
名古屋の印刷企業でグラフィックデザイナーとして勤務し、フリーランスとして独立。印刷媒体、Web媒体を中心にアートディレクションからデザイン、フロントエンド実装まで幅広く制作を行う。2017年よりSun*に入社。ベトナム・ハノイブランチでアプリやシステム開発に携わる。2020年より日本所属。UI/UXデザイン、コミュニケーションデザインを主として開発案件やブランディング案件をPM/ディレクター・リードデザイナー役割で担当する。
石川マーク健 / UXデザイナー
ロンドン大学Bartlett校で建築学修士課程を修了後、イギリス・シンガポール・日本での建築実務経験を経て、デザインコンサルティング会社IDEO(本社アメリカ・カリフォルニア州)の日本支社・IDEO Tokyoの契約デザイナーとして、アジア地域におけるプロジェクトに数多く関わる。Sun*では、デザインシンキングを使って新企業コンセプト開発、プロダクトコンセプト、サービスデザイン、空間デザインなどのプロジェクトに関わっている。
猪野茉莉子 / UXデザイナー
筑波大学芸術専門学群卒業筑波大学人間総合科学研究科修了。TOPPANグループでスペースブランディングにおけるクリエイティブディレクター、UXデザイナー、グラフィックデザイナーとして6年デザイナーとして経験を詰み、その後コンサルティングファームにて生活者・顧客起点のセールス&マーケティング・ブランディング領域を中心に、トップライン向上をミッションとしたプロジェクトを中心に従事。特にグラフィックデザイン、UXデザインは10年以上の経験を積む。新規事業アイデア発想から価値検証、新規事業のブランディングを経験。また、UXデザイン領域の中でも調査・コンセプトメイクを強みとし、顧客の課題抽出~検証まで幅広い支援経験を有する。インフォメーショングラフィックスでは大学での講義経験があるほか、実績多数。キッズデザイン賞、 TOPPANグループPJT優秀賞等、受賞歴多数。
目次
ブランディングにまつわる“3つの勘違い”
勘違い1: ブランディングはロゴやネーミングを決める「見た目の話」である
「ブランディングはロゴを決めたりビジュアルを作る作業なので、機能や名称を先に決めておいて、ロゴは後でデザイナーに頼めばいい」——これは大きな誤解です。
ブランディングは、事業のあらゆる意思決定を導く核となる要素です。顧客にどんな価値を約束するのか、何を実現していくのか、どのような世界観を世の中に対して発信していくのかといった、サービスの根幹部分である目的、意味、存在理由を言語化し、視覚化したものです。
サービスの目的や存在理由は、そのままサービスが進むべき方向性を決める軸となります。MVP開発などのフェーズへ進み、サービスにとって最も重要な機能を検討する際、ブランディングで定めた存在理由や目的を軸として意思決定を行わないと、チームの足並みが揃わないということが起こりえます。
実際、「ネーミングが決まらないので相談に乗ってください」という相談を受けることがありますが、話を聞いてみると、メンバーの中で核となるブランドコアやコンセプトが決まっていないことが原因で迷われているパターンが多く見られます。
勘違い2: MVPが固まってから取り掛かるべきである
「MVPを一度市場に出してみて、顧客の反応を見て、うまくいきそうだと思ったらブランディングを検討すればいい」——これも一般的に語られがちな考え方ですが、実は逆です。
ブランディングは、MVPの後で行うものではなく、0→1のアイデアフェーズでこそ、サービスの方向性を定めるために不可欠なものです。
ブランディングはマーケティングの要素として「いかに顧客に伝えていくか」という側面で機能すると思われがちですが、本質は意思決定の基準のために存在します。チームの中で何を大切にするかという基準を定めるもの——羅針盤や北極星のような存在です。
先にブランドを定めてからMVPを作っていく方が、逆に効率が良いケースもあるのです。
勘違い3: 直接的な売上やKPIとは関係が薄い
数値目標としてKPIの達成が求められる中で、ブランディングへの投資はどうしても後回しにされがちです。しかし、ブランディングは長期的なLTV(顧客生涯価値)と持続的成長を担保し、下支えする戦略的な投資です。
新規事業は決められた期間の中で結果を出すことが求められますが、ブランディングは数字にも確実に影響します:
顧客行動の変化
- 選択されやすくなる → CVR(コンバージョン率)に影響
- 体験満足度が向上する → 継続されやすくなり、LTVに影響
組織行動の変化
- 意思決定が速くなる → ROI(投資収益率)に影響
また、ブランドを明確に定めることで、サービスに強い愛着を持つコアユーザーやエクストリームユーザーが生まれます。こうしたユーザーの行動や意見は、初期フェーズでサービスを成長させていく上で非常に重要です。
UXとブランディングの統合プロセス
新規事業開発の一般的なプロセス
新規事業開発は、デザイン思考のフレームワークに基づいて以下のように進みます:
- 探索とインサイトの発見(リサーチフェーズ)
- アイデア・コンセプトの定義
- プロトタイピング(検証)
- 事業化展開(成長)
このプロセスは一直線に進むのではなく、アイデア・コンセプトに戻ったりしながら、繰り返しサービスを成長させていきます。
ブランド構築プロセスとの親和性
ブランド構築のプロセスは、以下のように進みます:
- 探索・インサイトの発見
- アイデア・コンセプトの定義
- ビジュアルデザイン
特に「探索とインサイトの発見」と「アイデア・コンセプトの定義」というフェーズにおいて、UXの流れと一致しています。
つまり、ブランディングのアプローチを事業開発の初期フェーズでアラインさせることで、UXとブランディングを統合していくことができるのです。
UXとブランディングの共通点
UXは「体験」であり、ブランディングは「ブランドからユーザーがどう受け取るか」という部分です。UXとブランディングが重なることで、そのブランドらしい体験が強固に生まれていきます。
統合戦略の具体的なステップ

ステップ1: 3つの視点でのリサーチ
一般的なプロセスでは、「市場・競合」と「ユーザー」という2つの視点でリサーチを行います。
ブランディングの統合プロセスでは、これに自社の視点を加えた3つの視点でリサーチを行います。
ステップ2: 機能的価値と情緒的価値の定義
リサーチで得たインサイトに基づいてコンセプトを作る際、UXだけだと機能的な価値に寄りがちです。ブランディングの要素を同時に考えることで、機能的価値と情緒的価値の両方を持ち合わせた形で価値を定義し、言語化します。
ステップ3: コンセプトに基づいたユーザー体験の設計
しっかりとコンセプトを立てた上で、それに基づいたユーザー体験を考えていくことが重要です。
実践例: バリュープロポジション×ユーザージャーニーマップ

Sun*のプロジェクトでは、バリュープロポジションというフレームを使って価値の言語化を行います。顧客・市場・自社という3つの要素をしっかり考慮し、そこで決まった強みに基づいて体験を描いていきます。
その後、ビジュアルアイデンティティの開発やコミュニケーション設計へと進みます。デザイナーが担えるという点で、視覚的にもサービスや事業をどのように顧客に伝えていくかを、言葉とビジュアルの両方でコンセプト化します。
一般的なUXアプローチとの違い

レッドオーシャンとブルーオーシャン、どちらを選ぶべきか
ディスカッションでは、新規サービス立案における市場選択について議論されました。
レッドオーシャンを選ぶ戦略
一般的には「ブルーオーシャン(競合のいない市場)を選べ」と言われがちですが、実はレッドオーシャン(競合が多い市場)を攻めることが正解という考え方があります。
その理由は:
- すでに市場が出来上がっている – 顕在化した顧客が存在する
- ブランディングで差別化できる – 自分たちの独自性や強みをうまくポジショニングできる
- 検証がしやすい – ユーザーのニーズが明確
「競合が多いから」と懸念されがちな市場でも、ブランディングをしっかり実装すれば、レッドオーシャンでも成功の道があるのです。
Sun*の優位性
優位性1: UXとブランディングの両輪
UXのプロセスとブランディングのプロセスが同じ道筋をたどっている中で、Sun*のメンバーはUXデザインとブランディングの両方を理解している人材が多くいます。
そのため、両方のプロセスをしっかり行いつつ、必要なタスクを分担し、同時進行できるという優位性があります。
優位性2: 一気通貫での支援
新規事業の初期フェーズでコンセプトを構築する部分は、コンサルティング会社やブティック型のデザイン会社が担うこともあります。
しかし、そこから実際のプロダクト開発へと移行する際に、前段でやったことが抜け落ちてしまう、引き継がれないということがよくあります。また、コンセプトと実際の施策やアウトプットがずれてしまうケースも少なくありません。
Sun*では、同じ担当者が伴走できるため、初期のリサーチからプロダクト開発まで一気通貫で支援できることが強みです。
優位性3: 真の伴走支援
「伴走」という言葉はコンサルティングファームでもよく使われますが、蓋を開けてみると一方的なコミュニケーションになっているケースも見られます。
Sun*での真の伴走とは:
コミュニケーションの多さ
- クライアントを巻き込んだユーザーインタビュー
- クライアントの意見を1つのチームメンバーとして拾い上げる
オーナーシップの醸成
Sun*では、各ステージでクライアントと一緒に作り上げることを徹底しています。リサーチから企画設計、開発まで一緒に伴走することで、クライアントがオーナーシップを持ってプロダクトの開発を進められ、納得感を持ったコンセプトができあがります。
ワークショップでの本音の引き出し
ブランディングでは、クライアントの思いが非常に重要です。ワークショップを活用してアイデアを出し、みんなで意思決定していきますが、その際、オンラインではなくオフラインで実施するなど、ステークホルダーそれぞれの意見や本音を引き出せる環境を作ることを意識しています。
まとめ: UXとブランディング統合の価値
UXのプロセスにブランディングの視点を取り入れることで、より深く一貫した体験価値を生み出すことができます。
コンセプト定義での独自性向上
ブランディングは元々差別化や独自要素を高めていく活動です。しっかりとコンセプトを定義することで、独自性の高い体験価値が生まれます。
サービス・プロダクト開発での意思決定の効率化
ブランドという指針があることで、意思決定の判断基準が定まり、意思決定が早くなる、迷わなくなるというメリットがあります。
ブランディングの二度手間を防ぐ
最初のリサーチやコンセプト設計の段階でブランディングも一緒に行えば、後から改めてブランディングを後付けで行う必要がなくなり、効率的です。
新規事業開発において、UXとブランディングを統合したアプローチは、短期的な成果だけでなく、長期的なLTV向上と持続的成長を実現する戦略的な投資なのです。