ChatGPTが世界を席巻する以前から、独自にAIの可能性を掘り下げてきたSun*。2010年代後半にたった一人から始まったAIチームは今や数十名規模となり、最先端のAI研究を行うR&D組織と社会実装を実現するエンジニアリング組織へと進化を遂げました。
最先端技術をいかにして開発現場や顧客のビジネス課題解決に接続するか。RAGの概念が登場して即座に着手し、1年で商用案件へと昇華させたスピード感の裏側には、Sun*の「基礎研究への投資」と、実装による価値提供への執念がありました。技術戦略の舵を取るタン(写真右)と、実装組織を率いるヒエン(写真左)、Sun*ベトナムの歴史を知る二人が語る技術への飽くなき探求心と、AIと共に歩むSun*の新しい支援プロセスに迫ります。
目次
Sun*ベトナムの歴史を知る二人へ聞く、組織のこと
――まずは自己紹介をお願いします。
タン: Sun*に入社して14年目になります。2013年に日本の大学を卒業してベトナムに帰国後、すぐに入社しました。これまでブリッジSEやDevOpsエンジニア、プロジェクトマネージャー、プロダクトオーナーなど、多くのポジションを経験させてもらいました。7年前にR&D(研究開発)部署を立ち上げてからはマネージャーを務め、現在はSun*ベトナム全体の技術戦略を担う「Strategic Tech」のヘッドマネージャーも兼務しています。
ヒエン:私は2017年に入社し、今年で9年目です。最初はIT日本語講師としてスタートしたのですが、その後はR&Dの部署でブリッジSEやPMをして、AI研究開発チームのプロジェクト管理も行ってきました。2023年にAI研究開発チームが組織化された際にラインマネージャーとなり、昨年からはR&D組織から離れて「AI Engineering Line」という、よりお客様の近くでAI実装を推進するチームでマネージャーを務めています。
――現在の組織とミッションについて、もう少し詳しく教えてください。
タン:Strategic Techのミッションは「新しい技術を実際の開発に適応させること」です。R&Dで研究したソリューションを実際の開発プロセスにどう組み込むか、その運用方法の策定や開発品質の改善を担当しています。
AIに関しては、最先端技術の研究や、社内メンバーに使ってもらうためのAIソリューション開発、そしてSun*ベトナム全体のAI推進活動を担っています。急な案件が来て人が足りない場合には、一時的にR&DのAIエンジニアがお客様のプロジェクトに入ってサポートすることもあります。
ヒエン:AI Engineering Lineは、AIに関する顧客案件に対応するため、AIエンジニアのチームを率いてプロジェクトを遂行することが一番大事な役割です。
ただプロジェクトを待つだけでなく、提案などの上流工程にも関わります。Principal Director(日本側でセールスを担う職種)チームと連携してお客様への提案や見積もり〜受注の段階から入り、新しい案件を獲得できるように動いています。
そのほか、既存のお客様のプロジェクトでまだAI機能が導入されていない時に、AIチームから提案して機能を導入するアップセル活動を行っています。もちろん、タンさんのR&Dチームと緊密に連携して、研究成果を取り入れる役割もあります。
2010年代後半、たった一人のメンバーからスタートしたAIチーム

――AIに関する取り組みは、いつどのような経緯で始まったのですか?
タン:Sun*のAIへの取り組みは、一人のメンバーから始まりました。私が担当していた自社サービスにAIを導入したかったのですが、2017年当時は社内に専門部署も仕事もありませんでした。そこで「AIの経験があるか、興味がある人はいないか」と人材を探したところ、新卒のバックエンドエンジニアが手を挙げてくれ3〜4人の小さなAIチームができました。
その後2019年にR&D部署ができた頃には、10名規模のAIチームになっていました。そこから最初のAI案件を受注し、仕事が増えるにつれてチームも徐々に拡大していき、今では30〜40名規模になっています。
最初のAI関連の仕事は、Sun*の自社サービスである「Viblo(ヴィブロ)」における自然言語処理(NLP)でした。Vibloは「Qiita」のような、エンジニアに関する知識を記録・共有できるサービスで、ベトナム国内のITエンジニアには非常に知名度の高いプラットフォームです。ユーザーが書いた記事に対して、自動的にタグ付けやカテゴリ分けをしたり、スパムを検知したりといった、主にベトナム語での自然言語処理を行っていました。
その後、チームが大きくなりお客様から案件をもらえるようになると、NLPだけでなく、画像処理やOCRなどの仕事も増えました。現在では、R&Dのリサーチチームとヒエンさんのエンジニアリングチームを合わせると、画像処理から、音声処理、レコメンデーションシステム、生成AIまで、AI業界のほとんどのテーマに対応できるようになっています。
――最近の案件としてエージェンティックAIやRAG(検索拡張生成:Retrieval-Augmented Generation)の活用ニーズが高いと聞いていますが、いつ頃から取り組んでいたのでしょうか?
タン:ここ1〜2年でRAGなどの仕事が増えてきましたが、案件をいただくかなり前から研究を始めていました。通常のRAGだけでなくGraphRAGのような難易度の高い特殊な技術についても研究を行っています。1年ほど研究を重ねた段階で仕事として受注できるようになり、その後はどんどん案件が増えていきました。
ヒエン:RAGを利活用する研究は、もう3年ほど続けています。2023年3月頃、RAGの実用化が進み始めたばかりの頃に、将来的なニーズがあると考えて、早めに研究を始めました。2022年11月にChatGPTが出て世界を驚かせましたが、同時に以下のような限界も見えました。
- ハルシネーション(嘘をつく)
- 情報の鮮度(最新データを知らない)
- 社内データ(特定の会社の内部情報は知らない)
2023年に入って企業がChatGPTを使おうとしたとき、特に「社内データを知らない」点が壁になりました。また、お客様に提案する中で社内データの扱い(セキュリティ)が課題になることも多く、「社内資料を公開(学習)せずにChatGPTを使いたい」というニーズは絶対にあると確信し、RAGに大きなポテンシャルがあると判断して着手しました。
最先端の技術を研究して身につけるのはR&Dとして当然のミッションでしたし、日系企業を含めた顧客の課題を見て「これは将来、必須の技術になる」と捉えていました。ちょうどベトナム組織で社内ルールへの問い合わせに工数がかかる課題があったため、社内ルールを検索するチャットボットの社内プロジェクトを立ち上げ、開発しながらRAGを深く研究するというやり方で進めていきました。
Sun*のAIソリューションを生み出す、基礎研究ができる組織の強み

――R&Dチームでは、基礎研究から論文発表もしていると聞きました。
タン: R&DのAIチームの特徴として、単にAIアプリケーションを作るだけでなく、基礎研究を行っています。毎日論文を読み、実験を行い、新しい結果が得られたら論文を書いて国際カンファレンスに提出します。承認されれば実際に学会で発表も行うので、大学の研究室にも近い活動ですね。
こういった基礎研究ができるのはSun*のチームの強みであり、新しい分野が出てきても基礎からしっかりキャッチアップできる強みにもなっています。
ヒエン: これまで約40本の論文を完成させていて、国際学会でも何度も発表してきました。
タン: 元々Vibloでやっていた自然言語処理系の論文、それ以上に画像処理系が多いですね。新しいメンバーが入ったとき、彼らに指示を出すのではなく「今どんなトレンドがあるか、自分がどんな分野に興味があるか」を自由に提案してもらっています。画像処理やレコメンデーションシステムなど、メンバーが興味を持った分野の論文が多く生まれています。
――タンさんから見て、Sun*のR&D組織の強みや誇れる点はどこだと思いますか?
タン: AI分野については「基礎研究ができること」自体が強みですし、AIドリブンに会社が真剣に投資している証拠だと思います。
基礎研究は直接売上には繋がりにくく、研究成果がすぐに実際のプロダクトに応用できるとは限りません。それでも会社が「やっていいよ」と自由にさせてくれる環境はとても貴重ですし、こうした基礎研究チームを持つIT企業はそう多くないと思います。
もう一つの強みは、社内の業務システムのほとんどをR&D組織で作っている点です。
Sun*ベトナムでは、社員管理、毎月のパフォーマンス評価、デバイス申請、経費精算など、バックオフィスや人事、開発現場で使う約30個のサービスを全てR&Dで開発・提供しています。自分たちのプロセスに特化してカスタマイズし、業務をスムーズに回せるようにしています。これも自前でできる会社はなかなかないと思いますし、ここでAI実装の実践をしてきました。
R&Dはインキュベーションの部署なので、AI以外も最先端技術を扱ってきました。以前だとブロックチェーンやサイバーセキュリティの研究チームを立ち上げて、クライアントから依頼をいただけるようになったら開発部署へ移動しました。このような形で、最新の技術に関わり続けられるのがSun*の面白いところです。
提案から実装まで。AIを「絵に描いた餅」にしない実行力

――「AIの実装」という視点で、これまでの実績を教えてください。
ヒエン: 私のチーム(AI Engineering Line)で関わってきた分野は幅広く、伝統的なNLP(自然言語処理)、コンピュータビジョン、音声処理、データ分析、そして最近の生成AI(LLM、RAG、エージェント)など、多岐にわたります。お客様の案件でも社内向けの案件でも、さまざまな事例があります。
日本側のメンバーと一緒に仕事をすることが多く、AIの機能が入っている案件には提案段階から入って、実現可能性や見積もり、体制の調整などを行っていますね。開発フェーズになってからは、案件に入って私がブリッジSEをすることもあります。
最近の大きな案件では、ベトナムからAIエンジニアが参加して、その後にブリッジSEが1名入り、日本側にPMやインフラがいる、という形で役割分担をしていました。音声認識のファインチューニングや、GraphRAGを用いたチャットボットなど、幅広く支援に入っています。
――AI Engineering Lineチームの強さは何だと思いますか?
ヒエン: いま流行っているRAGのようなものから伝統的な自然言語処理まで、幅広い分野に対応できることが強みです。さらに、専門化したチームもこれから立ち上げていこうとしています。R&D出身の組織なので、常に最先端の技術に触れることができ、新しいものが出てきたらすぐに取り入れていける環境があります。チームメンバーが若いのでエネルギーもすごく強いですね。
コードのほぼ100%をAIが書いている。AI駆動開発を社内外で推進

――自組織でのAI活用は、どんなものがありますか?
ヒエン: 基本として、GeminiやGoogle WorkspaceのAIツール、GitHub Copilotなどは全メンバーが毎日使って効率化を図っています。他には会社からクラウドのクレジットをもらって、新しいAIサービスが出たらすぐに試して、使えると判断したらすぐにPoC(概念実証)をして、お客様向けに提案できるようにする、というサイクルができていますね。
タン: Sun*として力を入れているのが「AI-Driven Development(AI駆動開発)」です。R&Dでは、ほぼ100%のコードをAIが書いています。エンジニアはそのコードをレビューしたり、指示出しをしたりしています。ここでプロセスの中核となるのが、R&Dも関わって自社開発した「MoMorph」というツールです。デザインから仕様を生成し、コードやテストコードまで一貫して生成できるこのプロセスを、社内はもちろん、お客様のプロジェクトにも積極的に展開しようとしています。
もう一つ面白い例をあげると、社内向けにリアルタイム翻訳ツールを開発しました。会議などにおいてリアルタイムにベトナム語と日本語を翻訳・字幕表示する仕組みで、通訳がいなくてもコミュニケーションが成立する環境を作ろうとしています。先日ベトナムオフィスにお客様が来た時に、開発メンバーの隣に座って、このツールを使って会話をしてみました。ブリッジSEがいなくても、齟齬なくやり取りできていましたね。
――これから先を見据えて、いま研究開発で着手していることは、どのような内容ですか?
タン: 会社全体として、さらにAIを活用することに力を入れています。その中でも特にAI-Driven Developmentですね。「AIエージェントに連携する際、どのようにプロセスへ組み込むとうまくコードを生成できるか」といった研究や実験をしています。これからはもっと効率的にコードを生成できるように「MoMorph」を改善して、多くのプロジェクトに使ってもらいたいと思っています。
AIは仕事を奪うものではなく、人間をクリエイティブに解放するもの

――最後に、お二人がSun*×AIを通して実現したいことを教えてください。
タン: よく「AIは人間の仕事を奪うのか」と聞かれますが、私はそうは思いません。AIに手作業や退屈な仕事を任せることで、人間がもっとクリエイティブで、人間にしかできない価値ある仕事に集中できるチャンスを作っている、と伝えています。Sun*のAIソリューションを通じて、世界中の人々がより創造的な仕事に夢中になれる世界を作りたいと考えています。
ヒエン: 私は、Sun*×AIのアウトソーシングというイメージを塗り替えたいです。「世界中に優れたAIソリューションを提供できる存在」として、Sun* AIのブランドを確立していきたいですね。
Tran Duc Thang(タン)
Sun*Vietnam Strategic Technology Head 兼 R&D Unit Manager
2013年、慶應義塾大学を卒業後、新卒でSun*に入社。ブリッジSE、DevOpsエンジニアを経て、プロジェクトマネージャー、プロダクトオーナーを歴任。2018年にR&D(研究開発)部署を立ち上げ、マネージャーとしてAIやブロックチェーンなどの先端技術活用を牽引。現在はR&DのマネージャーとしてAIをはじめとする技術開発を推進しつつ、Sun*ベトナム全体の技術戦略を担うStrategic Techの責任者を務める。
Hien Nghiem Xuan(ヒエン)
Sun*Vietnam AI Engineering Line Manager
2017年にSun*へ入社。IT・日本語講師としてキャリアをスタートし、その後、R&D部署にてブリッジSEやPMとしてAI関連プロジェクトの管理に従事。2023年、AI研究開発チームの組織化に伴いラインマネージャーに就任。現在は、AI特化型の開発部隊「AI Engineering Line」のマネージャーとして、上流工程の提案から実装、既存顧客へのAI導入提案まで、AIの実社会への実装・普及を一手に担っている。
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