Sun*ではクライアントの新規事業・デジタルトランスフォーメーション・プロダクト開発を成功に導くため、Business・Technology・Creativeの専門チームと、人材採用・組織構築という2つの側面から支援しています。本記事では「仕事・キャリア」の面から、新規事業に関わる人材を取り巻く環境や、求められる要素について、Sun*のビジネスデザイナーで新規事業の最前線に身を置く井上一鷹と、新規事業に関わるキャリア支援に関わる柴田啓喜へのインタビューから掘り下げます(後編)
AIが進化する今、新規事業に関わる人材に求められる要素とは?
―新規事業に関わる人材に求められる資質について、どのように考えていますか?
井上: 普遍的な話で言うと、前日に自分が言った仮説を否定できるような、バイアスが外せる素直さがあること。それから、知的好奇心が高いという話。あとは単純に「逃げない」という、グリットの高さ。この3つが多分、条件だと思います。
あとは、AIやディープリサーチがここまでできてしまうと、人の仕事を「考える」「伝える」「決める」「実行する」の4つに分けた場合、「考える」仕事はAIができるんですよ。2つ目の「伝える」、つまり表現力、コミュニケーション能力、ファシリテーション能力などは少し残る。意外と大事だと思うのは、「決める」ということ。事業会社の中でも、クライアントワークでも、自分で起ち上げてVC(ベンチャーキャピタル)を回ったとしても、投資する側から見て大きな意思決定をする時に「こいつと決めたら失敗しても後悔しない」と思わせる、人間力に近い部分ですね。お金を出す人というのは身を切るわけなので、何が一番大事かというと、ここだと思うんですよ。その上で、グリットがあるという「やりきる」部分かなと思います。
―特に「決める」という部分を磨くために、どのようなマインドを持っていくと良いでしょうか?
井上: 意思決定者のタイプによって、一緒に「決めたい」という人はバラバラだと思っていて、例えると、アーティストのパトロン探しに近いと考えています。事業開発をする人間は、お金や人を出せる相手に対して、「この人に投資したい」と思わせるかどうかが問われるわけです。なので、自分のケイパビリティだったら、こういうタイプの人には刺さるな、というのを見極めること。絵画のことは知りませんが、ゴッホに投資してくれるパトロンと、ピカソに投資してくれるパトロンはきっと違うでしょう。一方で、新卒で入ってきた人たちには、最初のメッセージとして、「大物感と可愛げが大事」という話を伝えています。
―採用支援の立場から見て、新規事業に関わる人材に求められる要素、また今後変化していく見通しがあればお聞きしたいです。
柴田: なかなか難しい質問ですね。新規事業に関わる仕事は、要素がとても多いと思っています。「考える」「伝える」「決める」「実行する」ところ。言葉を変えれば、「企画して、実際の事業計画を立てられる力」であったり、「サービスとして形にできる力」だったりが求められると思います。様々な会社で新規事業に関わるポジションの募集があって、その裏側にはこうした要素が必ず存在しているのですが、転職エージェントとしては、そうした要素と候補者のフィット感を高くマッチングしていくのが非常に重要だと考えています。
一方で、自分がまだまだ理解できていないところもあると感じています。例えば、未経験からBizDev(ビジネスディベロップメント/事業開発)の仕事に転職したいという方が多くいらっしゃるのですが、要素となる経験をすでにお持ちの方は沢山いると考えています。より解像度高く話せるようになりたいと思っていて、「何をもってBizDev経験と言えるのか?」というのを、一概には言えないと思いますが、井上さんにもお聞きしてみたいです。
井上: Sun*のビジネスデザイナーに求められるスキルセットは、整理するとこのように表現しています(図)。
まず1つ目は、投資する人に企画・提案してリソースを確保する、つまり「この人に賭けたい」と思わせる能力。2つ目は、サービスを設計する、コンサル的な企画・デザインをする力。そして3つ目が、実際に作り上げてそれをお客様に届けまくる、マーケティングや業務プロセス構築も含めて、ビジネスとしてちゃんと流し込む実行力。この「①お金を持ってくること」と、「③作り上げて届けること」、ここを大体の人がBizDevと呼ぶと思います。一方で、一般的な”ビジネスデザイナー”と呼ばれる仕事は、「②サービスを設計する力」であることが多いですね。
先日、弊社のビジネスデザイナーが話していた表現があったのですが、いわゆるビジネスデザインやビジネスストラテジストと言われる領域は、役割的にはCSO(Chief Strategy Officer)だと思うんですよ。一方でBizDevは、COO(Chief Operating Officer:最高執行責任者)に近い役割だと思います。
こういう平たい言葉に落とすと、先ほどの①~③に対して、それぞれ経験したことのある人はいるのではないかと思いますね。
柴田: なるほど。学びながらの段階ですけど、こういった解像度を上げながらフィットできるところにご支援していく、というのが今のタイミングかなと思っています。
井上: あとは、0→10のフェーズと、10→100のフェーズという、「起業家なのか事業家なのか」という軸もあると思うんですよね。両方できる人は世の中で見ても非常に少ないと思います。
柴田: 採用支援・転職支援をしている立場で言うと、こういった話の解像度が粗い状態で転職している方、採用している企業が多いと感じています。私は間に入る立場として、解像度高く、良い形で連携を作っていく役割を担いたいと思っています。
「新規事業を経験することで将来の可能性は広がる」―新規事業に関わる人へのメッセージ
―井上さん自身が新規事業に関わる上で、これからやっていきたいことを教えて下さい。
井上: やっていきたいことはあまり変わっていません。Sun*というインフラを愛しているので組織の人達が楽しく仕事をしている状態はキープしたい。ただ、うちのメンバーは優秀なので、いずれ誰かに任せられるとも思っています。その際は、どこかの会社と一緒にJVをつくって、世の中に対して影響力を与えるような事業開発、何かの事業に深く入りたいですね。
―最後に、新規事業の領域でキャリアを考えている方に向けて、メッセージをお願いします。
井上: 大企業の中の方へ特に伝えたいのですが、新しい事業を立ち上げることは、会社の中で偉くなる上では、もしかしたら不利な部分があると思うんです。分かりやすく成果が出る方が、偉くなれそうじゃないですか。だけど、これだけ多くの人が転職する時代においては、新規事業を通じて経験できること、結果としてつくれる市場価値は、おそらく既存事業を伸ばしたことよりも、はるかに目立ちやすい。なぜなら、経験を持つ人が少ないからです。一見リスクがあるように見えるかもしれませんが、新規事業は基本的に会社の資金を使って行うので、個人が負うリスクは限定的、むしろリターンしかないと思っています。新規事業に挑戦して、そのエピソードを持っている方が、次に絶対にいい仕事に巡り会えます。事業開発のチャンスを得ようとしないのはもったいないと率直に思いますね。
柴田: 新規事業企画・事業開発の仕事は、事業づくりそのものだと思うんです。総合格闘技的に事業を作っていく面白さ、それを経験することで得られる面白さがある。どんな大手企業でも昔はスタートアップですし、新規事業・事業開発という仕事も新しい話ではなく、取り組んできた人達は昔からいるんだと思います。そういう前提で、この時代に新しい価値を生み出すことに意味があるので、今の価値創造をエージェントの立場から応援したい、と個人的には考えています。
一方で、高度経済成長期に比べると、今の社会は「失われた30年」と言われるような環境で、業界によっては先行きが怪しいところもあります。そのため、新規事業に関わっていきたい希望があれば、進むべき業界や領域を見極めることが大切だと考えています。大手企業の新規事業への取り組みは、経営陣の本気度が無いと続かないと感じますし、実際に転職相談の中で、その点にモヤモヤを抱える話を伺います。さらに言えば、入社後に環境が変化してしまうことも現実的にはあって、その時、業界自体の成長性が大切になると個人的には考えています。基幹ビジネスが伸びていれば、またチャンスも得られると思うので、そういった見極めも必要ではないでしょうか。エージェントの立場としては、中にいる方から得られるリアルな情報であったり、経営陣のバックグラウンドも含めて、解像度を高められる情報を伝えながら、サポートしていきたいと考えています。
プロフィール
井上 一鷹/Kazutaka Inoue
大学卒業後、戦略コンサルティングファームのアーサー・ディ・リトルに入社し、事業戦略、技術経営戦略、人事組織戦略に携わる。2012年、JINSに入社。商品企画、R&D室JINS MEME事業部マネジャー、株式会社Think Lab取締役を経て、JINS経営企画部門 執行役員、算数オリンピックではアジア4位になった経験を持つ。現在はSun*にて、新規事業開発を色々な角度で努める。著作に『集中力』、『深い集中を取り戻せ』、『異能の掛け算』がある。
柴田 啓喜/Hiroki Shibata
日本タタ・コンサルタンシー・サービシズ株式会社にて約7年間、総合商社向けの基幹システムをはじめとしたプロジェクトのエンジニア・PMを経験した後、2014年以降は、IT業界やDXを推進する大手企業向けの人材紹介業に従事する。チームマネージャーを歴任(うち1年半は人事採用マネージャーも経験)し、2022年に株式会社Sun Asteriskに参画。