ここ数年でDXが叫ばれるようになり、新規事業開発や既存事業において、さまざまなサービス・プロダクトのデジタル化が加速していますよね。そんな社会の変化に伴い、今まで事業創造やITと無縁の世界にいたのに突然デジタルサービス・プロダクトの開発に携わるようになった方も多いのではないでしょうか?
「新規事業でデジタルサービス・プロダクトを開発する」とひと言で言っても、実際の工程は複雑で登場人物も多く、全体像を掴んだり内容をすべて把握したりすることは非常に大変です。
新規事業開発におけるサービス・プロダクトの開発工程がわからない。開発会社とのミーティングに出席したが用語がわからず会話についていけない。ユーザー中心設計を軸に開発をしたいと言われたが何をしたら良いのかわからない、など。さまざまな疑問や困難が生じていると思います。
ここではそんな方々のために、新規事業開発におけるサービス・プロダクト開発の大まかな流れを説明していきながら、中でもユーザー中心設計を主軸にどのように新規事業を企画・設計し、サービスやプロダクト開発に繋げていくのかを、全3回にわたり説明していきます。
新規事業の始め方〜ユーザー中心設計によるサービス・プロダクト開発
第1部:ターゲットユーザーやコンセプトを決めよう
第2部:体験を設計しよう
第3部:サービス・プロダクトに落とし込もう
ターゲットユーザーやコンセプトを決めよう
新規事業におけるデジタルサービス・プロダクト開発の流れ
まずはじめに、新規事業におけるデジタルサービス・プロダクト開発の流れをみていきましょう。プロジェクトが開始して、企画〜開発〜リリースまでの大まかな工程は以下のとおりです。
実際のプロジェクトでは、そのプロジェクトのスケジュール感や開発内容により、デザインと開発が並行して進行したり、システム開発が先行して進行する場合もありますが、ここではこの流れを例にして各ステップについて説明していきます。
新規事業の企画
そのサービス・プロダクトのターゲットユーザーは誰なのか、提供価値やコンセプトを考え、サービスやプロダクトの根幹となる部分を決定します。
実施作業・アウトプット
- ユーザー調査・ユーザーインタビューの実施
- ユーザーモデリングの実施
- アイデア出しのワークショップの実施 など
新規事業の設計・検証
設定したコアターゲットやコンセプトをもとに、ユーザーにとって理想の体験を設計します。また、設計した体験がユーザーのニーズにマッチしているのか、技術的に実現可能なものなのかなど、さまざまな観点から検証を行います。
実施作業・アウトプット
- カスタマージャーニーマップやUXフローの作成
- ワイヤーフレームの作成
- プロトタイプの作成・MVP開発 など
- ユーザー調査・ユーザビリティテストの実施
- 技術フィージビリティの確認 など
デザイン・仕様書策定
実際にユーザーが触れる画面のデザインを作成したり、設計・検証フェーズを経て固まった内容を仕様書にまとめ、エンジニアがスムーズに開発を行えるように準備をします。
実施作業・アウトプット
新規事業の開発
画面デザインと仕様書をもとにエンジニアが実際のサービス・プロダクトの開発を行います。
実施作業・アウトプット
テスト
開発されたサービス・プロダクトをリリースする前に、仕様通りに実装されているか、バグや不具合がないかを細かく確認し修正を行います。
実施作業・アウトプット
- エンドツーエンドテスト(E2E)の実施
- ユーザー受け入れテスト(UAT)の実施 など
新規事業のデジタルサービス・プロダクト開発に関わるメンバー
新規事業開発の流れが大まかに理解できたところで、そこに関わる人たちについても見ていきましょう。新規事業開発にはさまざまな専門的なスキルを持った職種の人たちが参画しています。こちらで説明するのは一般的な内容なので、企業により職種の定義や実際の業務範囲が異なる場合はありますが、それぞれの専門性を生かしたチームワークで企画からリリースまでの一連の作業を行っていくことは変わりません。
プロダクトオーナー (PO):
プロジェクトに対する出資やそのプロジェクトの実施を決定する人
プロジェクトマネージャー (PM):
決定したプロジェクトのリソースや進捗など、プロジェクトがスムーズに進行できるよう管理する人
プロダクトマネージャー(PdM):
サービス・プロダクトの機能立案から成長まで、そのサービス・プロダクトを成功に導くために、どの順序で何を開発していくかをマネージメントする人
UXデザイナー:
事業戦略やブランドを理解した上で、ユーザーニーズやインサイトをもとに、そのサービス・プロダクトが便利で使いやすいものになるよう全体の顧客体験を設計する人
UIデザイナー:
ユーザーが直感的に理解できて迷わずに目的を達成するための実際の画面デザイン考え作る人
エンジニア:
実際のサービス・プロダクトを開発する人。ユーザーが接するインターフェース(画面)を開発するフロントエンドエンジニアと、サービス・プロダクト内でさまざまな機能が働くようにシステムやデータベースの構築を行うバックエンドエンジニアの2種類に大別される
QAエンジニア:
そのサービス・プロダクトが仕様通りの挙動になっているか、不具合やバグがないかを確認する人
それではここからは、新規事業開発におけるユーザー中心設計を主軸にしたデジタルサービス・プロダクト開発で実際に何を行っていくのかを具体的に見ていきましょう。今回こちらで説明するのは企画フェーズで行う以下の3点です。
- ターゲットユーザーの決定
- 提供価値・コンセプトの決定
- ビジネス要件の確認
新規事業開発でまず最初にすることは何か
新規事業のプロジェクトがキックオフして、まず一番最初に決めることはそのサービス・プロダクトの「ターゲットユーザーは誰か」「提供すべき価値は何か」ということです。
自分たちはすでにユーザーが決まっているという方は、ちょっと立ち止まってこれらの質問について考えてみてください。
- そのユーザーは本当に実在していますか?
- そのユーザーはどういう人で、普段どのような行動をしていますか?
- そのユーザーの価値観や求めているものはなんですか?
- 開発に関わるメンバー全員が同じユーザーを想像することができますか?
もし自信を持って答えられなさそうなら、ターゲットユーザーを決めるところから始めましょう。ターゲットユーザーが決まってから初めてサービス・プロダクトの企画を開始できます。
新規事業開発はなぜユーザーから始めるのか
新規事業開発はなぜユーザーから始めるのでしょうか。それはユーザーを理解していなければ、ユーザーに本当に必要とされるサービス・プロダクトを作ることができないからです。ユーザーの心理や行動を深く理解することで、ユーザーが必要としてる機能を最適な体験を通して提供することができますし、ユーザー自身がまだ気がついていない「本当に」欲しいと思っている価値にも気づき提供することができます。それらの提供がユーザーの感動や喜びに繋がり、結果的に売上・満足度・リピート率向上などにも繋がり、事業の成長に繋がるのです。新規事業において、ユーザー中心設計を主軸にサービス・プロダクト開発を行うことは、ユーザーだけではなく企業にとっても非常にメリットが多いのです。
経済学者セオドア・レビット博士の言葉はみなさんも一度はどこかで聞いたことがあるのではないでしょうか。
「人々が欲しいのは1/4インチ・ドリルではない。彼らは1/4インチの穴が欲しいのだ」
“People don’t want to buy a quarter-inch drill, they want a quarter-inch hole.”
セオドア・レビット
新規事業開発においてユーザーが真に必要としていることを突き詰めていくことは、マーケティング領域だけではなく、サービス・プロダクト開発においても非常に重要です。社内のメンバーだけで仕事をしていると、気づかないうちに「提供者側の目線」に立って話を進めてしまうことがよくあります。そうではなく「利用者側の目線」に立ち、ユーザーが求めていることは何か?インサイトやペインポイントは何か?を深く掘り下げ、ユーザー視点を常に意識しながらサービス・プロダクトを企画することが成功につながるのです。
ユーザー中心設計を起点に行う開発に関してはこちらでも詳しく説明していますので、ぜひあわせてお読みください。
売上や顧客満足度の向上につながる「ユーザー中心設計」とは? 事例とあわせて徹底解説!
新規事業におけるターゲットユーザーの決め方
新規事業開発においてユーザー視点を持つことが重要なのはわかったが、どのようにそのユーザーを決めたらいいのかと疑問に思う方もいらっしゃるでしょう。そんな方のために、ユーザーの中で最もプライオリティが高い、コアターゲットを導き出すための一例を紹介します。
コアターゲットはすべてのユーザーの中でも一番に考慮すべきユーザーですが、闇雲に設定しても意味がありません。逆に全てのユーザーをコアターゲットにすることもできません。人の考え方や価値観はとても幅広く、世界中の人全員が満足するものを作ることはまず不可能だからです。そのためには、ユーザーを分類して優先度を付ける必要があります。
ユーザー構造を把握する
まず最初にとりかかることは、ターゲットユーザー層のあたりをつけることで、そのためにはユーザー構造の全体像を把握する必要があります。ユーザー構造を把握するための一番手っ取り早い方法はデータをかき集めることです。
既存サービスであれば、デモグラといった基本情報から、購買履歴や来訪頻度などの顧客の行動や履歴のデータを収集してみましょう。新規サービスであれば調査会社などが行っているマーケット分析などを購入してみても良いかもしれません。もしデータが無かったり不足している場合は、新たに自分たちで調査を実施してデータを収集することもできます。
それらのデータを分析することで、どのような傾向を持ったユーザーが存在しているのかが見えてきますので、四象限マトリクスなどを使って分類し、その中でターゲット層のあたりをつけます。
ターゲットユーザーを絞り込む
ターゲット層のあたりをつけた段階ではまだ粒度が荒くターゲットユーザーといっても複数の可能性が出てくる可能性があります。ここからは重要な指標をいくつか定め、具体的なターゲットユーザーを絞り込んでいきます。
指標はそのサービス・プロダクトの成長に一番寄与するものが良いでしょう。
例えば、靴のECサイトであれば、年間に靴をX回以上購入するといった購入頻度や、靴に対する意識、好みのデザインやスタイルといった嗜好性などが可能性としてあり得るでしょう。そのサービス・プロダクトを利用するポテンシャルが高いユーザーを分析し、彼らの特徴をターゲットユーザーを切り分けるための指標にします。可能であれば、そのターゲットユーザーがマーケットの中でどれくらいの比率いるのかも検証しておくと良いでしょう。
ターゲットユーザーを絞り込むことができたら、実際にその指標に当てはまるユーザーにインタビューを実施しましょう。「なぜ」それを購入しているのか、「なぜ」そのような行動をとったのか、といった聞き方でユーザーが発した言葉や行動を掘り下げることで、ユーザーが抱えている課題やユーザーの心理を明らかにしていきます。
ユーザーの声をさらに分析・分類し、そのターゲットユーザーを象徴するような行動・発言・意識などをまとめ可視化したものが「ペルソナ」です。
ペルソナ
ユーザー像をもっとも際立たせる3〜5つの行動・言動、ニーズ・感情パターンをピックアップしてまとめたもの。
デモグラ、動機、ペインポイントといった情報も付け加え、そのユーザー像が目に浮かぶように情報をまとめるのがポイント。
ユーザー調査についてはこちらもお読みください。
サービスやプロダクトを成功に導く「ユーザー調査」とは?
新規事業の提供価値・コンセプトを決めよう
ペルソナやを作成すると、そのユーザーの姿やユーザーが抱えている課題やペインポイント、求めていることなどが具体的な言葉で表すことができるようになっていると思います。
それらの情報をもとに、新規事業のサービス・プロダクトとして提供すべき価値を考えるためのアイデア出しを行い、コンセプトを決定します。
新規事業のアイデア出し
ユーザーの課題を解決するために必要な機能は何か、そのサービス・プロダクトが全体を通して提供すべき一番の価値は何かといった観点で新規事業に関するアイデアを出しを行います。
アイデア出しは、ワークショップなどを活用してプロジェクト関係者全員を集めて行うのが効率的で早いです。質より量を意識し、多様な視点を持ったメンバーみんなで、色んな角度から新規事業のアイデアを出し合います。アイデアを書き出す際は、事前に決めたターゲットユーザーの視点に立ってアイデアを出すことを忘れないようにしましょう。
新規事業の提供価値・コンセプトを見つけ出す
アイデアが集まったら、類似するものをグルーピングしてみましょう。グルーピングしていくと、そのサービス・プロダクトが提供すべき価値が浮き上がってきます。その中で最も重要視するポイントを絞り、具体的な言葉で端的に説明したものが新規事業の提供価値・コンセプトになります。
新規事業のコンセプトは「早い」「安い」などの抽象的な言葉ではなく、具体的かつ誰もが同じイメージをできる言葉を使い20文字以内でまとめると良いでしょう。
新規事業のビジネス要件を確認しよう
新規事業のターゲットユーザーや提供価値・コンセプトが固まったら企画フェーズは終了ですが、終了する前に確認したいポイントがもう一つあります。それはビジネスとしての要件や制約です。ユーザー視点だけで提供価値・コンセプトを決めてしまうと、稀に事業方針との乖離や矛盾が発生してしまう場合があります。それを避けるためにも、事前にビジネス要件は明らかにしておきましょう。
ビジネス要件はワークショップの中で確認しても良いですし、個別に事業担当者が要件を整理しても良いです。新規事業として達成すべき目標、活用できるリソース、各種制限などを洗い出しておきます。それ以外にも、競合他社と比較した際の自社の強みや、マーケットや他社の動きなども把握しておくと良いでしょう。それらの情報も踏まえた上で、新規事業のサービス・プロダクトとしての提供価値・コンセプトを決めましょう。
まとめ
ここまでで、新規事業におけるユーザー中心設計を主軸としたプロダクト・サービス開発の「企画」のフェーズについて説明してきました。次回は「企画」したものをカタチにするための「設計・検証」フェーズについて説明していきます。
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