システム開発における提案書は、プロジェクトの方向性や信頼性を示す大切な資料です。だからこそ、相手に伝わる構成や内容にするには、その具体的な記載項目やまとめ方のコツを正しく理解する必要があります。この記事では、提案書作成時の基本的な項目や構成例、採用されやすくするための工夫について、サンプル付きでわかりやすく解説します。
目次
システム開発の提案書の概要
システム開発の提案書とは、開発を依頼された企業がプロジェクトの目的や概要、具体的な提案内容をまとめた資料です。提案書を通じて、開発の方向性や期待される効果を相手に正しく伝えることで、プロジェクトへの理解と信頼を得やすくなります。
ちなみに、似た名前のものに提案依頼書(RFP:Request for Proposal)があります。提案依頼書とは、発注側が開発会社に対して「こういうシステムを提案してほしい」と依頼する文書のことです。つまり、提案依頼書が依頼の土台であり、それに応える形で作られるのが提案書です。
システム開発提案書に記載する項目とサンプル例
システム開発の提案書に記載する項目は、ある程度の型が決まっています。ただし、なんでも自由に書けるわけではありません。これから始まる開発の方向性や進め方を具体的に示すものであり、読み手に正しく伝わらなければ誤解やトラブルにつながる恐れがあります。ここでは、提案書で押さえておくべき代表的な項目と、そのサンプル例を紹介します。
表紙・挨拶文・提出先情報
提案書の冒頭には、表紙と挨拶文を用意します。表紙には「プロジェクト名・作成日・提出先・提案元」の情報を明記します。挨拶文では、提案に至った経緯や簡単な意図を述べるとより丁寧になります。誰宛の資料かすぐに伝わるよう、提出先情報も忘れずに記載しましょう。
項目はシンプルですが、宛先の誤りや日付ミスがあると信頼を失う恐れがあるため、注意しましょう。
【サンプル】
提案書名:販売管理システム導入プロジェクト提案書
提出日:2025年6月20日
提出先:株式会社〇〇 情報システム部 御中
提案者:株式会社〇〇 開発事業部 〇〇〇〇
現状の課題と開発の目的
この項目では、現状の業務や仕組みにどのような課題があるかを整理し、それに対して開発で何を目指すかを伝えます。課題と目的の流れがわかるように構成し、読み手に納得してもらえる内容にすることが重要です。数値や事例を交えると、提案の説得力が高まります。
【サンプル】
【課題】
- 既存システムの操作性が悪く、入力ミスが頻発
- 紙の申請業務に時間がかかっている
- データ集計を手作業で行っており非効率
【目的】
- 作業時間を30%削減し、業務の自動化を進める
- 入力ミスを防ぐための管理機能を導入する
- リアルタイムで情報を共有できる仕組みを整える
提案するシステムの概要
この項目では、提案するシステムがどのような仕組みで動き、どのように課題を解決するかを全体像として示します。
対象業務との関連性や導入の狙いを明確にし、読み手が完成後のイメージを持てるような内容にすることが大切です。技術面に偏りすぎず、誰がどのように活躍できるかまで意識して整理しましょう。
【サンプル】
【提案内容】
- 紙の申請業務を電子化し、承認フローをシステムで一元管理
- 入力ミスを防ぐチェック機能と、業務データの自動集計を搭載
- クラウド上に構築し、拠点ごとにリアルタイムで情報を共有可能にする
導入による効果・メリット
この項目では、システム導入によって得られる効果を明確に伝えます。単に「便利になる」といった抽象的な表現ではなく、業務時間の短縮や作業効率の向上、人的ミスの削減など、具体的な改善点を示すのがポイントです。
数値や比較を取り入れると説得力が増します。導入後の業務変化をイメージしやすい内容にすることが大切です。
【サンプル】
- 申請業務の処理時間を1件あたり30%削減
- 二重入力や転記ミスの発生率が大幅に減少
- 社内全体の情報共有が円滑になり、確認作業の手間も軽減
- 担当者ごとの対応状況が可視化され、進捗管理がしやすくなる
開発体制と担当部署
この項目では、提案を実行するための開発体制や関わるメンバーの役割を説明します。誰が何を担当するのかを事前に明示しておくことで、相手企業にとっての安心材料になります。部門間の連携や、相談・対応窓口も明確にしておくと信頼性が高まります。実績や専門性もアピールできるポイントです。
【サンプル】
- プロジェクトマネージャー:進行管理と品質管理を担当
- 開発チーム:要件定義から実装、テストまで一貫対応
- サポート担当:運用・保守の窓口として常時対応可能
- UI設計担当:業務に即した使いやすい画面設計を担当
スケジュールと予算
この項目では、プロジェクトの進行計画とそれにかかる予算を明確に示します。全体の流れを時系列で記載し、開発からリリースまでの期間を可視化することが重要です。また、予算面は大まかな合計額だけでなく、工程ごとの費用も可能な範囲で分けて記載すると信頼性が高まります。
【サンプル】
【スケジュール案】
- 要件定義:2025年7月上旬~8月中旬
- 開発、テスト:2025年9月~11月
- 運用準備、導入:2025年12月
【予算案】
- 開発費用:300万円
- テスト、導入支援:80万円
- 年間保守費:月額5万円
提案書に明記したスケジュールを実行計画に落とし込むには、WBSなどの補助ツールが役立ちます。
実績・参考事例・補足資料
この項目では、これまでに手がけたプロジェクトの実績や、提案内容に関連する事例を紹介します。提案の信頼性を高めるためにも、できるだけ近い業種や事例を挙げると効果的です。また、図表・参考資料などがあれば補足として添えると、読み手の理解が深まります。
ただの宣伝ではなく、今回の提案とどう関係するかを意識して構築することがポイントです。
【サンプル】
【実績事例】
- 医療業界向け業務管理システムの開発(2024年)
- 流通業向け販売分析ツールの構築(2023年)
【補足資料】
- 機能構成図、画面モック、導入後の効果比較データなど
- 保守体制やQ&A資料も別添可能
採用されやすいシステム開発提案書のポイント
提案書に必要な項目を記入しても、ただ形式通りにまとめただけでは、相手にうまく伝わらないことがあります。提案書はその後の開発にも大きく影響するため、初期段階でお互いの認識をそろえておくことが重要です。ここでは、採用されやすくするために意識した提案書のポイントを解説します。
提案依頼書(RFP)に沿って構成を組む
発注者から提案依頼書が提示されている場合、その内容に沿って提案書を構成するのが基本です。提案依頼書は要望の地図のようなもので、これを無視して自社の考えを中心にした提案は的外れになってしまいます。
提案依頼書に記載された課題や期待値を読み取り、各項目で対応する形で提案を整理しましょう。「目的・対象範囲・成果物」のズレには特に注意しましょう。
課題→提案→効果の順でまとめる
提案書でよくある失敗が、いきなり解決策から入ってしまう構成です。読み手がより現状を理解し納得してもらうには「なぜ必要か」「どう解決するのか」「その結果どう変わるのか」の順で話を展開する必要があります。
発注者の課題を正しく捉えていることを冒頭で示し、その解決方法としてシステムを提案してから、最後に導入後の変化を具体的に伝えます。この流れであれば、意図のズレが起きにくくなります。特に、どの課題に対してどの提案を出しているのかひと目でわかるように、セットで整理しておくことが重要です。
読み手を意識した文章と図解を使う
提案書は技術者が読むとは限りません。システムに詳しくない人にも内容が伝わるように、専門用語は避け、短く区切った文章で整理しましょう。また、文章だけではイメージしづらい部分は図やイラストで補うのが効果的です。
操作画面の例や業務フローを絵にするだけでも、理解度は大きく変わります。「この提案でどう変わるのか」がひと目で伝わるよう、構成図や利用シーンの図解を入れると説得力が増します。
導入後の運用まで見据える内容にする
提案書では導入時点での話だけでなく「その後どう使い続けるか」まで示すことが重要です。運用に手間がかかる仕組みでは、導入効果が薄れてしまいます。たとえば、保守体制や問い合わせ対応、アップデートの方針まで含めて記載すると、実運用をイメージしてもらいやすくなります。
また、誰がどう使うのか、現場のフローと紐づけて説明すれば、読み手側の「導入後の不安」も解消可能です。
システム開発提案書は社内向けと社外向けで作り方が違う
提案書には、社外の取引先に提出するものと、社内で決裁を得るために使うものがあります。どちらもシステム開発の概要を説明すること自体は同じですが、伝える相手や重視される内容が大きく異なります。ここでは、社内向けと社外向けそれぞれの提案書の違いや、作成時のポイントについて解説します。
社内向け|目的とコストをわかりやすく伝える
社内向けの提案書では、なぜそのシステムが必要なのか、目的と費用対効果を明確に伝えることが大切です。感覚的な表現ではなく、定量的なデータや具体的な数字を使って、業務改善やコスト削減の見込みを説明します。
加えて、導入にかかるコストや運用イメージをシンプルにまとめることで、上層部の判断がしやすくなります。納得してもらうには、実現性の高い内容に絞って伝えることがポイントです。
社外向け|効果を数字で具体的に示す
社外向けの提案書は、社内向けと異なり「導入する価値」を明確に伝えることが求められます。クライアントの課題をどう解決し、どのような効果が得られるのかを数字で示すのが基本です。
単なる機能紹介ではなく「どの業務がどう変わるのか」を具体的に説明します。導入後をリアルに想像させることがポイントです。
まとめ
システム開発の提案書は、構成や伝え方次第で相手の理解度も信頼度も大きく変わります。課題・目的・効果を筋道立てて伝え、運用まで見据えた提案ができれば、採用の可能性も高まります。
実際の開発段階においては、提案内容を具体的な作業計画に落とし込むことも重要です。プロジェクトを抜け漏れなく管理するためには、WBSによる計画管理を徹底しましょう。Sun AsteriskではWBSの作り方をテンプレート付きで紹介しています。
WBS(Work Breakdown Structure)について、基本の解説と、作成方法を具体的にご紹介いたしました。
アジャイル開発で最低限抑えておきたいポイントをチェックリスト化いたしました。