記事のポイント(要約)
① 生成AIをChatGPTの「検索・要約・リサーチ」以上に活用できていない新規事業担当者が多い。その根本原因はLLMの動作原理を誤解していることにある。
② 5つの方法論(10:80:10の法則、クリティカルシンキング、4つのプロンプト・レバー、一次情報×LLMサイクル、コンテキストエンジニアリング)を実践することで、生成AIは新規事業の最強の「思考のパートナー」になる。
③ コンテキストエンジニアリングの実践により、新規事業の仮説・問いを継続的に磨き上げることでAIとの協働が実現できる。
「ChatGPTやGeminiを使ってはいるが、検索と要約、リサーチ以上の活用方法が見つからない」――新規事業担当者のAI活用における最もよくある悩みです。
Sun Asteriskが2026年1月28日に開催したウェビナー「第1回 新規事業×生成AIの方法論」では、生成AIを単なる検索ツールから「思考のパートナー」へと変える5つの実践メソッドを体系的に解説しました。本記事はそのセッション内容をもとに、すぐに実践できる方法論を余すことなくお届けします。
目次
登壇者プロフィール
株式会社 Sun Asterisk AI Strategist & Business Designer
山内 怜史
ITコンサルティングファーム「フューチャーアーキテクト」に新卒入社。ITコンサルタントとしてビジネス×IT戦略案件をPL/PMとして40案件以上推進。
リクルートで10→100フェーズの事業戦略・営業戦略・商品戦略を担当し、新規事業開発担当として従事した後、取引高200億規模のWebサービス事業責任者を歴任。
現在はSun AsteriskのBusiness Designerとして、様々な業種のクライアントへの新規事業開発を支援。「新規事業×生成AIの方法論」を体系化し、新規事業と生成AIのプロフェッショナルとして活動中。
① 生成AI活用が「検索・要約」で止まっている、その根本原因
よくある課題:AIをリサーチツール以上に使えていない
| 新規事業担当者のAI活用における典型的な悩み
・ AI活用がChatGPTやGeminiの「検索」と「要約」「リサーチ」に留まっており、それ以上の活用方法を見いだせていない ・ 新規事業開発において生成AIをうまく活用できていないと感じている |
原因はLLMの動作原理にある
この問題の根本原因はLLM(大規模言語モデル)の動作原理にあります。現在の主要なLLM(ChatGPT・Gemini・Claude・DeepSeek等)は、インターネット上で公開されているほぼすべてのデータを学習し、統計的な確率予測をもとに言葉を紡いでいるに過ぎません。

重要なのは「Garbage in, Garbage out」というコンピュータ科学の古典的な概念です。指示(プロンプト)が曖昧なままLLMに質問を入力すると、LLMは学習データの正規分布から「統計的に最も頻度の高い、平均的な回答」を返します。新規事業開発に必要な「専門的で深い知見」は、両極端の分布に存在しており、明示的に引き出す工夫が必要なのです。


| 生成AIやLLMから真に価値あるアウトプットを得るためには、AIの動作原理を正しく理解し、意図的に専門的な知見を引き出す技術が必要です。 |
② 方法論① 人とAIの共創黄金比「10:80:10の法則」
最初に提唱する方法論が、人とAIの共創における「10:80:10の法則」です。
| 10:80:10の法則とは
前半10% ――「人間」が問いや仮説を設定する 中間80% ――「AI」が情報を生成・展開・検討する 後半10% ――「人間」がアウトプットを評価・判断・次の問いへ昇華する |

この法則の核心は、「AIを使う」ことではなく「人間が問いを立てる」ことにあります。前半の10%における問いの質が、その後のAIアウトプットの質を決定します。新規事業担当者に求められるのは、AIを使いこなすスキルではなく、深く鋭い「問い」を設計するスキルなのです。
| 人とAIの最も効果的な協働スタイルは、「人間が問いを立て、AIが展開し、人間が評価して次の問いへ」というサイクルを繰り返すことです。AIが80%を担うからこそ、人間の前後10%の質が問われます。 |
③ 方法論② AIを「疑い、導く」クリティカルシンキング
AIの回答をそのまま信じることの危険性
優れたアウトプットを返すLLMに対して、ユーザーが「これは正しい」とそのまま受け入れてしまうと、人間としての思考性を放棄することになります。
AIを「疑い、導く」対話のプロセス
| 従来のAI活用(NG)
1. 質問する |
正しいAI活用(推奨)
1. 質問する(問いを設計する) |
このクリティカルシンキングの対話プロセスには2つの大きな効果があります。第一に、LLMから真に価値ある(誤りのない)アウトプットを得ることができます。第二に、AIとの批判的な対話を通じて、人間自身も深い学びを得ることができます。
④ 方法論③ 専門性を引き出す「4つのプロンプト・レバー」
LLMの回答を「一般的・平均的」から「専門的・希少な知見」へとシフトさせるために「4つのプロンプト・レバー」を提唱します。

| 専門性を引き出す4つのプロンプト・レバー
レバー① 役割の定義 ――「UXデザインのプロフェッショナルとして回答してください」など、具体的なペルソナをAIに与える レバー② 事例の定義 ――「このような実例を参考に」と具体的な事例・参考情報をインプットする レバー③ 思考プロセスの明示 ――「ステップバイステップで考えて」など、AIの思考の進め方を指定する レバー④ 制約の付与 ――「新技術1つ×枯れた技術1つの掛け算で」など、アイデアの範囲・条件を絞り込む |
実践デモ:建設現場DXプロダクト検討の例
建設現場向けDXサービスのアイデア出しを例に、シンプルな指示と4つのプロンプト・レバーを組み合わせた指示を比較します。
| シンプルな指示
「建設業界のDXアイデアを出してください」 |
4つのレバーを使った指示
役割:「ゼネコンインフラ建設現場の40年のエキスパートで、最先端DXに詳しい人物として」 |
| 4つのプロンプト・レバーを理解すれば、あらゆる領域のプロフェッショナルの知見を必要なときに手に入れることができます。生成AIが、まさに「思考のパートナー」になる瞬間です。 |
⑤ 方法論④ 一次情報×LLMの仮説検証サイクル
LLMが学習していない「最も価値ある情報」とは何か
新規事業開発において最も重要な情報は「一次情報」です。一次情報(Primary Information)とは、新規事業の推進過程で皆さんが現場で見たり聞いたり感じたりした情報のことです。これはLLMが学習していない、他の誰も持っていない価値ある情報です。
一次情報×LLMのサイクル

このサイクルを繰り返すことで、従来よりも圧倒的に早いスピードで、解像度の高い仮説を構築することができます。このプロセスこそが、AI時代における新規事業開発の本質です。
⑥ 方法論⑤ プロンプトエンジニアリングからコンテキストエンジニアリングへ
プロンプトエンジニアリングの限界
プロンプトエンジニアリング(Prompt Engineering)とは、LLMへの入力文を構造的に設計することで、望む回答を引き出す技術です。しかし変化が激しく継続性が求められる新規事業開発の場では、プロンプトエンジニアリングには本質的な限界があります。
| プロンプトエンジニアリング
一回の指示で最良のアウトプットを得る方法。つまりOne Shot型の設計。次の分析に前の結果を引き継げず、仮説や論点が変化し続ける新規事業の検討に対応できない |
コンテキストエンジニアリング
新規事業の文脈(コンテキスト)全体を継続管理する。長期記憶として文脈を蓄積・更新し続け、過去の検討状況を踏まえた対話が可能。新規事業の進化とともにAIも成長する |

コンテキストエンジニアリングの核心:「コンテキストファイル」
コンテキストエンジニアリング(Context Engineering)という概念は、Shopify CEOのTobi Lutke氏がマルチAIエージェントの実現に必要な概念として提唱しました。
| コンテキストファイルに記録する情報例
・ プロジェクトの背景・概要・目標・スケジュール |
このコンテキストファイル(テキストファイルやMarkdown形式)を常に最新状態に更新し、LLMへの質問と一緒に入力することで、「過去の検討状況を踏まえた文脈のある回答」を継続的に引き出せます。チャットの断絶にとらわれず、事業の深化とともにAIとの対話も進化させる――これがコンテキストエンジニアリングの真価です。

| 新規事業開発における思考の文脈・プロセスをコンテキストファイルとして永続的に保持し、AIとの対話を通じて育て上げることが重要です。AIに学習させるのではなく、人間が文脈を提供し続けることで、AIは真のパートナーになります。 |
⑦ まとめ:AI時代の新規事業担当者に必要なスキルとは
| 生成AIを「検索ツール」から「思考のパートナー」に変える鍵は、「正しく問う」技術にあります。AIの能力は急速に進化しています。しかし最も重要なのは、その能力を引き出す「人間側の問いの質」です。 |
本ウェビナーで体系化した5つの方法論を整理します。
【10:80:10の法則】 人間が問いを立て(10%)、AIが展開し(80%)、人間が評価して次の問いへ(10%)
【クリティカルシンキング】 AIの回答を批判的に評価し、対話を繰り返して深い学びと正確な回答を得る
【4つのプロンプト・レバー】 役割・事例・思考プロセス・制約を設計し、専門的な知見を引き出す
【一次情報×LLMサイクル】 現場で得た一次情報をLLMにインプットして仮説を磨き上げるサイクルを回す
【コンテキストエンジニアリング】 新規事業の文脈を「コンテキストファイル」として永続的に管理し、AIとの対話を深化させる
これら5つを実践することで、生成AIは新規事業担当者の最強の「思考のパートナー」となります。エンジニアリングスキルではなく、「深く問う力」と「批判的に評価する力」――これがAI時代のイントレプレナーに求められるコアスキルです。
Sun Asteriskの「新規事業×生成AI」支援について
Sun Asteriskは、これまで13年・550社以上の新規事業開発の支援実績をもとに新規事業開発の戦略、サービスデザインの上流工程から開発、サービスグロースまで一気通貫で体系的に支援をしています。またAI駆動開発を活用したプロトタイプ開発・検証サービス「HEART Development」では、Sun*のUIUXデザインに関する知見とAI駆動開発によるスピード重視の開発で事業化までの検証サイクルを高速化することができます。
新規事業開発に関するご相談はお気軽にお問い合わせください。
HEART Development 詳細:
https://sun-asterisk.com/service/development/lp/heart-dev/
参照情報
| イベント名 | Vol.01新規事業×生成AIの方法論 「生成AIを「思考のパートナー」に変える、新規事業の”問い”を磨く1時間の壁打ち実践」 |
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| 開催日時 | – |
| 登壇者 |
山内 怜史 AI Strategist & Business Designer 株式会社 Sun Asterisk |
| 参考・出典 |
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| 編集・監修 | Sun Asterisk 編集部 |