「基幹システムを刷新したはずなのに、現場のExcelファイルが一向に減らない」——製造業のDX推進担当者なら一度は直面したことがある、この根深い課題。デジタルツールを導入すればするほど、システムの境目に手作業が生まれ、二重入力が常態化してしまう。なぜ、製造業の業務フロー改善はこれほど難しいのでしょうか。
そこで株式会社Sun Asteriskは、株式会社エイトレッド、BizteX株式会社とともに、製造業の業務フロー改善における「分断」と「手作業」の実態と解消策を解説するウェビナーを開催しました。基幹システム刷新のコンサルティング、ワークフローシステムの活用、RPAによる自動化という3つの切り口から、業界の第一線で活躍する3社が実践事例とともに登壇しました。
登壇者プロフィール
株式会社Sun Asterisk Division Manager 三木 竜雄
大学中退後に起業。その後に中小IT企業に入社し、SE・PGを経て業務系システムのPMとして多数の案件を担当。社長室企画担当を兼務し、従業員数100名から500名規模への事業拡大に貢献。東証プライム上場のSIerへ転職し、技術部門の管理職として品質管理室を立ち上げ、開発案件の品質事故や納期遅延、赤字案件を80%以上改善。講座開催などPMの育成を通じて失敗プロジェクトゼロを実現。統括部長として拠点の営業利益を5年で2.8倍、組織規模を200名から500名へ拡大。新規事業として複数のSaaSを立ち上げ、執行役員および子会社代表としてDX・地方創生支援を推進。2025年よりSun*で開発プロセスの標準化を進める。現在は、開発プロセスにAI・UI/UX・アジャイルの要素を融合したスピーディで高品質なSIプロセスの確立を目指し、Integrate領域の事業責任者として事業部の立ち上げを進める。
株式会社エイトレッド マーケティンググループ/グループ長 黒田 純平
大学卒業後、大手小売企業に入社し現場統括、FC支援、営業企画など幅広く経験。その後、異業種のハウスメーカーでプロモーション全般を担当。2021年にまたまた異業種のエイトレッドへ。toC、toB両面の経験を活かしマーケティング業務のいろいろをやってます。
BizteX株式会社 マーケティング・メディア担当 瀧澤 充彦
DX・業務自動化メディア「DXhacker」の運営責任者として、SEO・コンテンツ設計を中心にBtoBオーガニック施策全般を担当。BizteX robop(RPA)/BizteX Connect(iPaaS)/インテリジェント フロー(業務プロセス代行)の導入現場を通じて、製造業をはじめとする業務自動化事例を多数取材。本セッションでは、RPAを活用したExcel中心の業務フローの改善方法と、Excelをより有効に活用するためのアプローチを、製造業の事例とともに紹介します。
基幹刷新を成功に導く「組織」と「計画」の最適解
DXプロジェクトの70%はなぜ失敗するのか
調査によると、DXプロジェクトの約70%が「失敗」に終わると言われています。ここでの失敗とは、プロジェクトが炎上・中断するという劇的な事態だけではありません。「予算を大幅に超過した」「スケジュールが遅延した」「システムを入れたが誰にも使われない形骸化状態に陥った」——いずれもDX失敗のリアルな姿です。
どのアプローチにも共通する落とし穴
基幹システム刷新にはさまざまなアプローチがあります。全社の基盤を一気に整備する「全社基盤先行型」、小さく始めて成功体験を積み上げる「スモールスタート全社展開型」、既存システムを段階的に置き換える「段階的再設計型」の3パターンが代表的です。しかし、アプローチを変えても失敗率が高止まりしているのはなぜでしょうか。
Sun Asteriskが多くのプロジェクトで共通して見てきた失敗の原因は、大きく3つに整理されます。第一は投資判断の誤りで、本来スクラッチ開発すべき業務にパッケージを当てはめようとしたり、逆に標準機能で賄える領域に過剰投資をしてしまうケースです。第二は心理的安全性で、ネガティブな情報が上位層に伝わらない文化のもとでプロジェクトが進み、問題が顕在化したときには手遅れになる状況です。第三はアジャイル型とウォーターフォール型の偏り問題で、要件定義や開発フェーズに力を入れる一方、テスト計画が形骸化してしまうパターンです。
プロジェクト成功に向けた3つの鉄則
これらの失敗を回避するために、Sun Asteriskが提唱するのが「3つの鉄則」です。
- 鉄則① 投資判断:コア業務3割スクラッチ、ノンコア業務7割はSaaS/PKGで対応する まず自社のコアコンピタンス(競合優位性の源泉となる業務)を特定し、そこにだけスクラッチ開発の投資を集中させます。それ以外の標準化できる業務は市販のSaaSやERPパッケージのFit to Standard(標準機能に業務を合わせる)で対応することで、総コストと手戻りリスクを大幅に削減できます。
- 鉄則② 組織の在り方:バッドニュース・ファーストの文化を根づかせる ダニエル・キム教授の提唱する「バッドサイクル/グッドサイクル」理論が示すように、ネガティブな情報を早期に共有できる心理的安全性のある組織文化がプロジェクトの成否を分けます。問題が小さいうちに表面化させる「バッドニュース・ファースト」文化の醸成こそが、プロジェクトを健全に前進させる原動力となります。
- 鉄則③ 計画と品質:プロジェクト計画書と全体テスト計画書を必ず作成する ハイブリッド開発(アジャイル+ウォーターフォール)を採用する場合でも、全体のウォーターフォール型計画書の作成は欠かせません。特に「全体テスト計画書」を上流工程で作成することが、手戻りを防ぎ品質を担保するうえで不可欠です。
「ユーザー中心設計」と「AI駆動開発」という2つの処方箋
3つの鉄則に加え、Sun Asteriskが重視するのが「ユーザー中心設計の業務システム」と「AI駆動開発」という2つの処方箋です。
業務システムが定着しない最大の理由は「使いにくさ」にあります。手戻りが多い、業務フローに沿っていない、習熟コストが高い、入力ミスが起きやすい——こうした使いにくさを解消するために、Sun Asteriskはユーザー中心設計の4段階アプローチ(現場ヒアリング→業務フロー分析→プロトタイプ作成→ユーザーテスト)を採用しています。業務システムこそUXが生命線であり、この工程を省いたシステム刷新は形骸化への一本道です。
もう一つの処方箋がAI駆動開発です。Sun Asteriskが独自に開発したフレームワーク「Sun* AI-Ready SDLC」は、設計を起点とするAI駆動開発サイクルと、設計とテストケースの連動によって開発全工程を効率化するものです。実測データでは、詳細設計レベルのタスクにおいて実装工数を39%削減することに成功しています。開発現場が抱える手戻り防止・設計工数削減・品質とスピードの両立・早期リスク検知といった悩みを、このフレームワークがカバーします。
部門最適から全体最適へ——ワークフロー活用で目指す二重入力からの卒業
ワークフローシステムの本質は「意思決定のデジタル化」
ワークフローとは「誰かが申請(起案)し、上長が確認・承認をし、最終決定者が決裁をする」という社内申請手続きの流れを指します。物品購入申請書、休暇届、経費精算書——こうした書類の承認フローは、部署・役職を問わず全従業員が関わる重要な業務です。
株式会社エイトレッドが提唱するワークフローシステムの本質は、単なる申請書類のデジタル化ではなく、「意思決定プロセスそのもののデジタル化」にあります。スマートフォンやタブレットからいつでも申請・承認でき、過去データの高度検索やCSV出力で経営分析にも活用できる——こうした機能によって、経営のスピードを上げることが本来の目的です。
SaaS乱立が生む「境目の手作業」という落とし穴
現代の企業は膨大な数のSaaSを利用しています。Okta Japanの「Businesses at Work 2025」によると、1社が平均して導入しているアプリの数は日本で46個(前年比31%増)。SFA、会計ツール、HRテック、リーガルテックと、部門ごとに最適化されたシステムが乱立する中で、各システムには固有のワークフロー機能が組み込まれ、「違うシステムで使われる同じ機能」という非効率が生まれています。
その結果として生じるのが「二重入力」です。システムAで入力したデータをシステムBに再入力する——この「境目の手作業」こそが、製造業のExcel作業が減らない真因の一つです。
製造業のDXを阻む3つの「壁」
製造業には、他業種と比べてDX推進を特に難しくする3つの壁があります。
- 物理的な壁: 現場や拠点間の物理的距離、個人PCがない環境、人材不足と時間確保の困難さ。解決策としては、現場を止めないスマートフォン・タブレット活用と充実したサポート体制が有効です。
- 心理・リテラシーの壁: ITに不慣れな現場環境と、使いにくさを「不便」と感じていないゆえのシステム定着しにくさ。使い慣れた書式そのままのフォーム活用で「便利さの実感」を生むことが鍵です。
- サイロ化の壁: 長年利用のオンプレミスシステム、複雑怪奇なExcelマクロ、属人化したERP。データのハブ化とクラウドシステム連携、ノーコード運用への移行が求められます。
また、製造業現場に「景色化」してしまいがちな5つのムダも見逃せません。工場内を書類を持って歩く「歩くムダ」、複数部門に同じ内容を申請する「同じ申請のムダ」、拠点間で書類を郵送・FAXする「送付のムダ」、紙やファイルを探し回る「探すムダ」、システム改修が高コストになる「改修費のムダ」——これらは日常に溶け込んでいるだけで、積み上げれば膨大な損失につながっています。
「草の根DX」を実現する3つのポイント
全社DXを目指す際に多くの企業が陥る失敗パターンが3つあります。各部署最適で導入されたシステムが乱立して全社生産性が上がらないこと、全てをトップダウンで推進しようとして現場のモチベーションが下がること、大きな変化を一気に起こそうとしてデジタル派とアナログ派の分断が生じることです。
これらを解消するのが、エイトレッドが提唱する「草の根DX」です。草の根DXを実現する3つのポイントは以下のとおりです。
- Point① 連携性: 全員が使うシステムでシステム連携・データ統合を実現する。既存のSaaSやRPAツールとの連携性を重視した選定が重要です。
- Point② ボトムアップ: 実務メンバーの声を聞き、ボトムアップでアクションが出来る環境をつくる。「Excelが好きな人」「手作業の達人」をDXの仲間に引き込む工夫が鍵です。
- Point③ 業務フローは変えない: 既存業務のフローを変えずに導入できることが定着の条件です。紙の申請書と全く同じレイアウトのフォームをシステム上で再現することで、ユーザーは違和感なくスムーズに移行できます。
製造業での草の根DX 3ステージ事例
エイトレッドが紹介した製造業企業の実践事例は、草の根DXが3つのステージを経て全社展開に至るリアルな道のりを示しています。
ステージ1(部門内奮闘期)はスモールスタート&クイックウィンから始まります。品質保証部内で月次・週次資料をBIツール(MotionBoard)化することから着手。「毎日10分だから手間じゃない」と言い続けた作業が年間40時間、「毎月1時間の集計作業だからダッシュボードを作るほうが手間」と思われていた作業が年間12時間に積み上がることを可視化し、改善の実感を生みました。
ステージ2(社内巻き込み期)では、成果を見た周囲の部門が「うちもBIツールを使いたい」と声を上げ始めます。品質保証部が他部門をDX活動に巻き込み、データ活用ワーキンググループの立ち上げを経て、DX推進グループが発足。さらにAgileWorksを起点に、申請・承認後のデータをDr.Sumに自動格納し、RPAで自動アップロードする仕組みを構築。手作業の「完全自動化」が実現しました。
ステージ3(全社拡大奮闘中)では、社内コミュニティが発足し、AgileWorksの勉強会や社内DXニュースレターによる情報発信が始まります。「WordやExcelで申請書を作成するのと同じ感覚で作れる」という現場からの声が広がり、全員がデータ活用推進者になる「DXでみんなを笑顔に」の状態を目指します。
エイトレッドの製造業導入事例
エイトレッドのワークフローシステムは累計5,000社以上への導入実績を持ち、製造業が全体の約27%を占めます。具体的な成果として、一般機械器具メーカーの株式会社石垣では、4つの方式に分散していた申請業務をX-point Cloudに集約し、年間約800万円のコスト削減と開発効率の飛躍的向上を実現。裏議書の決裁に要していた期間を約1/3に短縮し、開発効率は2〜3倍に向上しました。トヨタ自動車東日本株式会社では、AgileWorksの活用で130種類・9万件の紙帳票を削減し、カイゼン文化を加速させて「トヨタウェイ2020」の実現に貢献しています。
製造業のExcel作業をRPAで減らす——転記・CSV・複数拠点入力の自動化事例
RPAとは何か——Excelマクロ・AIとの違い
RPA(Robotic Process Automation)とは、「決まった手順のパソコン作業」をソフトウェアロボットが人の代わりに実行する仕組みです。入力・検索・集計・登録・送信といった「単純で繰り返しの作業」の自動化が得意で、「ルールが決まっている」「繰り返し発生する」「ミスが許されない」という条件を満たす業務に特に向いています。
よく混同されるExcelマクロやAIとの違いは明確です。Excelマクロは特定のアプリケーション内でしか動作しませんが、RPAは複数アプリケーションを横断して操作できます。AIは「文脈を読んで判断する」のが得意ですが、ハルシネーション(誤った情報の生成)の懸念があります。RPAは「決まった手順を正確に大量に繰り返す」ことに特化しており、製造業の定型業務自動化に適しています。
製造業に残る「Excel周辺の手作業」4タイプ
BizteXの調査から、製造業の現場に残る手作業は主に4つのタイプに分類されます。
- ① 基幹システム⇔Excel: 基幹からCSVを出力し、Excelで加工してから別の基幹システムに取り込む作業
- ② 基幹システム⇔部門ツール: 生産管理実績を品質管理ツールや在庫管理システムへ手入力する二重入力
- ③ 拠点間: 本社・複数工場・倉庫間でExcelをメール往復し、現地で再入力する作業
- ④ 取引先⇔社内: 取引先からのFAX・PDF・Excelの注文書を担当者が読み解いて社内システムに手入力する作業
「基幹システムを入れたのに、Excel作業が減らない」の正体は、まさにこの4タイプのシステム間の手作業です。
BizteXが実践した3つの自動化事例
事例1:複数拠点のExcel→基幹入力を自動化(月200時間削減)
4拠点で同じフォーマットの製品加工データをExcelで計算し、基幹システムに手入力していた製造業企業。各拠点ごとに実行専用ライセンスを導入し、同じロボットを横展開することで手作業を自動化。4名分の稼働がロボット1台に代替され、月間200時間の工数削減を実現しました。
事例2:FAX注文書のOCR+RPA一気通貫自動化(年792時間・238万円削減)
毎日3時間かけて全手動で実施していた取引先からのFAX注文書処理。発注番号と納品先の転記、納品数と発注数のチェックという二段階の作業をOCRとRPAで一気通貫に自動化しました。新規採用が不要になり、付加価値のある業務へ人員を再配置した結果、年間792時間・238万円の人件費削減を達成。ヒューマンエラーも解消されました。
事例3:Excelマクロ置き換えでエラーと作業時間を大幅改善(月7時間→3時間)
複数店舗のPOSデータをExcelマクロで集計していた企業では、マクロのエラー発生が多く実行中は担当者が常に監視する必要がありました。BizteX robopへのリプレイスにより、月7時間から3時間へ作業時間を短縮し、監視作業も不要に。エラーは自動停止・即時通知されるため、精神的ストレスも大幅に軽減されました。
BizteX robopの3つの特長
BizteXが提供するデスクトップRPA「BizteX robop」は、現場主導での内製化と全社展開がしやすい3つの特長を持っています。プログラミング不要でドラッグ&ドロップ操作でロボットを構築でき、2時間で基本操作をマスターできる設計になっています。また、専属カスタマーサクセスが伴走してレクチャーを実施するため、中堅の医療機器メーカーでは現場社員主導で1年間に57本のロボットを構築し、年間1,600時間の削減を達成した事例もあります。
現場のExcelを「そのまま使いながら」、システム間の手作業だけをRPAが巻き取る——現場の業務のやり方を変えないため、現場の負担なく導入できる点がBizteXの根本的な考え方です。
まとめ
本ウェビナーを通じて明らかになったのは、「システムを入れてもExcel作業が減らない」という製造業の課題には、基幹システム、二重入力、そして製造業現場に根づいた手作業たちといった構造的原因があります。これらは互いに連動しており、一つのアプローチだけでは解消できません。
解決の鍵は、基幹システムのコア/ノンコア分離と組織文化の変革、ワークフローシステムによる意思決定プロセスのデジタル化と草の根DXの推進、そしてRPAによるシステム間手作業の自動化という三位一体のアプローチにあります。いずれのセッションでも共通していたのは、「現場の業務のやり方を大きく変えずに、小さな成功体験を積み上げていく」という姿勢でした。
株式会社Sun Asteriskでは、製造・流通・小売業界を中心に670社・1,300プロダクト以上の開発・改善支援実績をもとに、DX戦略立案から基幹システム刷新・業務自動化まで一気通貫でサポートしています。製造業の業務フロー改善やDX推進に関するご相談は、ぜひ株式会社Sun Asteriskまでお気軽にお問い合わせください。