「ChatGPTを導入したが、一部の社員しか使っていない」「ツールは入れたものの、業務改善の手応えがない」——AI活用に取り組む企業の多くが、こうした壁にぶつかっています。日本のAI業務利用率は55.2%にとどまり、導入企業のうち「期待を大きく超えた」と答えたのはわずか4%。なぜ、多くの企業がAIを導入しても成果を出せないのでしょうか。
そこでSun*では、株式会社タイガーアイとの共催で、AIを使いこなす企業の共通点と、次のステージへ進むためのAIエージェント活用の最前線を解説するウェビナーを開催しました。
目次
登壇者プロフィール
株式会社TIGEREYE リスキリング事業部 小林 隆洋
採用・人材育成・教育コンサルティングの領域で、多様な働き方や価値観を尊重しながら多くの労働者と向き合い、企業の人財課題の解決に取り組む。RPA・ローコード・生成AIなどのツール活用を通じて人財の価値再発見と組織の生産性向上を実現してきた。これまで約400社・約2万名に関わった実績を持ち、先端技術の企業導入と人材育成の両面から支援を行っている。
株式会社Sun Asterisk Data and AI Pros, Unit Manager 追立 知浩
新卒で自動車部品サプライヤに入社し、自動運転の機能開発や市販車からのデータ収集システムに携わる。その後、大規模物流データの分析基盤開発、ChatGPT(Azure OpenAI)の企業への導入システム開発・RAG構築などを手掛けた。2024年3月よりSun*に入社し、AIおよびデータ関連の案件に従事している。
2026年、AIは「選択」ではなく「生存要件」(タイガーアイ セッション)
日本のAI活用が遅れている現実
日本のAI活用は海外に比べて遅れているという現実があります。
- 日本のAI業務利用率は55.2%: 米国が90.6%に達している中、日本は主要国に大きく後れを取っており、その差は今も拡大し続けている。
- 「期待を大きく超えた」企業はわずか4%: 導入企業の約96%が成果を十分に実感できていない。
- 真の障壁は技術ではなく人と文化: ツールがあっても人が動かなければ何も変わらない。根本は教育にある。
加えて、2025年9月には日本AI推進法が全面施行、2026年3月にはAIセキュリティガイドラインが施行されました。社内ガイドライン未策定の企業は法的リスクを負う局面になっており、AI活用への対応は事業継続の観点からも急務となっています。
なぜ「ツール導入」だけで失敗するのか
多くの企業がAIの導入に踏み切りながらも成果を出せないのには、3つの構造的原因が考えられます。
- 人材の深刻な二極化: 感度の高い1割が使いこなし、残りの9割が放置された状態になる。「一部のエース頼み」では組織全体の底上げにはならない
- 「作業」止まりの活用: 既存業務のスピードアップに終始し、業務プロセスの再設計まで至っていない。業務再設計なき効率化は早々に限界を迎える
- 経営層の「丸投げ」: 号令は出すが評価指標を持たない。現場は「AIで何をすべきか」のディレクションを求めているが、方針が現場まで届かない
AIはあくまでツールであり、課題を解決するのは人間です。トンカチを渡されても、何を作るかがイメージできなければ使いこなせません。まずは「正しく学ぶ」ことが必要なのです。
AI活用に必要な3つの要素
「正しく学ぶ」ために必要な要素として以下の3点が挙げられます。
- ツールの特性理解: ChatGPT・Gemini・Claude・Copilotにはそれぞれ得意・不得意がある。創造的な文章生成、論理的思考、プログラミング支援、Googleサービスとの連携など、業務シーンに合わせた使い分けが重要
- プロンプト設計力: AIへの指示1つで結果が大きく変わる。自分の欲しい回答を引き出すための指示技術を習得することで、成果の質が劇的に向上する
- セキュリティ・ガバナンス知識: 個人情報漏洩・著作権・バイアスへの対処を理解した上で運用しないと、全社展開が情報システム部門のルールによって止まってしまう。セキュリティの壁を超えるためにも、全社員のガバナンス意識を高めることが必要
先行企業が証明した「学ぶ→使いこなす」の威力
大手企業の取り組み事例
AIを戦略的に推進している企業の具体的な成果を紹介します。
- パナソニックコネクト: 社内向けAIアシスタント「Connect AI」を全社員12,400名に一斉展開。コード生成・手順書作成・資料レビュー・アンケート分析などを支援し、年間44.8万時間の削減を実現
- 物流大手(売上1兆円規模): 年間約1億円の教育投資でAI教育を展開。全業務30%削減を目標に推進中
- 金融大手: 融資・審査・コンプライアンス業務をAIで効率化し、月間22万時間の削減を達成
- LINEヤフー: 全従業員11,000名にAI活用を義務化。年間70〜80万時間の削減を目標に設定
なかでも特に注目なのがソフトバンクの取り組みです。全社員約2万名にAI活用を義務化し、わずか2ヶ月半で250万超のAIエージェントを構築。宮川社長の「AIを使える社員の数が勝敗を分ける」という言葉のもと、AI利活用基盤の整備・学習プログラムの提供・全社コンテストなどの活用促進施策を三位一体で実施し、AI活用文化を組織に根付かせることに成功しています。
サンドイッチ構造——トップダウンとボトムアップの交差点
こうした組織変革がどのように進むかについては「サンドイッチ構造」と呼ばれるモデルで説明ができます。
- Phase A(〜6ヶ月)トップダウン主導期: 経営層の強いメッセージと幹部層への義務化、全社研修の集中投下でAI活用の推進力を生み出す
- Phase B(約6ヶ月)交差転換期: 現場の活用が自発的に広がり始め、ボトムアップの力がトップダウンと拮抗する
- Phase C(6〜24ヶ月)ボトムアップ主導期: 現場発の活用事例が蓄積され、AI推進リーダーが自律的に牽引する自走組織が定着
組織全体の10%の社員が自発的にAIを業務活用し始めると、周囲への波及が起き、やがて全社の当たり前として内製化が進む臨界点を超えます。
人材成長の3ステップと400名規模企業の成果
AI人材の育成は、以下の3段階で進めることが重要です。
- 基礎力(STEP 1): ツールの特性を理解し、安全に使える状態。全社員の知識の底上げを行い、組織をまたいだ情報共有を可能にする
- 応用力(STEP 2): 自分の職種・業務に合わせてAIを活用できる状態。経理・人事・営業・マーケティングなど、役割に応じた実践力を身につける
- 自立力(STEP 3): 自ら課題を発見し、AIで解決して周囲に展開できる状態。こうした人材が10%に達すると組織全体への波及が起こる
導入事例として、製造業A社(社員400名)では基礎編研修後にAI中核人材20名を特定・育成。研修後の業務時間を平均23%削減し、「一部のエースだけが使う」状態から「全社員が使える」状態へと変革しています。
AIエージェント活用の最前線(Sun* セッション)
AIエージェントとは何か
AIの利用形態は大きく変わってきています。これまでのChatGPTなどのチャットAIは「質問して回答をもらう」使い方でしたが、AIエージェントは判断・実行・連携・報告を自律的に行う存在です。
AIエージェントは、単なるツールではなく一緒に働くパートナーです。これまで人間が担っていた業務を委任することで、人間はより価値の高い仕事に集中できるようになります。
AIを事業戦略と連動させている企業の売上成長率は平均2.2倍に達するという調査結果もあり、AIエージェントの活用が企業の競争力に直結する時代が始まっていることが分かります。
DXからAX/AIXへ——業務の「再設計」が求められる理由
DX(デジタルトランスフォーメーション)とAIX/AX(AIトランスフォーメーション)の違いは以下のように整理できます。

DXが「既存業務をデジタルで置き換えること」を目指すのに対し、AIX/AXは「AIを前提に業務そのものを再設計すること」が目標です。変革の対象もプロセスだけでなく判断・思考・知識労働そのものに及び、最終的な姿は「AIが働く組織(AIネイティブ企業)」です。
AIを活用するうえで最も重要なのは、既存の業務をそのままAI化することではなく、AIを使うという前提に立って業務を改めて考え直すことです。
国内のAIエージェント活用事例
追立氏は、日本国内での具体的な活用事例として以下を紹介しました。
- 楽天トラベル: ユーザーが自然な言葉で希望を伝えると、AIが条件を読み取り、ニーズに合う宿泊先を提案。複雑な条件や抽象的な要望にも対応
- パナソニックコネクト: 社内向けAIアシスタントをコード生成・手順書作成・資料レビューに活用
- 明治安田生命: 営業職約3.6万人が利用するAIエージェント「MYパレット」。顧客情報をもとに提案アドバイスや訪問後のお礼文を支援
- スギ薬局: 年末調整の問い合わせに回答するQAボットと、薬剤師が自然言語で近隣店舗の医薬品在庫を確認できるエージェントを構築
- JA共済連: 地域貢献活動に関する基金の支出可否判断を支援するAIエージェントを構築。ガイドラインや過去事例に基づいた確認業務を効率化
Sun*社内での活用——工数50〜60%削減の実績
Sun*自身も、社内業務への積極的なAIエージェント活用によって既存業務の工数を50〜60%削減しています。
- Sun llama(社内規定・マニュアル検索):社内規定や業務マニュアルについて質問すると、エージェントが自律的にドキュメントを検索して回答
- 営業支援エージェント: 商談前に業界・企業の課題を調査し、Sun*のケイパビリティを考慮した最適な支援内容を整理して提案
- 経費精算支援エージェント: 領収書や申請内容が社内ルールに適合しているかを自律的にチェック
- 問い合わせ対応エージェント: 社内ルールや過去の回答履歴に基づき、バックオフィス部門への問い合わせに自動回答
クライアント支援実績
クライアント企業への支援実績として2つの事例を紹介します。
保険業界クライアント(問い合わせ回答エージェント) システムエラーや仕様への問い合わせが多く、根本的なバグ修正に手が回らない状態でした。業務プロセスのAS-IS分析とTO-BE定義を経て、仕様書・過去回答から自動回答するエージェントを開発。結果として問い合わせ対応時間を50%削減することに成功しました。
メーカークライアント(開発プロセス効率化) 過去の仕様書・設計ドキュメントの検索コストが高く、開発に時間がかかっていました。現在、AI駆動を前提とした開発プロセスへの再定義と、仕様書検索エージェント・MCPサーバを開発中です。
670社1,300プロダクト以上に及ぶSun Asteriskの事例はこちら
まとめ
AIを使いこなす企業と使いこなせない企業の差は、ツールの有無ではなく「学ぶ」と「使う」の両輪が回っているかどうかにあります。タイガーアイが示す人材育成の3ステップ(基礎力→応用力→自立力)でAIリテラシーを組織全体に浸透させ、Sun*が実践するAIエージェント活用でその力を実際の業務改善・事業価値向上につなげていく——この組み合わせが、2026年以降の競争優位の源泉となります。
Sun*では、2,116名のエンジニア・クリエイターが在籍し、AIエージェント開発からAIX推進まで、0から100のフェーズを一気通貫でご支援しています。AI活用・AIエージェント導入にお悩みの際は、ぜひSun*までお気軽にご相談ください。