こんにちは。Sun Asterisk AI開発チームです。
生成AIの進化により、システム開発ではコード生成に加え、要件整理や設計、テスト、運用にもAIを活用する動きが広がっています。そこで注目されているのが「AI駆動開発ライフサイクル(AI-DLC)」です。
今回は、AI-DLCの特徴や仕組み、人とAIの役割分担についてわかりやすく解説します。導入時に押さえておきたい注意点も紹介するので、AIを活用したシステム開発を検討している企業担当者はぜひ参考にしてください。
- AI駆動開発ライフサイクル(AI-DLC)の概要と、SDLC・アジャイル開発・仕様駆動開発との違い
- AI-DLCが注目されている背景と、AWSが示す10の設計原則
- Inception・Construction・Operationsの3フェーズの進め方
- AI-DLCにおけるAIと人の役割分担の考え方
- レビュー負担や役割の曖昧さなど、導入時に押さえるべき注意点と対策
AI駆動開発ライフサイクル(AI-DLC)とは?
AI駆動開発ライフサイクル(AI-Driven Development Life Cycle、AI-DLC)とは、要件整理から実装、テスト、運用まで、ソフトウェア開発の各工程でAIと人が協働する開発手法です。AWSが2025年7月に公式ブログで提唱した開発方法論で、AIが計画を作成して不明点を質問し、人が確認・承認したうえで実装へ進む「人の監督のもとでのAI主導の実行」とチームでの協働を柱としています。
開発プロセス全体をAIとの協働に合わせて見直すことで、反復作業にかかる時間を抑え、人が要件の検討や技術的な判断に取り組む時間を確保しやすくなります。
※参考:AI主導型開発ライフサイクル:ソフトウェアエンジニアリングの再考
従来の開発手法との違い
従来の開発では、人が要件定義・設計・コーディング・テストを主導し、AIは作業を補助する目的で使われることが一般的でした。一方、AI-DLCでは、AIが計画の作成や成果物の生成を主導し、人が内容を確認しながら開発を進めます。また、工程間の連携や成果物の検証方法も見直し、AIを活用した開発を進めやすい体制を整えます。
SDLCとの違い
SDLC(Software Development Life Cycle)は、要件定義・設計・開発・テスト・リリース・保守など、ソフトウェア開発の一連の工程を体系化した考え方を指します。一方、AI-DLCは、開発ライフサイクル全体をAIとの協働を前提に設計する手法です。SDLCが開発工程の枠組みを示すのに対し、AI-DLCではAIが計画や成果物の生成を担い、人が確認や意思決定を行う進め方に重点を置いています。
併せて読みたい:システム開発のライフサイクルとは?設計・開発・テストなどの進め方を解説
アジャイル開発との違い
アジャイル開発は、短い開発サイクルを繰り返し、ユーザーからのフィードバックや要件の変更に柔軟に対応する開発手法です。スプリントごとに計画・実装・テスト・レビューなどを行い、チーム内でのコミュニケーションを重視します。
AI-DLCでは、AIが計画や成果物の案を作成し、人がレビューや意思決定を行います。短いサイクルで開発と検証を繰り返すアジャイル開発と組み合わせれば、フィードバックを取り入れながらAIとの協働を進めることも可能です。
併せて読みたい:アジャイルとは?システム開発における手法やメリット・デメリットを解説
仕様駆動開発(SDD)との違い
仕様駆動開発(Spec-Driven Development)は、要件定義で明確に定義した仕様を開発の中心に据え、その仕様に基づいて設計・実装・テストなどを進める考え方です。生成AIを活用する場合も、人が整理した仕様書をAIへ与え、コードを生成させる方法が中心となります。
一方、AI-DLCでは、要件整理や計画の立案から実装、テスト、運用まで、AIを活用する範囲を開発全体に広げます。仕様駆動開発が仕様を起点に各工程を進める考え方であるのに対し、AI-DLCはAIと人の協働を軸に、工程の進め方そのものを設計する点が異なります。
AI-DLCが注目されている背景
AI-DLCが注目される背景には、生成AIやAIエージェントの進化があります。従来は、コーディングの補助やドキュメント作成など、個別の作業にAIを使うケースが中心でした。近年は、要件の整理や設計案の作成、テストなどにもAIを活用できるようになり、開発プロセス全体を見直す動きが出てきています。
従来の開発プロセスを変えずにAIを部分導入するだけでは、工程間の連携や確認作業に時間がかかる場合があります。AI-DLCでは、開発の進め方をAIと協働して見直し、反復作業の負担を抑えつつ、エンジニアが設計や技術的な判断に取り組む時間の確保を目指します。
AI-DLCにおける10の設計原則
AWSが公開しているホワイトペーパーでは、AI-DLCの設計に関する10の原則が示されています。これらは、AIの能力に合わせて開発プロセスを組み立て、人による確認や意思決定を組み込むための指針です。
- Reimagine Rather Than Retrofit(後付けではなく再設計・再構想する)
- Reverse the Conversation Direction(会話の方向を逆転させる)
- Integration of Design Techniques into the Core(設計手法をコアに組み込む)
- Align with AI Capability(現在のAIの能力に合わせる)
- Cater to Building Complex Systems(複雑なシステムの構築に対応する)
- Retain What Enhances Human Symbiosis(人との協働に関わる要素を残す)
- Facilitate Transition Through Familiarity(慣れ親しんだ手法で移行を支援する)
- Streamline Responsibilities for Efficiency(責任・役割を統合して効率化する)
- Minimise Stages, Maximise Flow(ステージを最小化しフローを最大化する)
- No Hard-Wired, Opinionated SDLC Workflows(固定のSDLCワークフローを設けない)
AI-DLCにおける3フェーズ

AI-DLCでは、開発プロセスを大きく3つのフェーズに分け、人とAIが役割を分担しながら開発を進めます。
Inception(開始)フェーズ
Inception(開始)フェーズでは、システムやサービスで実現したいことを整理し、要件を具体化します。人がビジネス上の課題や目標、制約条件を伝えると、AIは質問や提案を通じて、要件の曖昧な点や不足している情報を洗い出します。
人がAIの質問や提案を確認し、実現する内容を合意することで、次のConstructionフェーズに向けた準備を進めます。
併せて読みたい:システム開発における要件定義の基本と成功の秘訣|作成手順と5つのコツを解説
Construction(構築)フェーズ
Construction(構築)フェーズでは、Inceptionフェーズで合意した要件をもとに、設計・実装・テストを進めます。AIが設計案やコード、テストケースを作成し、人が内容を検証して必要に応じて修正や承認を行います。このように、成果物の作成と検証を繰り返しながら、要件に沿ったシステムを構築します。
Operations(運用)フェーズ
Operations(運用)フェーズでは、システムを本番環境へ展開し、稼働状況を監視しながら運用を続けます。AIはログの分析や障害対応、運用改善などを支援し、人はセキュリティ上の問題や事業への影響を確認して対応を判断します。このフェーズでは、運用中に得られた情報を次の改善に生かすことも重要です。
AI-DLCにおけるAIと人の役割分担
AI-DLCでは、AIと人がそれぞれの役割を担いながら開発を進めます。AIは大量の情報処理や成果物の生成を得意とし、要件の整理・設計案の作成・コーディング・テストケースの生成・ログ分析などを担当します。
一方、人はビジネス上の目的や要件を定め、AIが生成した成果物をレビューします。要件の優先順位やセキュリティ対策、倫理面に関する判断など、事業への影響を踏まえた意思決定も人の役割です。
AI-DLCを導入する際の注意点

AI-DLCを導入する際は、AIに任せる業務の範囲や人による確認方法を、自社の開発体制に合わせて決めることが重要です。
AIと人の作業分担を明確化する必要がある
AI-DLCの導入時には、AIと人間の担当範囲を具体的に定めましょう。役割が曖昧だと、AIの出力を十分に検証せず採用したり、複数人が同じ成果物を確認したりする事態につながります。工程ごとに責任者と承認基準を設定し、人のレビューが必要なタイミングを決めておくことが大切です。
開発チームのレビューと承認に時間がかかる
AIが成果物を短時間で生成しても、人間によるレビューや承認に時間がかかると、開発全体の進行が滞る場合があります。生成されるコードや設計案が増えるほど、レビューの負担も大きくなります。
対策として、成果物のリスクや重要度に応じてレビューの範囲や方法を変えることが考えられます。自動テストも活用しながら、人間が詳細に確認すべき箇所を整理しましょう。
併せて読みたい:開発スピードが遅い原因は?即効で改善する指標・対策・チェックリストを解説
フレームワークに頼らない導入プロセスが求められる
AI-DLCを導入する際は、既存のフレームワークをそのまま適用せず、自社の開発体制や対象システム、セキュリティ要件、AIの活用状況に合わせて進め方を検討しましょう。
まずは小規模なプロジェクトで試行し、得られた結果をもとに運用ルールを見直すことで、自社の状況に合った開発プロセスを整えられます。
まとめ
AI駆動開発ライフサイクル(AI-DLC)は、要件整理から運用までAIを活用し、人間と協働しながら開発を進める手法です。導入時は、AIと人間の役割分担やレビュー・承認の基準を明確にし、小規模なプロジェクトで検証しながら、自社に合った開発プロセスを整えましょう。
AIで成果物を素早く作れるようになっても、レビューや合意形成に時間がかかれば、開発全体のスピードは上がりません。株式会社Sun Asteriskでは、こうした”人の時間”のボトルネックに着目し、実案件の詳細設計・実装フェーズで生産性を高めた開発プロセスを資料にまとめています。