【共催ウェビナーレポート】デザイン起点と未来洞察によるサービスコンセプトの作り方〜AI時代に新規事業を前に進める”構想と実装”の新常識〜
更新日:2026年6月10日
消費者の価値観が激変する現代、顧客の不満を解消するだけの事業では競合との差別化は困難です。不確実な市場で非連続な成長を描くには、未来の生活者の兆し(インサイト)を捉えながら、それを鮮度を落とさずにプロダクトやサービスの要件へと言語化させる「型」が欠かせません。
そこで株式会社Sun AsteriskとSEEDER株式会社は、「顧客起点(ユーザーインサイト)」と「未来洞察(トライブ)」という2つのアプローチから新規事業開発の実践知を共有する共催ウェビナー「デザイン起点と未来洞察によるサービスコンセプトの作り方」を開催しました。本記事ではその内容をレポートします。
株式会社Sun Asterisk 三角 由紀乃(Yukino Misumi) UX Designer/Unit Manager。エンタープライズ企業の新規事業開発におけるサービスデザイン・UXデザインのクライアントワークに長年従事。ユーザー・サービス提供者・社会の三者を考慮した体験設計および事業開発が強みで、Sun*ではプロジェクト支援を担当したマインドフルネスアプリで2025年にGood Design賞を受賞。現在はUXデザインチームのUnit Managerを務める。
SEEDER株式会社 吉冨 剛典(Takenori Yoshitomi) セールス&マーケティング事業本部長。大手企業〜ベンチャー企業にて企画業務を10年以上経験し、市場動向に即した”儲かる仕組みを作る”ビジネススキームの構築に強みを持つ。SEEDER参画後はマーケティングを中心に営業やプロジェクトマネジメントなどフロントエンドの業務に幅広く従事している。
なぜ今、単一の発想法だけでは新規事業が伸びにくいのか
Sun Asteriskの三角氏は、「新規事業、新規事業と言われる世の中なので、もうどの角度から行っても一定誰かがそこに進んできている」状況にあると指摘します。どの角度から発想しても、すでに誰かが取り組んでいる領域が多いため、単一のアプローチだけでは差別化が難しくなっているというのが実感なのです。そのため、多角的な発想法・アプローチをどう組み合わせるかを考えることが、今や新規事業開発において必須になっているといいます。
こうした背景から、本ウェビナーでは「顧客起点」でユーザーインサイトを捉えるSun Asteriskと、「未来洞察」で先進的生活者(トライブ)の兆しを捉えるSEEDERという、異なる2つのアプローチを組み合わせて事業やサービスコンセプトを作る方法が紹介されました。
SEEDERの吉冨氏も同様の課題認識を示し、「顕在化しているニーズはすでに情報が出てきていて飽和状態。そこに辿り着いてしまうと、既存のサービスラインでどう競合していくかという話になってしまう」と述べ、インサイトを掘り起こすことの重要性を強調しています。
Sun*が実践する「ユーザー起点」の人間中心デザインとは
Sun Asteriskは、多国籍で多様なバックグラウンドを持つB(ビジネス)・T(テクノロジー)・C(クリエイティブ)のプロフェッショナルでチームを編成し、価値創造型の手法・ノウハウをAIで加速させながらクライアントと事業を共創する「デジタル・クリエイティブスタジオ」です。従業員数は約2,080名(グループ全体、2025年12月末時点)、クライアント数550社以上、プロダクト数1000以上、平均支援期間3年という支援実績を持ちます。
同社が新規事業支援において採用する基本プロセスは、事業アイデア策定、ユーザーリサーチ、ターゲット・ペルソナ策定、コンセプト・提供価値策定、体験設計、コンセプト検証、そしてPoC/PoB・MVP開発など次フェーズへ、という7ステップです。BTC連携を行い、売れるか・作れるか・使われるかの三方位を担保しながら「事業を主語にしたデザイン」を実施するアプローチです。
三角氏は「全てがこのプロセスに則っているわけではない」とも補足し、仮説のアイデアが定まっていない場合には、仮説ベースで一旦骨子を作り、それを当てながらブラッシュアップしていく進め方も採用しているといいます。順序やステップの有無にはこだわらず、状況に応じて柔軟にアプローチを組み立てる点が特徴です。
ユーザーインサイトとは何か。他の情報と何が違うのか
ユーザーインサイトとは、世界的デザインファームIDEOが提唱した「ユーザー自身も言語化できていない、無意識の欲求や隠れた行動原理」のことです。インターネットで調べて分かることや、インタビューでの発話そのものはインサイトではありません。
インサイトの抽出・作成は非常に難しく、それが本当にインサイトになっているかどうかの見極めにも長い訓練が必要です。Sun*では、インサイトかどうかを見極める際に、単なる傾向ではなく実感から導かれた本物で信頼できる内容であること(オーセンティックであること)、検索して分かることではなく考え抜いて作り上げるものであること(他人が知らないこと)、そして人が本当に感じていること・考えていることを垣間見せ、聞いて「はっ」とするようなものであること(何かを明らかにしていること)の3点を重視しています。
リサーチ対象についても、エクストリームユーザーも含め、新規事業の機会領域に関わるコアになりそうなエンドユーザーにリサーチを実施し、その分析結果からユーザーインサイトの仮説を抽出、得られたインサイトを元に事業アイデアの具体化やより詳細なサービスコンセプト策定を行います。このユーザーインサイトが不十分だと、後続で行う「問いの策定」(真に対峙すべき問いは何かを定める工程)自体がぶれてしまい、正しい問いを立てられなくなるのです。
「課題解決型」から「あったらいいな型」へ、なぜ転換が必要なのか
Sun*では、ユーザーが現在抱えている悩みや課題を解決するためのアイデアを発散・収束して考えていく「課題解決型」と、ユーザーは現在困っておらず課題もニーズも顕在化していないが、人が「本質的に実は求めているもの」を仮説立てし、探り当てていく「あったらいいな型」という2つの型を定義しています。
従来の「課題解決型」のアプローチによる新規事業開発はすでに飽和状態にあり、これからは「あったらいいな型」で事業開発を行っていく必要があると三角氏はいいます。
実際に「あったらいいな型」で進めた事例として紹介されたのが、日本たばこ産業(JT)のマインドフルネスアプリ「beSelf(ビーセルフ)」です。ビジネス・クリエイティブ・テクノロジーの三位一体(BTC連携)で、リサーチ、サービス設計、開発、ローンチまでをワンストップで支援し、2025年にGood Design Awardを受賞しました。
構想(考えるフェーズ)を要件(作るフェーズ)に落とし込むには何が必要か
ユーザーインサイトドリブンでコンセプトを描いた「考える」フェーズから、UIデザインや要件定義、開発などの「作る」フェーズへ移行する際に陥りがちな失敗の要因は、大きく2点あります。サービスコンセプトや提供価値は定義していたとしても、そこからさらにユーザーのToBe体験がデザインされていないと破綻してしまう「ToBe体験が詰まっていないこと」。そして、要件定義・開発フェーズに入ると技術的なフィジビリティや開発工数の議論がメインになり、機能の仕様が開発イシューに引っ張られすぎてしまう「考えるフェーズで決めた軸を、作るフェーズで顧みなくなること」です。
そのため、コンセプトメイクの段階でターゲット(誰に)、コアとなる提供価値(何を届けるか)、背景となるイシューやインサイトの仮説(なぜ)、それが実現した世界はどのようなものか、どういうステップ・段階でその世界を実現していくか、という5点を言語化しておくことが重要だといいます。開発フェーズに入っても、「考える」フェーズで描いた青写真やロードマップ、届けたい価値や叶えたい世界を何度も思い出し、指針をぶらさないことがポイントです。
SEEDERが語る、なぜ定量データだけでは新規事業のアイデアは生まれないのか
SEEDERの吉冨氏は、例えば「アメリカでお酒を飲む人が減った」といった定量的なトレンドデータをそのままインプットするだけでは、そこから具体的な事業アイデアを導き出すことは難しいといいます。世の中にはたくさんの定量的なトレンド・データがありますが、そこから具体的な施策を立案するための示唆を得ることは難しいのです。
さらに、自社の技術・情報アセットの棚卸しから市場の「負」を探り、マネタイズ余地やTAM/SAM/SOMを検討する一般的な事業者サイド起点のアプローチにも限界があると指摘しました。自社アセット起点では生活者視点が抜け落ちやすく、直接の顧客(流通・企業)と最終的に買う人(生活者)が一致しないBtoBtoCの構造的な盲点により、「技術的には面白いが、誰が買うのか分からない」アイデアが生まれやすくなるためです。
そこでSEEDERが重視するのが、N1(実在する一人の顧客)を深掘りする定性アプローチです。マーケティングの著名な研究者ヤコブ・ニールセンの「調査対象者数を増やすほど、1人当たりから得られる情報は減少する」、正しく行えば1人へのインタビューから多くの情報が得られ、2人目以降は1人目との共通項が多く見つかるとして、SEEDERのトライブリサーチは少なくとも5人、多くても8人程度のデプスインタビューから構成されています。
「トライブ」とは何か。マスユーザーではなく先進的生活者を見る理由
SEEDERは、株式会社SEEDATA(博報堂グループ、2021年に博報堂本体へ吸収合併)に所属していたプランナーがスピンアウトして設立された会社です。同社は「TRIBE driven(トライブ・ドリブン・イノベーション)」を掲げ、今後増えていくであろう考え方や行動を先取りしている先進的消費者のグループ=「トライブ」を独自のアプローチで発見・定義し、未来洞察を行います。国内外100ジャンル超のトライブに加え先進的事例も調査・分析し解釈を加えた、独自の「未来洞察データベース」を保有している点が強みです。
吉冨氏は、トライブが持つ感情を「ニーズ」と「義憤」という2つの軸で対比して説明しました。「〇〇が欲しい」「〇〇が足りていない」という、現状の不足に対する欲望が「ニーズ」であるのに対し、「なぜ〇〇ではないのか」「もっと〇〇であるべきでは」という、隠れた前提に対する憤りが「義憤」です。トライブとは、3〜5年先の未来を示唆する先進的な生活者のことであり、多くの人が現状に満足している中で、現状に満足せずに「もっとこうなったらいいのに」という強い義憤を持っている点が、マスユーザーとの違いだといいます。
顕在化している欲望(ニーズ)を解決するのは既存市場・既存顧客におけるプロダクト改善にとどまりますが、SEEDERが重要だと考えているのは、隠れた前提に対する義憤を捉えることです。これによって、新しい市場・新しい顧客を作りに行くサービスが生まれるます。なお、トライブはそのサービスや商品の直接のターゲットではありません。先進的な生活者であるがゆえに現在のマス市場に対してはボリュームが少なく、彼らが感じているインサイトから将来マスに受ける商品・サービスコンセプトを作り出すプロセスこそが重要だと吉冨氏は強調します。
トライブリサーチはどのように事業機会へつながるのか
吉冨氏が紹介した事例の一つが「ドクターシューマー」というトライブです。SEEDERは2015年の創業当初、完全栄養食品などを活用して効率的に体調管理をする生活者としてこの兆しを発見していました。このリサーチから見えてきたのは、ドクターシューマーが食に無関心なわけではなく、平日の義務的なランチには完全栄養食品を使って時間とコストを節約し、その分節約したリソースを金曜夜や土日の娯楽的な食事に投下するという、「義務的な食事」と「娯楽的な食事」の二極化という行動特性でした。実際に2022年にはベースブレッドがファミリーマートに並び、日清食品の「完全メシ」などのプロダクトの一般化が進んでいます。
もう一つの事例が、2017年当時はまだ少数派だった「ネオノマド」というトライブです。ノマドワーキングをしながら、ビジネスアワーはサウナを使って仕事をし、移動時間は他者に干渉されずクリエイティブなことに使うという行動特性から、寺での座禅体験やデジタルデトックスリトリートといった直近のトレンドにつながるビジネスチャンスを見出したのです。
吉冨氏は「今のトレンドは過去の先進的な生活者の延長にある」とも述べ、近年の「マーラータン」ブームについても、「セルフロールモデリスト」(AIをロールモデルとする美容への価値観を持つα世代)や「ポジティブブルーワーカー」(ホワイトカラーの仕事から充実感を求めてブルーカラーの仕事に転職する中国の若者)といったトライブの延長線上にある動きとして、AIによる効率化が進む一方で実際に体を動かし自分で選択することへの回帰、いわば「AIへの静かなNO(拒否)」という文脈で捉えられるといいます。
トライブを事業アイデアに落とし込むプロセスでは、兆しを単なる示唆で終わらせず、MVP検証によって実証実験を小さく早く回すことが重要だとされています。SEEDERでは、商品・サービス開発の前に顧客開発を行うという考え方のもと、「このサービスをどう思いますか」ではなく「お金を払ってくれますか」と尋ねる形で検証を行っているのです。
顧客起点と未来洞察はどう使い分け、どう補完し合うのか
三角氏は、ユーザーインサイトが重要とされるのはto C向けプロダクトが多く、to Bプロダクト(業務プロダクト)では業務KPIや業務効率の指標に則ることが多いとした上で、「まだ世にないものを作りたい」と明確に要望があるクライアントに対しては、未来ニーズを作りにいくアプローチに全力で振り切ることもあるといいます。
吉冨氏は、to Bの新規事業支援においても未来洞察は重要だとし、to Bの企業はリソースが豊富な一方、新規事業に関するノウハウや、検証を小さく早く回すという考え方が社内に定着しにくいことが多く、「すべてのビジネスはB to B to Cである」という前提のもと、どのような生活者を喜ばせるのかという新規事業の方針を先に定めておくことが、事業がローンチ前に空中分解することを防ぐ土台になるといいます。
また、エクストリームユーザー(極端にニッチな使い方をする人、あるいは全く使わない人)から抽出できるインサイトについて、三角氏は「全員の中に1ミリぐらいはあるものが、100倍くらい増幅されて感じられている人」という捉え方をしていると述べ、吉冨氏もこれに同意し、多様性の時代においてマイノリティの意見が重視される潮流は事業開発においても同様だとしました。
さらに、あったらいいな型のコンセプトが本当に採算性を確保できるかという論点について、吉冨氏は「義憤」という概念こそが潜在的なバーニングニーズの捉え方であり、ヒアリングの中で憤りとも読み取れる感情を感じられるかどうかがプランナーの腕の見せどころだと述べています。AI活用についても、三角氏はユーザーインサイトの抽出やコンセプトの軸を考える部分は人の脳による定性的な観点が欠かせないとしつつ、アイデアの量産・叩き台の作成、発話録の要約・分析整理といった工程ではNotebookLMやChatGPT、Claudeなどを活用し、時短につなげているといいます。
まとめ
単一の発想法だけでは新規事業のアイデアが伸びにくい時代であり、「顧客起点(ユーザーインサイト)」と「未来洞察(トライブ)」という異なるアプローチの組み合わせが有効です。Sun*は、事業アイデア策定からコンセプト検証までをBTC連携で一気通貫支援し、ユーザー自身も言語化できていない「ユーザーインサイト」を軸に、課題解決型からあったらいいな型への転換を進めています。SEEDERは、3〜5年先を示唆する先進的生活者「トライブ」の持つ”義憤”を捉えることで、根拠のある未来ニーズから事業機会をバックキャストする手法を提供しています。to Cでは顧客起点、to Bでは未来起点を新規事業の方針決定の土台とするなど、事業特性に応じた使い分け・補完が重要であり、AIはアイデアの量産や要約・整理といった工程で活用しつつ、インサイトの深さや確信度の見極めは人が担うべきだと両社は共通して考えています。
新規事業やサービスコンセプトの作り方に悩んでいる場合には、株式会社Sun Asterisk、SEEDER株式会社いずれにも相談が可能です。
イベント詳細 / Event Details
| イベント名 | デザイン起点と未来洞察によるサービスコンセプトの作り方 「AI時代に新規事業を前に進める”構想と実装”の新常識」 |
| 開催日時 | 2026年6月10日(水) 11:00〜12:00 |
| 登壇者 | 株式会社Sun Asterisk 三角 由紀乃 UX Designer / Unit Manager SEEDER株式会社 吉冨 剛典 セールス&マーケティング事業本部長 |
| 参考・出典 |
• 概念IDEO「ユーザーインサイト」の定義
• 概念TRIBE driven(トライブ・ドリブン・イノベーション)
• 概念BtoBtoCの構造的な盲点
• WebJT公式サイト「beSelf」2025年度グッドデザイン賞受賞ページ
• 参考ヤコブ・ニールセン「ユーザーテストの必要人数に関する知見」
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| 編集・監修 | Sun Asterisk 編集部 |