新規事業は、ローンチしてからが本当の勝負です。国内大企業の新規事業のうち、ローンチにたどり着くのは45%、単月黒字化できるのは17%、累積損失を解消できるのはわずか7%に留まるという調査結果があります。スタートアップの失敗原因の42〜43%は「PMF(プロダクトマーケットフィット)未達」が占めるという海外調査もあります。ローンチはゴールではなく通過点であり、多くの事業がPMFという次の壁の前で止まっています。
2026年6月25日、Sun Asteriskは「BizDev型CSで実現するPMF ―選ばれ続けるために大切にすべき最初の成功とは―」と題したウェビナーを開催しました。登壇したビジネスデザイナーは、コニカミノルタでナレッジDX SaaS「COCOMITE」を事業責任者としてゼロから立ち上げた経験を持ちます。ARR250%成長という数字の裏で、実際には解約率が20%まで高騰し、その立て直しに1年3ヶ月を要した経験です。本レポートでは、その実体験から見えてきた「初期カスタマーサクセス」の設計論を整理します。
登壇者プロフィール
中村 圭(Kei Nakamura) Business Designer/Creative & Engineering
2003年の大学院修了後、リコーでメカエンジニアとしてキャリアを開始し、複合機開発に従事。その後ビジネスサイドへ転身し、ICT領域で複数の事業開発(BizDev)を経験する。2015年、コニカミノルタの新規事業開発組織に参画し、B2B向けSaaS「COCOMITE」をゼロイチで立ち上げ、2020年からは社内ベンチャー体制でPdM兼事業責任者として牽引した。2026年にSun Asteriskへビジネスデザイナーとして参画し、新規事業開発・戦略策定・サービスリデザインを支援している。
新規事業はローンチ後、わずか7%しか成立しない

PMF(プロダクトマーケットフィット)とは、提供する製品・サービスが顧客の課題に対して十分な価値を発揮し、顧客がそれを継続的に選び続けている状態を指します。アビームコンサルティングの調査によれば、日本の大企業の新規事業のうち、ローンチに到達するのは45%、単月黒字化できるのは17%、累積損失を解消できるのは7%に留まります。また、CB Insightsの調査では、スタートアップの失敗原因のうち42〜43%を「PMF未達」が占めるとされています。
事業フェーズをIdeation・Incubation・Acceleration・Product Market Fit・Growthの5段階で見たとき、多くの事業はAccelerationからProduct Market Fitへ進む「壁」の前で止まります。ローンチはこの壁の手前にある通過点にすぎません。
実体験:ARR250%成長の裏にあった、CS不在の代償

2020年、コニカミノルタでナレッジDX SaaS「COCOMITE」をローンチしました。有償PoCとピボットを経て戦略・品質・事業計画の投資意思決定を取り付け、初年度はGo to Market(GTM)指標とプロダクト品質を重視してスタートしています。事業性指標、GTM指標、プロダクト品質指標には力を入れていた一方で、オンボーディング率や顧客満足度、NPSといったCS(カスタマーサクセス)指標は、見落としではなく「見落としたように」後回しにしてしまっていました。

初年度は受注数計画を達成し、3〜4年目にはARRが250%成長を続けるという、一見順調な軌跡を描きます。しかしその裏側では、CSの施策と体制を薄く始めてしまった結果、2年目に解約率が20%まで高騰しました。すでにローンチしているサービスでは、どこに問題があるのかを特定する作業そのものが長期化します。営業組織の内部では「解約率が高いから、販売を控えた方がいいかもしれない」という声すら出ていました。


対策には1年3ヶ月を要しています。2年目に解約の予兆を検知し、要因分析と導入時の顧客成功支援施策を開始したのを皮切りに、オンボーディングの全顧客への実施やCSマネージャーの採用活動を進め、最終的に解約率は8%まで改善しました。しかし、この長期化が事業に与えた影響は小さくありません。トップラインの伸びが計画を下回る成長率の鈍化、当初計画より黒字転換が遅れるという事態、そして単年度黒字のタイミングを死守するための戦略的投資・支出の抑制という、負の連鎖を招きました。

この経験からの学びは、初めの成功は「量より質」で捉えるべきだということです。入ってきたすべての顧客に対する成功ではなく、狙いを定めた顧客セグメントに対して正しい成功の型を作れるかどうかで、PMFは判定されます。

なぜCSは後回しにされるのか

顧客・PdM(プロダクトマネージャー)・事業開発(BizDev)を頂点とする体制図で見ると、「顧客成功請負人」であるCSは、その中央に位置しながら不在のままローンチを迎えるケースが少なくありません。背景にあるのは、初期予算が限られる中で新規受注とサービス機能開発を優先し、CSへの理解が不足していたという意思決定です。結果として、CSの優先順位は自然と下がっていきます。

ローンチ前後の思考配分を可視化すると、この構造がより明確になります。「売れるか・勝てるか」に40%、「儲かるか」に30%、「次に作るべきは何か」に20%が割かれる一方で、「使い続けてもらえるか」への配分はわずか10%に留まります。受注拡大と次の開発に思考の9割を使った結果、顧客が有益性を感じ続けている状態、つまり使い続けてもらうことの重要性を見落としてしまうのです。
「成長している」と「PMFしている」は別物

ARR250%成長という数字の裏には、「どっちつかず」の構造がありました。プロダクトはエンタープライズ対応も済んでいたため、SMB(中小企業)深耕とエンタープライズ新規の両取りが可能なはずだという仮説のもと、GTMのリード施策をエンタープライズ向けに追加し、セグメントごとにメッセージを最適化しました。しかし結果としてエンタープライズは想定より伸びきらず、SMBも横ばいとなり、ARR2.5倍という数字の裏で「どっちつかず」が積み上がっていました。
ここからの学びは2つあります。1つは、市場変更は顧客・課題・提供価値の変更を意味するということです。セグメントを変えるときは、メッセージの最適化だけでなく、バリュープロポジションの再定義から始める必要があります。もう1つは、選択と集中の欠如です。SMBとエンタープライズに同時にリソースを張ることで、どちらも中途半端になり、型のないスケールは砂上の楼閣になります。事業戦略フレームワークを用いて事業を再定義していれば、チームの判断軸が揃い、ピボットの速度も上がった可能性が高いというのが、振り返りから得た教訓です。

この再定義に役立つフレームワークとして紹介されたのが、Value Design Syntax(VDS)です。サービスコンセプト・競争戦略・収益という3つの要素を、顧客を主語にしたミクロ・マクロの視点、事業を主語にした優位性・仕組み・持続戦略の視点、自社を主語にした収支モデルの視点に分解し、自然言語で言語化していく事業構想フレームワークです。この構文でまとめてみることで、論理の辻褄が合っていない箇所や、本当にそうなのか怪しいエッセンスが見えてきます。効果的なタイミングは、初期構想を探索・検証しながら繰り返している時、ステージゲートなど次のステップへの意思決定を行う前、そして事業戦略の一貫性に迷いを感じた時の3つです。
成長しているという事実と、PMFしているという事実は、混同されがちですが別物です。事業を数字だけで見る立場からは「成長しているのだからPMFしているはず」と映りがちですが、事業をコアで回す現場では、再現性のある顧客への導入・成功体験がまだできていないと感じられていることがあります。何者として、誰に、何を届け続けるのか。この事業定義をアップデートし続けなければ、グロースの加速度は失われます。
解決策:BizDev型カスタマーサクセス立ち上げ支援
初期のCS構築で直面する主な課題は、CSを設計・実行できる人材が身近にいないこと、そして成功の型作りには対話を重ねる時間が必要で、1週間や1ヶ月では終わらないことです。CS人材の育成にも時間がかかるため、対策の実施まで長期化するケースが多く見られます。

Sun Asteriskが提供するBizDev型カスタマーサクセス立ち上げ・実行支援は、CS立ち上げを単なる運用構築タスクではなく、顧客の成功実現に伴走して成功の型作りをし、学びをプロダクトに戻すことでPMFを最短で目指す取り組みと定義しています。3つの原則は、PdM・BizDevと並走して初期顧客と成功の型を作ること、発見したサクセスギャップをPdMへフィードバックし接続すること、そしてPMF以降の顧客成功の仕組みを設計することです。

支援は3ステップで進みます。ローンチ前の1〜2ヶ月では、現状把握と成功の定義・KPI設計、オンボーディング・定着シナリオの設計を行います。ローンチ直後の3〜6ヶ月では、初期顧客のオンボーディングを実行しながら型化し、VoC(顧客の声)を不具合・要望・業務課題に切り分けて優先度をつけ、ヘルススコアやアラートの設計・運用を進めます。その後は3ヶ月周期で、成功・失敗要因をテンプレート化して再現可能な型にする学びの構造化と、VoCから仮説・検証・プロダクト改善へとつなげるロードマップ連携を行います。

対象は、提供価値への渇望が明確な良質な初期顧客5社程度に絞り込み、CSマネージャーとPdMが中心となって進めます。Desirability(提供価値を渇望しているか)、Adoptability(使い始めて定着させられるか)、Sincerity(優先度を高めて成功を一緒に目指せるか)、Loyalty(また選び続けてもらえるか)という4つの要素それぞれに問いと指標を設定し、「この顧客タイプには、この使い方で、この価値が出る」という型を確立していきます。

Sun Asteriskの強みは、ビジネス・テクノロジー・クリエイティブ(BTC)のメンバーを課題に応じてチーム編成し、サービスデザインから引き継いだメンバーによるシームレスな実行支援ができる点にあります。CSをPMF検証の中心に据え、オンボーディングや定例会への同席を通じて顧客のサクセスギャップを特定し、ロータッチ・ハイタッチ・テックタッチを段階的に設計します。UXデザインとCS体験設計を統合し、顧客が自然に成功へ導かれるサービスを構築しながら、VoCを起点にしたプロダクト改善事項の言語化まで担います。
なお、すでにローンチ後スケールしているサービスへの適用も可能ですが、型や投資フェーズがすでに固まっている場合、打ち手が打ちづらくなる可能性があります。現在の提供範囲はB2Bサービスが中心で、テックタッチを重視するB2C向けのCS支援は別ラインナップでの提供が検討されています。特にCSがフィットしやすいのは、SaaSのような継続利用によって価値が積み上がるリカーリング型のビジネスモデルや、プラットフォーム型のビジネスです。
まとめ
初期のCSの型作りでは、オンボーディングを設計し、いつ・誰が・何を達成すれば価値を感じたと言えるのかを、1ヶ月目・2ヶ月目・3ヶ月目と仮説として置きながら、対話を通じて検証していくことが重要です。カスタマーサクセスを検討し始めるタイミングの目安は、ローンチから逆算して半年前から3ヶ月前です。ここで予算を確保できていないと、対策は後手に回り、他の予算からのやりくりや、何かを諦めてCSに充てるといった判断を迫られることになります。
ローンチはゴールではなく、選ばれ続けるための出発点です。Sun Asteriskでは、BTC連携による一貫性ある伴走支援を通じて、初期カスタマーサクセスの立ち上げとPMFの実現を支援しています。自社の新規事業がこの壁に直面している、あるいはこれから直面する可能性があるという方は、ぜひご相談ください。
参照情報
| イベント名 | BizDev型CSで実現するPMF ―選ばれ続けるために大切にすべき最初の成功とは― |
| 開催日時 | 2026年6月25日(木)12:00〜13:00 |
| 開催形式 | オンライン(参加無料) |
| 登壇者 | 株式会社Sun Asterisk 中村 圭 Business Designer |
| 参考・出典 | 当日ウェビナー投影資料、当日の発言内容 |
| 編集 | Sun Asterisk編集部 |