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Sun* AI Talks 第一回「研究者が語る!生成AIの”社会実装”最前線」

更新日: 2026年6月1日

Sun* AI Talks 第一回「研究者が語る!生成AIの”社会実装”最前線」

今回は、Sun*社内で行われたAIに関するトークイベント「Sun*AI Talks」第1回のイベントレポートをお届けします。

かつて論文や特許の世界で技術を磨いてきたAIの研究者たちは今、Sun*のフィールドで「AIの社会実装」にのめり込んでいます。本イベントでは、LLM(大規模言語モデル) の普及がNLP(自然言語処理)にもたらした衝撃から、ハルシネーションを克服するナレッジグラフ(さまざまな知識を体系的に整理し、視覚的に表す手法)の可能性まで議論しました。今まさにAIの実装に取り組んでいる現場の、実際の熱量そのままにお伝えします。


この記事に登場するメンバー

イベント登壇者

新田 清(Kiyoshi Nitta) / Senior Data Scientist

大学院から富士通研究所まで発想系情報学に関わり、ナレッジマネジメントの文脈でグラフデータによる知識表現手法などの研究に取り組む。その後、創薬ベンチャーを経てヤフー株式会社(現LINEヤフー株式会社)でセマンティック・ウェブ基盤技術としてのナレッジグラフの研究開発に従事。2025年8月よりSun*のData and AI組織にジョインし、データサイエンティストとしてAIの社会実装支援に取り組んでいる。

Tran Duc Thang(タン) / Sun*Vietnam Strategic Technology Head 兼 R&D Unit Manager

2013年、慶應義塾大学を卒業後、新卒でSun*に入社。ブリッジSE、DevOpsエンジニアを経て、プロジェクトマネージャー、プロダクトオーナーを歴任。2018年にR&D(研究開発)部署を立ち上げ、マネージャーとしてAIやブロックチェーンなどの先端技術活用を牽引。現在はR&DのマネージャーとしてAIをはじめとする技術開発を推進しつつ、Sun*ベトナム全体の技術戦略を担うStrategic Techの責任者を務める。

モデレーター

西田 衣織(Iori Nishida) / CTOs,  Data and AI Solution Delivery Manager

SIer企業で約5年間システム開発を経験後、2004年からヤフー株式会社に在籍。Yahoo!ツールバー、Yahoo!ボックス、音声アシスト等、多数のコンシューマ向けサービスのプロジェクトマネジャーを経験後、2014年からは本部長としてパーソナルクラウド領域やIoT事業領域を管掌。2019年からアクセンチュア株式会社で大手製造系企業の営業支援DXのコンサルティング業務等を経験。2021年にSun*へ入社し、Enterprise企業のIoTプラットフォームシステム、B2C ECシステム、B2B ECシステム、AIプラットフォームなどの開発マネジメント支援を行う。特許出願28件(対話システム、ストレージシステムなど)。


「理屈より、まず動くものを」研究者が研究室を飛び出した理由

最初のテーマは「なぜ今、研究者がAIの社会実装に向かうのか」。 私たちは今、AIが実業務に入り込んでいく、大きな変化の中にいます。AIの利用はこれまでPoC(概念実証)で止まることも多くありましたが、実際に業務に組み込まれ、成果が出始めるフェーズに入ってきています。

西田: 現在、多くの研究者が「社会実装」へと舵を切っています。Sun*でも「AIが単なる技術ではなく、ワークフローの一部としてどう効果があるか」を重視しており、 昨年からR&Dチームと連携して多くのエンジニアがAI案件に参加するようになりました。新田さんは長年、企業研究者として論文や特許取得に携わってきましたが、なぜ今、Sun*で実装の現場に身を置こうと考えたのでしょうか?

新田: 一言で言えば「LLMの普及」に尽きます。長く関わりのあった自然言語処理はAIの周辺領域として以前からありましたが、ChatGPTが登場し、LLMが実際に使えるサービスとして世の中に出てきたとき、すごく心を動かされました。これまで見てきたどの技術よりも衝撃を受けて、「これがあれば、研究として理屈を考えるよりも先に、実際に動くものを作り、すぐに使えるところまで持っていけるはずだ」と肌で感じたんです。その想いが結果的に、転職というアクションにも繋がりましたが、同じようにLLMに衝撃を受けた研究者は世の中に多いんじゃないかと思います。

西田: タンさんは長年ベトナムで研究をされてきたと思いますが、LLM登場による、研究者の社会実装に対する熱量は変化したと感じていますか? 

タン: 私も新田さんとほぼ同じです。「研究だけでは足りない」と強く感じたのは、2年半から3年ほど前に、ChatGPTやGPT-4が出てきたときです。 特にGPT-4oが出たときは、それまでの言語や、テキストを扱うモデルを超えて、「聞く」「話す」「画像を見る」といったことが、大規模言語モデルで実現できるようになりました。

もうひとつの転換点は、大規模言語モデルを作るために必要な、コンピューティングパワーに関する莫大なレポートを読んだときです。OpenAIやMetaが数千万ドルから数十億ドル規模でGPUやデータセンターに投資すると聞き、AI研究が「これまでの基礎科学」とは違うフェーズに入ったと感じました。 

一般的に、基礎研究は大学や研究所で行われ、そこから発明が生まれます。でも今の時代、OpenAIに勝てるようなモデルはどこの大学でも作れず、大企業しかできない領域になってしまった。 それまでのAI基礎研究は「アルゴリズムの最適化」といった小さなテーマを深掘りするものでしたが、LLMはあらゆる分野にまたがる汎用性を持っています。それならば、モデルそのものを作る道で競うのではなく、「これだけ強いものを使って何ができるか」という応用研究にこそ可能性がある。私たちのAIチームもそこに気づいて、実務にどう価値を提供できるかという、社会実装の研究を始めました。

西田: たしかに、研究したくてもコンピューティングパワーがないとできない、という話は以前からありましたね。

新田: タンさんの言う通り、大企業にしか作れないサービスというのはありますよね。ただ、LLMがAPIとしてサービス化されて世に出てしまえば、モデルそのものを作る必要はなく、応用へのハードルはむしろ下がります。 おっしゃる通り、かつてのパーセプトロン(脳の神経細胞であるニューロンの仕組みを模した数理モデル)や小規模なネットワークで何ができるかを試行錯誤していた頃とは、規模も能力も桁違いで革命的ですよね。大企業による活動のおかげで多くの人がサービスを使えるようになった、この社会の変化が、様々な場面で社会をどう変えるかというモチベーションに直結しているのだと感じます。  

職人技を超えたLLMの衝撃――NLPの役割はどう変わったのか?

グラフデータによる知識表現の経験を30年以上持つ、データサイエンティストの新田

 

西田: LLMは自然言語処理(NLP)の現場にどんな技術的なインパクトを与えたのでしょうか。モデルの精度を上げるだけでなく、システムとしての基盤をどう作り、どう回していくか。この自然言語処理に関する技術的な転換点について、研究者目線でどう感じていますか? 

タン: Sun*ベトナムでは日本でいう「Qiita」のようなITエンジニア向けサービス「Viblo」を自社で開発していて、この自然言語処理の問題を解決するために、生成AIブームの前からAIチームを立ち上げていました。 記事の要約や自動タグ付け、コメントのフィルタリング、分類など、5〜6個のモデルをほぼゼロから作って運用していたんです。ですが、ChatGPTが出てきたときに「これまで多くの工数と時間をかけて作ってきたモデルが、GPTのAPIを叩くだけで解決できるようになった」と気づいて衝撃を受けました。

実際にゼロからモデルを作る必要はなくなっています。例えば、現在では会議録音の分析や要約、コンテンツ翻訳など多くのNLP課題を扱っていますが、そのほとんどがClaudeやGPTなど、商用モデルのAPIで解決できます。私たちR&Dとしての研究は「モデルをゼロから作る」ことから、「モデルの仕組みを深く理解した上で、いかにうまく使いこなすか」にシフトしました。 

新田: NLP研究者へのLLMの影響はものすごく大きいと思います。伝統的な自然言語処理といえば、形態素解析(自然言語の文字列を意味を持つ最小単位へ分割し、品詞を特定する技術)をルールベースで行って、統計的な手法を組み合わせて、正確な構文ツリーを作って、それを基に翻訳とかのアプリケーションにつなげて……と、職人的な人たちが工夫を凝らしてきました。それでも、なかなか数値が上がらない状況で競い合っていたんです。 それがLLMを使うと、過去のスコアをいとも簡単に超えてしまった。これまでやってきたことの価値を考え直さざるを得ないくらいの衝撃だったと思うんです。

ただ、伝統的な技術が全く不要になったわけではありません。LLMは実行コストがかかりますし、大量のテキストを処理するときに、何でもかんでもLLMで処理すれば良いという話でもないと思うんです。例えば、限られた目的に特化した処理を行う場面では、これまでの技術の方が適している場合もあると思います。

とはいえ、LLM自体がコーディング能力やシステム開発能力、さらに研究そのものを加速させる能力を持っているので、長い目で見ると、これらの領域全体をLLMが再構成していくんだろうなという印象を持っています

西田: LLMで適さないところがあるとしたら何だろう、という興味が湧きますね。ベトナムで、LLMを使わない事例はありますか?

タン:GPTモデルではいろいろなことができますが、何でもできるわけではありません。例えば専門性の高い分野や、学習データに含まれていない領域では、自分でデータを収集してモデルを作ったりファインチューニングしたりする必要があるかもしれない。また、活用する際に処理時間が長くなることもあるので、そういう場合は自分で専用モデルを作った方が良いかもしれません。

 補足すると、「Viblo」では、記事のスパム検知や自動生成などに元々使っていたモデルを、全てGPTに変えたんです。変えることでコストがかかるのではと思うかもしれませんが、実際にはコストは抑えられています。なぜかというと、モデルを3~4個作って運用すると、それを動かすためのインフラコストが発生しますが、これをGPTに変えることで運用の必要がなくなり、予算を節約することができるからです。3年前と比べたら信じられないくらい安くなっているので、良いものを選択すれば、サービス側のコストを抑えながらAIを活用できます

「いかに早く、正しいコンテキストをAIに与えるか」ハルシネーションを飼いならすためのナレッジグラフ

ベトナムのAIチームを立ち上げ、現在もR&D組織を率いるタン(ベトナムオフィスで撮影)

 

LLMは確率的な生成モデルなので、どうしても「ハルシネーション(もっともらしい嘘)」が起きるリスクがあります。一方で、社会実装を行う上で、高い正確性が求められる特定の業界や用途では、間違った答えは許されません。 この問題にどのようにアプローチしているのかを掘り下げました。

西田: Sun*では、LLMとナレッジグラフ(知識を体系的に整理し、視覚的に表す手法)を組み合わせる取り組みに力を入れていますよね。ナレッジグラフで構造化されたデータとLLMをどう組み合わせているのでしょうか。

新田: ナレッジグラフは、RAG(検索拡張生成:LLMに外部知識を組み合わせて回答させる手法)やLLMで知識を扱う際の「背景となる知識のデータ構造」として使います。知識を持たせる方法はテキストデータのまま持つもの/こともあれば、リレーショナルデータベース(RDB)の中に整理しているもの/こともあります。

ナレッジグラフには、数十年前のエキスパートシステム(専門家の知識を『もしAならB』といったルールの形で書き起こし、コンピューターに推論させる初期のAI)の時代から「人の知識をシンボリック(記号的)な形で表現する」という技術の積み重ねがあります。表現形態はテキストでもRDBでもできますが、特にシンボリックなAI(ニューラルネットワークのように数値で学習させるのではなく、記号やルールで知識を扱うアプローチ)の領域では、推論やルールの検証にナレッジグラフが使えます。例えば、LLMをエージェントとして使う際、LLMの内部でどう思考が進んでいるかという過程は不透明になりがちです。これをナレッジグラフというひとつの形式に統一して外に出せれば、外部のツールを使って「おかしな推論をしていないか」「ルールに従っているか」を逐次チェックできる可能性があります。 現時点では、ナレッジグラフそのものをチェックに使うことはないかもしれませんが、今後ハルシネーションを抑制する必要のあるアプリなどを作る際には、ナレッジグラフを活用できる可能性があると考えています。

RAGの観点でも興味深い違いがあります。ベクトルRAGは応答の遅延が小さく、実装も容易で、すでに広く普及しています。一方グラフRAGは、知識同士の関係をたどってコンテキスト(文脈)を取り出すぶんノイズが入りにくく、より抽象度の高い粒度で必要な情報を集められます。ここに、目的によっては大きな可能性があると感じています。 

タン: 最近ナレッジグラフが注目されているのは、RAGのアプリケーションを作る際の「精度向上」のためですね。 ナレッジグラフとLLMの相性が良い点としては、ナレッジグラフがRAGの性能を良くするために活用できること。またナレッジグラフを作るときも、以前は手作業も多くて非常に大変でしたが、今はLLMを使って記事やファイルから自動的に抽出して構築できるようになりました。構築が簡単になったことで、活用の幅が広がっています。 

R&Dでは今、ナレッジグラフを簡単に構築できるサービスとして「ナレッジグラフ・アズ・ア・サービス(KGaaS)」のようなものを開発して社内に提供しています。ファイルをアップロードするだけで自動的にナレッジグラフが作られ、AIエージェントがそこから検索して作業を進められるようになります。RAGに限らず、AIが進化するなかで「いかに早く、正しいコンテキストをLLMに適用できるか」が非常に重要になっています。みなさんも、ナレッジグラフの深い理論まで理解しなくてもいいですが、「RAGやエージェントを動かすときに、どう活用すればいいか」という感覚を持っておくと、これからのAI活用がもっとうまくいくと思います。 

西田: 簡単に使えるサービスの提供、いいですね。ぜひ体験してみたいです。

AIプロジェクトがPoCで止まらないために―壁を突破するのは精度ではなく「ビジネスへの解像度」

前職も含め、AIを活用したサービスを数多く世の中に送り出してきた西田(モデレーター)

 

西田: これまでは多くのAIプロジェクトがPoC(概念実証)で止まってしまうという課題がありましたが、プロジェクトが止まってしまう理由や、これを突破するためにどんなことが必要か、研究者目線でお伺いしたいです。まずは数々のPoCを経験してきたタンさん、いかがでしょうか?

タン:PoCで止まるかどうかは、「AIの精度の不足」ではなく、「ユースケースが正しいか」「ユーザーが本当に必要とするものか」ということがとても大事です。研究者も、以前のように精度だけを追うのではなく「ユーザーがいつ、どう使うか」「どのくらい工数を削減できるか」「どんな価値があるか」 というビジネス視点を持つことが、以前よりずっと大事になっています。

西田: なるほど。精度を研究者のせいにしていた時代は終わったのかもしれないですね(笑)

新田:研究者だった立場からすると、技術に集中するあまり、ビジネスサイドのニーズを受け止めきれないことがあります。どんなにうまくやったとしても、提供できるものともともと求められているもののイメージに、ズレがあるんです。 ただ、これからは楽観的に見ています。コーディングエージェントやデスクトップを操作するAIなどが出てきて、よりメタ的な部分をAIが手伝ってくれる。ビジネスサイドのニーズを一番理解している人が、直接プロトタイプを作ったり、実現に関わったりできるようになってきています。モチベーションを一番持っている人が担うことで、成功率は上がっていくはずです。 

西田: まさに新田さんのように、研究者が現場に飛び込んでいくことで成功率も上がるかもしれないですね。 

すべてのアプリがAIになる未来、熱意を持ってAIと伴走していきたい

西田: 今日は、社会の変化、技術の変革、ナレッジグラフ、そしてPoCの課題についてお話しいただきました。 最後にお二人から、AIをブームで終わらせないために大事にしたいことを一言ずつお願いします。

タン: AIは今後、あらゆる業務のインフラになると思います。15〜20年前にクラウドサービスが登場し、「全てのアプリはクラウドになる」と言われて世間を驚かせたのと同じで、数年後には全てのアプリがAIアプリケーションになるはずです。 「自分の作っているものに、どうAIを組み込めばユーザーに喜んでもらえるか」を常に考え、新しい提案をし続けること。こういう姿勢を大事にしながら、AIの可能性を一緒に考えていきましょう。

新田: 一番大事だと思うのは、シンプルに「熱意」だと思います。AIに対する興味や好奇心があれば、「どう使えば価値が出るか」は自然と考えるようになると思うんです。Sun*に熱い方が多いので、その熱さをAIに対しても持ち続けてほしいですし、私自身もそこを大事にしていきたいです。

西田: ありがとうございました!


この記事に興味をお持ちいただいた方、またAIの社会実装を手掛けたい、という方は、Sun*の採用サイトもぜひご覧ください。

https://sun-asterisk.com/recruitment

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