イベントレポート

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モノタロウとココカラファインで物流を支える
キーパーソン2人が語る「物流DX改革」の最前線

「サプライチェーンの効率化を実現する『業界最大手企業のロジスティクス戦略』」をテーマに実施されたオンラインセミナーから

Sun*(サンアスタリスク)では、「物流DX改革」をキーワードにしたオンラインセミナーを定期的に開催しています。ここでは、モノタロウとココカラファインの物流業務を支える吉野宏樹氏と畑農恒介氏を招いて2020年10月13日(火)に実施したオンラインセミナーの内容を抜粋して紹介します。


深作:きょう参加していただいたMonotaRO(以下、モノタロウ)の吉野さん、ココカラファインの畑農さんともに物流現場の業務改革を手がけてきた方ですので、「業務改革における仕組み化」、「システムの活用」といった現場寄りの意見をいただくことでテーマの「物流DX」に沿った独自の内容のセミナーになると思います。

ではモノタロウの吉野さんから事業内容と物流の現場で取り組んでいる現状と将来性についてご紹介ください。

顧客数500万超、1,500億円の売上を牽引するモノタロウの物流DXの取り組み


吉野:まず私たちの事業内容ですが、インターネットを通して製造業、自動車整備業、建設・工事業といったお客さまを中心に現場で使われる間接資材を販売しています。1,800万点を超える品ぞろえと価格訴求力が特徴で、「お客さまの購買業務を省力化する」というのが最大の特徴です。


2012年までは取り扱い商品数が約200万点だったんですが、2013年に約500万点、翌2014年は約800万点へと増やしていって事業とサービスの拡充に取り組んでいます。2020年12月時点で、顧客数は個人を含めて500万超、売り上げ規模は約1,500億円を予測しています。


「物流DX」への取り組みですが、「デジタイゼーション」から「デジタライゼーション」へのプロセス(※1)で「業務のシステム化」と「RPA導入」、そして「デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)」へのプロセスでは「パーソナライズされた顧客体験」、「出荷、配送における最適化」を進めています。


こうしたDXへの取り組みの一例として、商品検索でのユーザー体験の向上について紹介したいと思います。たとえば「手袋」というワードで検索した場合、医療業界のユーザーにとって手袋は「薄手のもの」、製造業界のユーザーにとっては「厚手のもの」を探していらっしゃいます。

顧客データを活用して、業種ごとに検索結果が最適化できるよう取り組んでいます。また「戸当たり用のクッション」という透明な商品があるんですが、商品マスターにはない「涙目」という業界特有のキーワードでも検索可能にするなどの工夫をしています。

1345店舗の物流ネットワークで9箇所のTC型のセンターを設けるココカラファインの取り組み

深作:では次に、ココカラファインの事業内容と「物流DX」への取り組みについて畑農さんお願いします。


畑農:ココカラファインはドラッグストアと調剤が主力事業で、介護・訪問介護のグループ会社もあります。2020年3月現在で全国に1,345店舗を有している物流ネットワークに関しては、東日本エリアに5か所、西日本に4か所で全国9か所にTC(トランスファーセンター)型の物流センターを設けています。小売業ですので、店舗に近いロケーションに物流センターを設けているのが大きな特徴です。





この9か所のうち埼玉・所沢市のみ自社運営でほかは他社に委託しているのが現状ですが、今後は自社運営センターを増やしていく予定です。

「物流DX」への取り組みですが、先ほど吉野さんから紹介のあったフェーズで言いますと「デジタイゼーション」と「デジタライゼーション」のプロセスにあって、業界全体での流通BMS(ビジネスメッセージ標準)の活用、店舗へのタブレット型POSレジ導入、発注・在庫管理用アプリを活用する端末の導入などを進めている段階です。

アウトソーシングが主体だった物流拠点の“自社運営化”を進めるメリット


深作:ではここからは、視聴ユーザーからの質問を含めたトークセッションに移っていきたいと思います。DC(ディストリビューションセンター)、TC(トランスファーセンター)がもつ機能と役割をふくめた物流拠点の配置についてご紹介ください。まず、ココカラファインの畑農さんから。


畑農:ドラッグストアの場合は店舗の運営がメインになりますから、店舗に配送するリードタイムが短ければ短いほどいいということになります。この店舗のニーズにこたえるにあたって、DC型であってもTC型であっても店舗からはなれることができないという制約があります。


深作:具体的に、「○○日以内」で届けられそうという指標はあるんですか?


畑農:2日以内ですね。


深作:吉野さんのモノタロウの場合、拠点のタイプと配置について方針のようなものはあるんですか?


吉野:DC型については、在庫を有しているサービスレベルとして午後3時までにご注文いただいたものを翌日までにお届けするようにしています。


深作:先ほど50万点の在庫を有しているという紹介がありましたが、在庫に対する売り上げの構成比を教えていただけますか?


吉野:在庫のある商品が、約7割の売り上げを占めています。残りの約3割が在庫以外になりますが、その約2割がDCやTCを通過していく商品という割合ですね。残り1割が「長尺もの」など、サプライヤーなどから直送されるものになります。


深作:先ほどモノタロウの吉野さんから自社運営の物流拠点へのこだわりについて説明がありましたが、ココカラファインでも今後、自社運営の物流拠点を増やしていきたいという説明がありました。その理由について教えてください。


畑農:店舗は自社の社員およびパートなどのスタッフで運営されていて、本社機能とのあいだに位置する物流センターが他社への委託が中心だったので“ブラックボックス化”しているという課題がありました。その、把握できていない部分を解消して最適化していこうという目的で中核になる物流拠点を自社運営にしていこうとしています。





深作:自社運営を進めるにあたって、人材の教育・育成についてはどうしていますか?


畑農:物流拠点の自社運営化をミッションとして、わたしがココカラファインへ入社したのが2019年です。当時、組織のメンバーは過去に店長だった人、バイヤーだった人、薬剤師など多様でしたが、物流に関しては未経験の方ばかりでした。


そこから私の物流に関する知識や技術を伝えて、一緒に経験してスタッフのスキルを生かしていくよう進めました。とはいっても物流に特化した人材も必要ですから、新たに採用したり自社運営の物流拠点では内部で育成して昇格させる取り組みも進めています。


吉野:通販業界では一般的に、売上高に物流が占めるコストは約12パーセントでその約半分が運賃で残りが人件費、資材費、減価償却費と言われています。モノタロウでもほぼ同じ比率ですが、物流拠点を自社運営化していく取り組みを進めていくことで、拠点によってアウトソーシングが必要なときにもどうコントロールしていくべきなのかという“要諦”がつかみやすいメリットがあると思っています。

モノタロウとココカラファインに共通する「物流DX」が解決する物流現場の課題


深作:いま視聴者の方から「配送リソースの不足という課題をDXでどう解決していくか」という質問がきているので、まずココカラファインの取り組みについて教えてください。


畑農:当社の場合、先ほども紹介した店舗までの距離に応じて物流センターを設けるドミナント戦略を進めています。基本的にはルートが決まっているので、物量が多い場合には配送を2回にするなど増車することが少ないよう工夫しています。


吉野:モノタロウでは、地域ごとに委託する事業者を選ぶという方法と、今後の取り組みになりますが「モノタロウ専用便」で配送できるようなルートを検討していきたいと思っています。


深作:モノタロウの場合、「物流センターのネットワーク化」を進めようとしていらっしゃるとうかがいました。少しくわしく教えていただけますか?


吉野:吉野:これまでのように1拠点で大量のオーダーをさばく物流設備であったり配送サービスは徐々にそれを拡張させるのが難しくなりつつあると考えています。他社さんでも複数の一定規模の物流センターと消費者の集積地との間に拠点を構えて、リードタイムの短縮や複数のセンターから発送された商品を荷合わせする機能を備えるケースがあるようですが、モノタロウでも仕入先からお客様までのサプライチェーン全体を最適化する目的で、仕入先の物流拠点、自社の大規模拠点、需要地近くの小規模拠点を活用したネットワークづくりを目指していきます。



深作:畑農さんはこの構想についてどう思われますか?


畑農:基本的には、顧客の要求に応じて近いロケーションに設けていくのが基本ですので物流技術という点でも興味があります。





深作:ここからは、あらかじめ用意したテーマでお2人に話していただきたいんですが、まず「大企業ならではのDXの課題をどう乗り越えたのか?」です。いかがでしょう。


吉野:乗り越えたということはなく今も課題として取組んでいますが、私たちもともと定量的に数字で物事を判断していく社風があります。最近でもデータ基盤をGCP上のBigQueryに据えたことで、全社的にデータ活用が進みました。社内にはデータサイエンスチームもあり、様々なデータを使ってサイトの検索やレコメンドの最適化を行うという流れが自然にできました。そのためそれまでAWSに配置していたアプリケーション群もリアーキテクトしながら構築を続けています。マーケティング観点ではCX(顧客体験)向上が重要で、そのためにはよりリアルタイムに近い情報をできるだけパーソナライズ化した形でお客様に提示するのが次の課題となります。


畑農:システムへの投資、物流への投資でも「経営層がIT投資に前向きかどうか」にかかっていると思います。経営層が物流という業務で、他社との差別化といったマインドをもっているかどうかにかかっていますね。


深作:とは言っても、経営層の方であまり前向きではない方もいらっしゃいます(笑)。「物流DX」提案の参考に、経営層の方の意識が変わったという具体例はありますか?


畑農:やはり具体的な「成果」が出た場合ですね。IT投資をして、必ずしも信用していなかった方でも予想以上の結果が出るとさらに投資していくというケースはありましたね。

物流倉庫と輸配送システムをつなぐ「物流DX改革」が、将来の物流現場を変える


深作:では次のテーマですが、「物流倉庫における次の自動化とは?」です。


吉野:私どもの「入荷」から「出荷」までのプロセスには「検品」、「棚入」、「棚卸」、「リロケーション」、「ピッキング」、「梱包」があります。このうち「棚入」と「ピッキング」、「梱包」の業務で自動化が進んでいます。物流センター全体でみると、すべての業務のうち約60パーセントが「出荷」業務に費やされていて約30パーセントが「入荷」業務、残り約10パーセントが「在庫管理」業務です。


このうち約60パーセントの「出荷」業務についてはおおむね自動化が進んでいて、次の課題となっているのが約30パーセントを占めている「入荷」業務の自動化ですね。


畑農:当社は小売業ですので、上流ほどケース在庫やパレット在庫が増える傾向があります。この在庫をピッキングして“バラ在庫”にしていく業務を自動化できる機械や機器の開発に期待しています。





深作:最後は、倉庫管理システム(WMS)、倉庫労務管理(WLM)などをふくめた「庫内側」と輸配送管理システム(TMS)やバース管理などをふくめた「輸配送側」のどちらからDX化を進めるべきかというテーマです。


吉野:なかなかDX化がむずかしいところですが、当社の顧客は中小企業が多くコロナ禍という状況でもありますので「置き配」へのニーズが高く要望もいただいています。お客さまのニーズをデータ化して管理・運用していくことで、サービスの付加価値を高めていく課題へも取り組んでいく必要があると考えています。


畑農:物流業界全体で考えると、このテーマの「庫内側」と「輸配送側」とをデジタル化によってつなぐ仕組みはまだないように思います。物流センターでの「滞積(たいせき)情報」と届け先の情報とを連携させて、ムダのない輸配送が実現できるようなDXには期待しています。


吉野:米アマゾンではすでに「予測的な配送システム」を導入していると聞いています。お客さまがオーダーされるであろう商品を予測して、近くの拠点まであらかじめ届けておくという取り組みです。こうした購買データ、実績データを活用した取り組みはまさに「物流DX」と言えそうですね。


深作:吉野さん、畑農さん、興味深いお話をありがとうございました。視聴者のみなさんもありがとうございました。


Sun*(サンアスタリスク)では、ホームロジのDX推進や採用支援をはじめ、ココカラファインが導入する物流テックサービスの開発支援など、物流業界全体のDX推進をサポートしています。

登壇企業・登壇者

深作 康太 氏
株式会社ホームロジスティクス

CIO


株式会社ネバーマイル

代表取締役 CEO
http://nevermile.co.jp/


近鉄エクスプレスのシステム部門、フューチャーアーキテクトでの物流分野を経て2012年にホームロジスティスクのCIOに就任。ニトリグループの物流領域における全面デジタル化、オートメーション化のプロジェクトなどを推進。2020年、ネバーマイル設立とともに現職

畑農 恒介 氏
株式会社ココカラファイン フリュアヴァンス

代表取締役社長


株式会社ココカラファイン IT・物流開発部

物流運営チーム マネジャー


トヨタ生産方式をベースとした物流センターの現場で工程管理、センターマネジメントなどを経て2005年、シーオスに入社。多彩な業種のロジスティクス領域における物流業務の受託、コンサルティングなどを手がける。2019年に現職に就き、物流拠点の自社運営化や物流業務の改善、グループ内での人材育成などに従事している

吉野 宏樹 氏
株式会社MonotaRO

執行役物流部門長


大手出版取次、総合商社系コンサルティングファーム、大手Eコマース企業を経て、MonotaRO入社。尼崎物流センターおよび笠間物流センターの立ち上げ、現場に即した庫内オペレーションの設計を進めるとともに業界最先端のマテハン機器導入などを手がける。2014年6月から現職

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