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「まだ世にないもの」をどう創るか。JTが挑んだ「Purposeの具現化」と、AI×デザインで創るマインドフルネスの未来

「まだ世にないもの」をどう創るか。JTが挑んだ「Purposeの具現化」と、AI×デザインで創るマインドフルネスの未来
UI/UXデザインサービスデザインユーザーリサーチ
業界: クライアントインタビュー 健康・医療

開発支援事例:日本たばこ産業株式会社

「これまでにない体験を創りたい」。Group Purposeを手触りのあるデジタルプロダクトに宿すまで

日本たばこ産業株式会社(JT)は2023年2月に「心の豊かさを、もっと。」というJT Group Purposeを発表しました。「心の豊かさ」はこれまでもJTグループが商品を通じて提供してきた中核的な価値領域であり、Purpose実現に向けた取り組みの一環として、お客様一人ひとりの心の豊かさにつながる体験をお届けすることを目指したデジタルプラットフォーム「Momentia(モーメンティア)」を公開しました。Sun*は、Momentia(モーメンティア)が提供するメンタルケアサポートアプリ『beSelf(ビーセルフ)』の立ち上げにあたり、ビジネス・クリエイティブ・テックが融合した三位一体のチームを編成しました。

AIを活用したコンセプト策定から高度な技術実装まで一気通貫で伴走し、現在(2026年5月時点)では30万ダウンロードを突破、さらには2025年度グッドデザイン賞を受賞するという快挙を成し遂げました。今回は、JTの田中様と、プロジェクトに参画したSun*の加藤、三角、定由の4名による座談会を通じ、プロダクトを生み出した「ワンチーム」の軌跡に迫ります。

アプリ概要:“こころのケアをもっと手軽に。”毎日のメンタルケアを簡単サポート


『beSelf(ビーセルフ)』は、忙しい日常の中でどなたでも手軽に、自分自身と向き合い心身の健康を整えることができるメンタルケアサポートアプリです。マインドフルネスから着想を得た独自の機能で構成されるメンタルケアサイクルやユーザーが直観的に操作できるUI/UXで、ユーザーに「本当の自分」と向き合う機会と新たな発見を提供しています。

クライアントの課題:サービスコンセプトの具体化と未経験市場への挑戦

JTは、どんなに時代が変化しても、今ここにある何気ない瞬間の喜びや心の豊かさを大切に考えています。その指針をデジタルプロダクトに落とし込むため、「サービスバリューから開発まで一気通貫して並走できる」、「新規サービス開発時の品質とスピードが両立できる」、「我々のPurposeに共感し、不確実な道のりをも共に歩み、挑戦できる」という点からSun*をサービス開発パートナーとして選定しました。

Sun*のソリューション:AI*deation × VDS、人間とAIの共創で導き出した最適解

 

Sun*は、ビジネスデザイナーとUXデザイナーが初期段階から参画し、独自の事業構想フレームワーク「VDS(VALUE DESIGN SYNTAX)」と「AI*deation」を活用しました。 300以上のアイデアを高速で発散・構造化し、人間だけでは偏りがちな思考の枠をAIによって広げることで、現代社会で心にそっと寄り添う「マインドフルネス」という確固たるコンセプトへ最短距離で到達。さらにコンセプトを即座にプロトタイピングし、プロダクトの「手触り」を検証しながら議論の場に提示し続けることで、クライアントの確信を強め、迅速な意思決定を後押ししました。

 

クライアントインタビュー

抽象的な「ひと休みの定義」から始まる、正解のないコンセプトメイク

── はじめに、『beSelf』のコンセプトはどのように固まっていったのでしょうか。

JT 田中様:当初は「心の豊かさ」を軸に、「消極的余暇時間の解消」をコアバリューとして模索するところからスタートしました。そこから、多忙な現代人に向けた、短時間でできる「ひと休み×マインドフルネス」というテーマへと進化。このタイミングでSun*に参画していただき、市場、ユーザー、および競合の調査を高速で回しながら、プロダクトの輪郭を固めていきました。

日本たばこ産業株式会社 (経営企画部) 田中 亮達 様

三角:まず「ひと休みの定義とは何か」というところから我々のディスカッションが始まりました。10人以上のユーザーに「自分がひと休みできたと実感できた瞬間はいつか」「そもそもどういう時にストレスを感じるか」などを細かくヒアリングし、ものすごい量の付箋をグルーピングして分析したのが最初のアクションでした。

加藤:コンセプト策定では、Sun*グループ独自の事業構想フレームワークである「VDS」を活用しました。プロジェクトキックオフ時に、JT様のデジタルプラットフォーム「Momentia」構想や今回のサービスの与件について詳細をお伺いしました。そこで「誰のどんな課題に対して、どんな価値と手法で提供するか」というコンセプト部分の議論に徹底的にフォーカスして良いと決められたのが良かったです。

 

── マインドフルネスというテーマを、日本市場にどう適応させていったのですか?

JT 田中様:欧米では広く浸透しているマインドフルネスですが、日本国内ではまだ定着の途上と考えていました。そこでメンタルケア体験だけでなく、サービス利用の副次的価値として「体験の連続性とユーザー本人に対する永続的な価値が創出されていくこと」を何より大切にしました。その瞬間を見つめ直すだけでなく、体験が将来の価値になり、自分の生活から今後の活用要素が見えてくるようなサービスコンセプトと機能群にこだわりました。

加藤:マインドフルネスという広いテーマからサービスの骨格を絞るために、最初にマインドフルネスやウェルビーイングの定義を押さえにいきました。結果として、「フィジカル ↔ メンタル」というケア対象軸と、「マイナスからゼロ ↔ ゼロからプラス」という価値作用軸で整理しました。国ごとのニーズ傾向を調査することで、日本において、マインドフルネスのどの領域を押さえるべきか、サービスとしての重心をどこに置くべきか、見つけることができました。

三角:そのなかで見えてきたのが、「日本人にマインドフルネスの概念をそのまま伝えても、スピリチュアルだとネガティブに捉えられがち」ということでした。スピリチュアルのなかにもあらゆる要素がありますが、正確には「宗教味」を感じると日本人は過去の歴史的にも忌避感を感じがちである、という傾向です。アメリカなど海外のように宗教観が身近な国とは異なり、日本では入り方を間違えると厳しいサービスになってしまいます。そのため、世界観を日本人向けにチューニングしていく必要がありました。

加藤:JT様のプラットフォーム構想や今回のサービスの目的を踏まえると、性別を問わず幅広い世代の方々に利用いただけることが重要でした。ビジネス観点で言えば、一定規模のユーザー層にアプローチできる設計が求められていました。

スライダーで決めた「人格」と、ひらがなに込めた「圧をなくす」デザイン

── その独自の世界観を、どのようにデザインに落とし込んでいったのでしょうか。

三角:当時は、まだアプリ名もまだ決まっていなかったのですが、サービスの性格として「寄り添い」なのか「アドバイス」なのかといったさまざまな項目を5段階くらいのスライダーで策定しました。冷たいか温かいかなど両極端な方向を並べて、田中さんにも「自分はこの辺だと思う」とスライダーを動かしていただき、サービスのベクトルをすり合わせていきました。


JT 田中様:アプリを通して自分自身と向き合う時間を体験する中で、日々変化する心の「ゆらぎ」を大切にしてほしい。だからこそUIデザインにおいては、プロダクトが持つやさしさや温かみを表現しつつ、心や感情の「ゆらぎ」を肯定するような、緩やかな波形を基調としたビジュアルで表現するようお願いしました。

定由:アプリ上のグラフ波形をより「ゆらぎ」を感じるデザインするだけでなく、グラデーションによる色の移り変わりで形を表現したり、丸みを帯びたデザインにしました。ちょっとした光の当たり方一つとっても、形式的(機械的)になりすぎないよう繊細に調整を重ね、ユーザーのみなさまに愛着を感じていただけるようなデザインを模索しました。

※本資料は開発段階当時のものです。

 

JT 田中様:その他の例ですと、主要機能として「こころの記録」や「からだの記録」があるのですが、あえて「心」や「体」という漢字を使わず、ひらがなにしました。継続的に使っていただくにあたり、言葉遣いやデザインから、ユーザーが感じる「圧(心理的負担)」を徹底的に排除する設計思想を貫きましたね。

定由:初期から細かな調整をアップデートで重ねてきました。私がコピーライティングを提案した際、最初は内容が少しスピリチュアル寄りになってしまったこともありました。ただ、前段でJTのみなさまや初期段階から参画していたSun*メンバーが明確な軸を決めてくださっていたので、ちょっとしたテキストやデザインの意思決定の際にもブレずに一貫したものを作れました。

写真左:定由 諒 Design Pros. UI/UX Designer
写真右:加藤 彰紘 Service Design Pros. Business Designer

デザインファーストの重圧と、技術チームが起こしたブレイクスルー

── 開発実装のフェーズでは、どのような苦労がありましたか?

三角:今回は完全にデザインファーストでした。どのプロダクトもそうですがやはりユーザーに使われなければ意味がないというのはもちろんのこと、今回のようにユーザーインサイトが非常に肝となるプロダクトの体験やデザインの重要性について、田中さんとしっかり認識合わせできていたのが大きかったです。「もしデザイン側がビハインドしたら開発のスケジュールをずらす」という形だったので、開発チームの実装の手が空かないように早く何か開発メンバーに回さなきゃ、というデザイナー側のプレッシャーは結構ありましたね(笑)。

三角 由紀乃 Service Design Pros. UX Designer(VOICES

定由:一般的なプロジェクトではリリースまでの明確な期限が最優先されますし、このプロジェクトでも当然、スケジュールに合わせたスピード感のある進行を心がけていました。しかし、それを前提としつつも、JT様には「定められた期間内で、クオリティを極限まで高めるための模索を決してやめない」という強いスタンスがありました。このプロセスがあったからこそ、品質の最大化にフォーカスできたと思っています。そのクオリティへの挑戦において、開発面での大きな壁となったのが、ホーム画面の「メンタルケアサイクル」の表現でした。「こころとからだの記録」や「コーピングリスト」の連続性を表現するため、当初は要素が回転するUIを計画していましたが、技術的な実装難易度の高さが課題となりました。しかし、その実現が困難だと判明した際、代替案として「横スクロールで一直線に進み、最終地点でさらにスライドするとシームレスに最初に戻るような、疑似的サイクル表現」を着想し、ベトナムの開発チームへとアイデアを投げかけてみたんです。彼らは「それならやれる可能性がある」と受け止めてくれて、そこから細かな仕様調整や検証を重ねて実装までやり切ってくれました。デザイン起点のこだわりに対し、技術チームも一緒になって新しい表現に挑戦してくれて、まさに「チーム全体で作った」という実感が強くあります。

JT 田中様:今回、ベースとなる骨組みを作るフェーズと、そこに情緒感を宿らせるフェーズでデザイナーさんを変更するなど、適材適所で「その領域に最も強みを持つプロフェッショナル」を採用する体制でプロジェクトを進行させていただきました。固定のメンバーにとらわれず、フェーズに合わせて柔軟に体制を最適化できたことが、老若男女問わず、幅広い方にとって使いやすいプロダクトを形にする上で大きなメリットになりました。

道具ではなく「居場所」を作る。グッドデザイン賞に繋がったワンチームの絆

プレスリリース:https://sun-asterisk.com/news/pressrelease/5106/
GD賞受賞ページ:https://www.g-mark.org/gallery/winners/32386

── そのようなこだわりの結果、2025年度グッドデザイン賞を受賞されました。

JT 田中様:私たちの世界観や提供価値を少ない情報量に圧縮し、シンプルにデリバリーできるか。数枚のパネルという限られた表現の中で、何度も試行錯誤を繰り返しました。担当の定由さんと納得がいくまで議論を重ねられたこと、そしてサービスリリースまで真摯に関わり続けてくださったメンバーのみなさまのおかげで、このような結果に繋がったと感じています。

定由:パネル制作に限らず、今回のプロジェクトはデザイン的なものも開発的なものも含めて、すごく密にコミュニケーションをとることができたのが大きかったです。毎日会話をし、ちょっとしたことでもコミュニケーションをとって認識を合わせていきました。大きな進捗があってから報告するのではなく、密なやり取りのなかでお互いに認識を合わせていけたこと。そして、我々がコミットしてやり切ることをJT様に寛容に受け入れていただける土壌があったからこそ、結実したのだと思います。

── 最後に、今後の展望とSun*への期待をお聞かせください。

JT 田中様:今後も『beSelf』のコアコンセプトである「メンタルケアサイクル」の拡張を図っていきたいと考えています。直近では厚生労働省推奨のストレスチェック診断をアプリ内で体験できる機能をリリースしました。 今回、デザイン力を重要視していくなかで気づかされたことがあります。それは、これまでのアプリが「便利な道具」だったのに対し、今回私たちが手掛けたサービスは「ユーザーの居場所を作っている」という立ち位置に近かった、ということです。道具ではなく、居場所を作っていく。ユーザーと事業者側でお互いに大切にしている想いを、どうUIで表現するか――。システマチックなUIだけでは表現できない、言葉にできない「愛着」のようなものがユーザーに伝わってこそ、持続的に使っていただけるのだと実感しました。Sun*には、今後も共に「まだ見ぬデザイン」をカタチにするパートナーであり続けていただけることを期待しています。

加藤:JTの方々とSun*メンバーとのディスカッションを通じて、考える切り口や内容がどんどん磨かれていく感覚があり、非常に刺激的なプロジェクトでした。本当に多くの学びがあり、代えがたい経験をさせていただいたJT様に感謝しています。

三角:近年では、わかりやすい「ユーザー課題」や「ニーズ」はそれに対応するサービスが世に出ていたりと、その深度に差こそあれ何かしらの形で一定の解決手段がすでに世のなかに用意されており、課題解決型の新規事業検討は飽和状態になりつつあると思います。そのなかで、この『beSelf』は従来の課題解決型ではなく、あったらいいなを形にするというアプローチで進めたプロジェクトでした。まだ顕在化していないニーズを仮説立ててものづくりをする、しかも抽象度の高いお題で、という非常に難解で挑戦しがいのあるお仕事をご一緒させていただき、本当に嬉しく思います。

定由:田中さんとはもう2年半ぐらいのお付き合いになり、率直な意見を交わせる環境ができています。現在のSun*のすべてのプロジェクトで同じようなことができるわけではなく、作りきることができる特別な環境がありました。本当に「ワンチーム」として進めることができ、今もそれが続いているというのはとてもありがたいことだと思っています。これからもできる限り、お力になれるように尽力していきたいと思っております。