こんにちは。Sun Asterisk クラウド支援サービスチームです。
業務のデジタル化が進み、システム開発やデータ管理にクラウドを利用する企業が増えています。必要な分だけ利用できる一方、部門やサービスごとの費用を把握できず、想定以上にコストが膨らむケースも少なくありません。
そこで注目されているのが、クラウドの利用状況とコストを継続的に見直す「FinOps」です。言葉を聞いたことはあっても、「具体的にどう役立つのか」「何から始めればよいのか」が分からない方もいるでしょう。
この記事では、FinOpsの基本的な考え方やクラウドコスト管理の課題、具体的な実践手順、注意点について解説します。
- FinOpsの定義と、従来のコスト管理との違い
- 企業のクラウドコスト管理で起こりがちな5つの課題
- 可視化・最適化・継続運用というFinOpsの基本的な流れ
- データ集約からタグ統一、月次レビューまでFinOpsを実践する手順
- FinOpsを進める際の注意点と、ツールで運用負担を減らす方法
FinOpsとは
FinOps(フィンオプス)とは、クラウドの利用状況とコストを可視化し、IT・財務・事業部門が連携して、コストと事業成果のバランスを見直す取り組みです。単なる利用料の削減ではなく、費用の発生元と成果を確認し、投資の妥当性を見極めます。
FinOpsの普及を進める団体「FinOps Foundation」は、FinOpsを「テクノロジーのビジネス価値を最大化し、データに基づくタイムリーな意思決定を可能にし、エンジニアリング・財務・事業部門の協働を通じて財務上の説明責任を生み出す、運用フレームワークであり文化的な実践」と定義しています。
請求額を確認して削減策を検討するだけのコスト管理とは異なり、FinOpsではクラウドを利用する開発・事業部門もコストに責任を持ち、支出が事業価値に見合っているかを継続的に判断する点が特徴です。なお、同団体はFinOpsの対象をクラウドに限らず、SaaSやライセンス、データセンターなどのテクノロジー支出全般に広げています。
クラウドは必要に応じてリソースを追加できる反面、従量課金のため利用料が変動しやすい仕組みです。未使用のサーバーやデータにも費用がかかり、部門ごとにサービスやアカウントが分かれると、会社全体の支出も把握しにくくなります。
FinOpsでは、利用状況を確認し、支出を見直したうえで、運用方法を継続的に調整します。クラウドの利便性や開発速度を保ちながら、コストと成果のバランスを整えることが目的です。
併せて読みたい:業務システムのクラウド化とは?メリットや注意点をわかりやすく解説
企業のクラウドコスト管理における課題

クラウドは必要なリソースをすぐに追加できる一方、利用先や支出額をまとめて把握しにくい面があります。無駄な費用が発生していても気づかないまま、「従量課金だから仕方がない」と処理しているケースも少なくありません。
ただし、利用状況や管理体制を整理することで、見直せる支出もあります。ここでは、企業で起こり得る5つの課題を解説します。
併せて読みたい:開発コストを削減するためのアイデア|効果的に開発費用を抑える手法を紹介
部門ごとにクラウド利用が分かれ全体コストを把握しにくい
部門ごとに異なるクラウドサービスやアカウントを契約すると、請求情報が複数に分かれます。各部門が自分たちの利用額だけを確認している状態では、会社全体で毎月いくら支払っているのか把握できません。
似た用途のサービスを別々に契約していても気づきにくく、契約の重複や予算超過を招く原因になります。
未使用の画像やデータを保存したままにすると料金がかかる
クラウドストレージは、画像や動画、バックアップなどを保存している間、利用量に応じた料金が発生します。不要になった開発用データや古いスナップショットは、業務で使っていなくても保存しているだけで課金対象です。不要なデータが削除されずに蓄積すると、保存容量が増え、毎月の支出も膨らみます。
料金体系や割引プランが複雑で最適化しにくい
クラウドの料金は、サービスの種類や利用時間、データ転送量、保存容量など複数の条件で決まります。継続利用を前提とした割引プランもありますが、契約期間や適用条件が異なり、比較は容易ではありません。
利用状況に合わないプランを選ぶと、割引を受けられないだけでなく、使わない分まで支払うことになります。
管理ルールが不十分でコストの発生元を特定しにくい
タグや命名方法が部門・担当者ごとに異なると、請求データを見ても、どのシステムやプロジェクトで発生した費用なのか特定できません。検証環境と本番環境の区別もつかず、予算超過の原因を調べるだけで時間がかかります。
担当者や利用目的が分からないリソースは、不要でも削除できず、費用が残り続けます。
利用・管理・支払い部門が分かれ責任者が曖昧になりやすい
クラウドを利用するのは開発・事業部門、環境を管理するのはIT部門、料金を支払うのは財務部門という企業もあります。役割だけが分かれ、誰が費用の妥当性を判断するのか決まっていなければ、問題を見つけても対応が進みません。
クラウドを利用する担当者にコストを意識する機会が生まれにくく、見直しが一度きりで終わる原因にもなります。
FinOpsでクラウドコストを最適化する流れ

FinOpsでは、クラウドコストに関する課題を「可視化・最適化(コスト削減)・継続運用」の流れで見直します。費用を削るだけでなく、事業成果とのバランスを保つことが重要です。ここでは、FinOpsを進める際の基本的な流れを解説します。
併せて読みたい:クラウドリフト&シフトとは?違い・メリット・移行方法を解説
利用状況と費用を整理してどこにいくらかかっているか可視化する
最初に、クラウドサービスごとの請求情報と利用データを集め、部門・システム・プロジェクト単位で整理します。月額の合計だけでなく、誰が、何の目的で、どのリソースを使い、いくら発生しているかを確認できる状態にすることが重要です。
費用の発生元を整理すると、予算超過や利用量の急増、未使用リソースなど、確認すべき箇所を絞り込みやすくなります。
不要なデータや契約を見直して無駄なコストを削減する
利用状況と費用を確認できたら、不要なデータや停止していない検証環境、重複した契約などを洗い出します。利用量に対して性能が過剰なリソースは容量やプランを見直し、継続利用するものには利用条件に合う割引プランを検討します。
ただし、一律に削減するのではなく、業務への影響や必要な性能を確認した上で判断することが大切です。
IT・財務・事業部門で継続的にコストと成果を見直す
コストを見直した後は、IT・財務・事業部門が同じデータをもとに定期的に確認する場を設けます。IT部門は技術面、財務部門は予算、事業部門は売上や顧客価値への影響を確認する役割を担います。
共通のデータをもとに、支出が成果に見合っているかを判断します。新たな利用や料金変動も反映しながら、コストの妥当性を定期的に確認します。
企業でFinOpsを実践する具体的な手順
FinOps Foundationは、FinOpsの実践を「Inform(可視化)」「Optimize(最適化)」「Operate(運用)」の3つのフェーズで整理しています。ここでは、この流れに沿って、企業でFinOpsを実践する5つの手順を解説します。
クラウドの請求・利用データを集約する
まずは、利用中のクラウドサービス、契約アカウント、請求先を一覧にしましょう。各管理画面から請求明細と利用量データを出力し、対象期間や通貨、税込・税別の条件をそろえて1か所に集約します。
請求額に加えて、サービス名、アカウント、リソース、利用量まで取得しておくと、後の分類や原因調査に使えます。
部門・サービスごとにタグや命名ルールを統一する
次に、部門名、サービス名、プロジェクト名、利用環境、担当者、費用負担先など、集計に必要な項目を決めます。表記のばらつきを防ぐため、使用できる値や大文字・小文字、区切り記号までルール化することが重要です。
新規リソースへのタグ付けを必須にし、既存リソースにも同じルールを適用すれば、請求データを統一した基準で分類できます。
コストを確認できるダッシュボードと予算アラートを設定する
集約したデータを、部門・サービス・日別・月別で確認できるダッシュボードへ反映します。表示項目は、予算、実績、前月比、利用量、月末の予測額などが基本です。月間予算の80%や100%に達した段階で通知するように設定し、通知先と確認担当者も登録します。
ダッシュボードへ反映することで、想定外のコスト増加を月末前に確認しやすくなります。
未使用データや割引プランを定期的に見直す
月1回など期限を決め、最終利用日や稼働率を基に、停止中の環境、古いバックアップ、不要なデータを抽出します。削除前に担当者と保存期限を確認し、不要と判断したデータや環境だけを停止・削除します。
常時利用するリソースは過去数か月の使用量を確認し、契約期間や利用条件に合う割引プランを比較します。
月次でコストを確認する担当者とレビューの場を決める
最後に、全体集計を担う責任者と各部門の確認担当者を決めます。月次レビューの日程を固定し、予算との差、増加要因、未使用リソース、割引の適用状況、事業成果を同じ資料で確認します。
会議では、対応内容、担当者、期限、見込まれる削減額を記録します。翌月に結果を確認することで、誰が判断し、誰が対応するのかも明確になります。
FinOpsを実践する際の注意点
FinOpsでは、クラウド利用料の削減だけを目的にしないことが重要です。性能や可用性まで過度に抑えると、システムの安定性や開発速度を損なうおそれがあります。削減額だけでなく、サービスへの影響や費用対効果も踏まえて判断します。
ただし、IT部門だけで対応しても、継続的な見直しにはつながりません。財務部門は予算、事業部門は成果、IT部門は利用状況を確認し、共通のデータで判断する体制が必要です。タグや命名ルールがそろっていなければ、ツールを導入しても正確な分析はできません。
最初から全社へ広げず、対象部門やサービスを絞って始める方法が現実的です。削減効果と業務への影響を確認し、ルールを調整してから対象範囲を広げます。FinOpsは一度の見直しで終わらないため、定期的な確認と対応を運用に組み込むことが大切です。
併せて読みたい:クラウドセキュリティとは?最新リスクと対策、サービス選定基準を解説
FinOpsはツールを活用することで運用負担を減らせる
請求データの集約や利用状況の分析、予算との差の確認を毎月手作業で行うと、担当者の負担が大きくなります。複数のクラウドを利用する場合は、異なるデータ形式をそろえる作業も必要です。
主要なクラウド事業者は、標準でコスト管理機能を提供しています。たとえばAWSには「AWS Cost Explorer」や「AWS Budgets」、Microsoft Azureには「Microsoft Cost Management」、Google Cloudには「Cloud Billing」の予算・アラート機能があります。まずはこれらの標準機能で可視化と予算アラートを始め、複数クラウドの一元管理が必要になった段階で専用ツールを検討する進め方もあります。
FinOps向けのツールを使えば、各クラウドの請求・利用データを自動で集め、部門やサービス別のコストをダッシュボードで確認できます。予算超過や利用料の急増を通知するほか、未使用リソースや割引プランの候補を抽出できるものもあります。
これにより、担当者はデータ整理にかかる作業を減らし、費用が増えた原因の確認や対応判断に時間を充てやすくなります。ただし、ツールだけで利用目的や事業成果まで判断できるわけではありません。管理ルールや確認体制を整えた上で、集計・監視を効率化する手段として活用することが大切です。
まとめ
FinOpsはクラウド利用料を単に削減する手法ではなく、利用状況と事業成果を照らし合わせながら、投資の妥当性を継続的に見直す取り組みです。請求・利用データの集約やタグの統一から始め、IT・財務・事業部門が同じ情報を確認する体制を整える必要があります。
ツールも活用すれば、集計や監視にかかる作業を減らし、継続的な見直しに取り組みやすくなります。FinOpsでコストの発生元を把握しても、その原因が業務の進め方やシステム構造にある場合、契約やリソースを見直すだけでは解決できません。
「システム改善の考え方とアプローチ」では、業務プロセス・UI/UX・システム構造の3つの視点と、現場起点で改善する手順を事例とともに紹介しています。システム全体を見直したい人は、ぜひご活用ください。